Places of Comfort & Chic

ムラカミカイエのクリエイティブに 気付きを与える老舗旅館

“Comfort”で“Chic”な場所とはどんな場所だろう?心地の良い音楽とゆったりした時間が流れるカフェ?歴史と情緒にあふれた宿?センスある作品を目にできる美術館?答えは人の数だけあるだろうが、それらはいずれも訪れたものの気持ちを豊かにしてくれる場所に違いない。時代のムードが変わり、豊かさ、贅沢の基準も変わってきた。高級ホテルやレストランなど、いわゆる“ラグジュアリー”とは違う心の贅沢。豊かな時間を過ごせる場所。ここからはそんな場所について、ファッションの第一線で活躍する6人のクリエイターに語ってもらった。彼らにインスピレーションを与える7つの場所は、我々をも大いに刺激してくれることだろう。

Asaba (Shuzenji)
Selected by Kaie Murakami (SIMONE)
時代に消費されない
クリエイティブを考えさせる
ムラカミカイエ

「伊豆の修善寺にあるこのあさばは、525年続いているという日本を代表する温泉宿。友人の紹介で訪れたのですが、この場所での体験すべてが極めてシンプルで本質的、そして徹底した美学への配慮が感じられました。それでいて緊張感とは無縁の心地良さを提供してくれる。日本中どこにもない唯一無二の旅館だと思います。四季を感じさせる美しい庭園、手入れの行き届いた歴史ある和室、さらにはそこで働く人々の細やかな気遣い。デザイナーとして仕事をする中で、デザインとは実用性と美学の調和から生まれるものだと考えているのですが、このあさばでの体験は、日常のあらゆる要素を一つ一つ見定め、極めていくという時代に消費されないクリエイティビティの在り方について気付かせてくれます。SNSの発展と共に、あらゆる物事が視覚情報化され、記号化されている現代のファッションの表層主義へのカウンターとして、目に見えない価値=内的満足感を高めることは、今の贅沢の新たな基準となっているのは明らかですが、この場所はそんな贅沢の不変性を感じさせてくれます。気持ちを豊かにする快適な機能性はもちろん、ヴィンテージやアートを取り扱う際の物語性への意識など、文化としてファッションが学ぶ部分も数多い。トレンドとは切り離されたところで個人の価値観や好みに応じて自己編集し、内面的な充実と美学を追求する生き方、価格やクラス感といった社会的構造や民族間の文化的垣根、手仕事かテクノロジーかといった社会に存在する誰かが作った常識やフレームで切り分けるのではなく、古今東西の文化や文明に目を向け視野や経験を広げ、その枠を取り払うことで、より自由で、より自分に合ったライフスタイルを追求する。それこそがコンフォートでシックであると思いますし、このあさばはまさにそんなマインドを体現する魅力にあふれた場所だと思います」。

修善寺 あさば
静岡県伊豆市修善寺3450-1 0558-72-7000

500年を超える歴史と伝統を感じさせながらも、モダンで洗練された雰囲気をあわせ持つあさば。凛とした空気感を湛えた静謐な空間に流れる時間が本当に心地よい。四季折々の花咲く日本庭園を眺めながら楽しめる露天風呂、設けられた能や狂言の舞台、こだわりの懐石料理に加え、スタッフの細やかな心配りまで、こだわり抜かれたサービスと作りが魅力。厳格な審査を通過した宿のみが加盟できる会員組織「ルレ・エ・シャトー」にも認められている。

ムラカミカイエ
デザイナー/クリエイティブディレクター。SIMONE主宰。ファッション、アート、アウトドアなどさまざまな物事に精通し、その豊富な知識から提案される斬新なアイディアで、ブランドから都市開発まで、国内外の企業のブランディングを多数手がけている。

Edit & Text Satoru Komura

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