MUSIC OTIS BLUE / OTIS REDDING SINGS SOUL OTIS REDDING

優しく心に染み渡る 魂で聴くべきソウルの名作

Otis Reding
Otis Blue / Otis Redding Sings Soul
Released 15th September 1965
Length 32:00
Volt

レコードバーにふらっと一杯のつもりで立ち寄ったのに、あまりに選曲が良いものだから思わず長居してついつい飲みすぎてしまったり、何度も聴いてるアルバムを聴いているはずなのにここまで印象が変わるものなのかと驚かされたり。きっとそんな経験がある人も多いのではないだろうか。数々のレコードバーでも愛され続けるオーティス・レディングの 『Otis Blue / Otis Redding Sings Soul (以下Otis Blue)』は1965年のリリースから実に60年が経とうとしている。こういうクラシックなアルバムだからこそ、良い音で、良い空間でじっくり聴きたいものである。今回はアトランティック・レコーズの75周年を記念して発売された45回転の高音質バージョンで紹介したい。ソウルのレジェン ド、オーティス・レディングは1941年にジョージアで誕生した。貧しい子供時代を過ごしたが、教会で聖歌隊として歌ったりギターやピアノを習いその才能を開花させる。ある日、地元の小さなコンテ ストに自身のバンドを引き連れて参加し たことをきっかけに少しずつ音楽の仕事 が入ってくるようなるのだが、その頃は人種差別により黒人は白人の前で演奏することが難しく黒人専用のナイトクラブを回ることが多かった。その後、彼の憧れでもあるリトル・リチャードが所属していたジ・アップセッターズというバンドに加入、さらには活動を共にしていたジョニー・ジェンキンスをスタックスのスタジオまで車で送り届けた際に自身の歌を披露するチャンスが訪れ、その才能が評価されたことによりソロ契約へと辿り着く。若干21歳でリリースした1964年のデビューアルバム『Pain In My Heart』、セカンドの『The Great Otis Redding Sings Soul Ballads』に続き、3枚目のアルバムとしてリリースされたのが今回紹介する『Otis Blue』だ。この作品が出る前年にこの世を去ったサム・クックへのトリビュートとして、[Change Gonna Come]、[Shake]、[Wonderful World]をカバー。また、ローリング・ストーンズの[Satisfaction]のカバーも必聴で、本家であるはずのミック・ジャガーもそのパワフルなヴォーカルの影響を受けたというほど。またオリジナル曲では今や誰もが知るソウルの大名曲[Respect]や[I’ve Been Loving You Too Long]、[Ole Man Trouble]が収録され彼のソングライターとしての才能に溢れたまさに名盤と呼ぶにふさわしい作品だ。その後も数々のヒットにより成功を収めたオーティスであったが、1967年12月9日に悲劇は起こる。バックバンドを務めていたバーケイズのメンバーとともに、ライブのために自家用ジェットでウィスコンシンに向かう途中で飛行機が湖に墜落。人気絶頂の最中、天才と呼ばれた彼はわずか26歳という若さでこの世を去ってしまった。彼の代表曲のひとつ[(Sittin’ On)the Dog of the Bay]は彼が亡くなった翌月1968年1月に発表され、同名のアルバムも世界中で大きな反響を呼んだ。音楽的な面で彼が与えた影響は計り知れないが、最大の功績のひとつは白人の前で歌いアメリカ音楽界の抱える人種差別の壁を取り払うことに尽力したということでもある。その頃の60年代は黒人公民権運動の勢いも活発な時代であったが、その中心人物でもあったマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されるのがオーティスの死後から約半年後のことで、その1年は社会全体が大きく変化していった時代。その年は音楽界だけでなく社会的にもひとつの時代が終わり、次の未来へと繋がる激動の年とも言えるだろう。ビートルズやストーンズといった白人の音楽をカバーするなど、ソウルの王として音楽に人種の障害は何ひとつとしてないことを示してきたオーティス。どこまでも優しく情熱的で、時に切なく声を絞り出す彼の歌声はいつまでも聴く者の魂を震わせる。ソウルをはじめブラックミュージックはどうしても重い歴史の事実を避けては通れない音楽だと思う。だがその背景があるからこそ、その音楽は私たちの心に突き刺さり、感動を与えるものであり続ける。名盤と呼ばれるアルバムは何度も聴く中で、またここへ戻ってきたという安心感があり、聴くたびに不思議と新しい魅力を発見するものである。この冬は是非、少し特別な気分でバーへ出かけるもよし、改めて聴く「名盤」に心を委ねてみては如何だろうか。

オーティス・レディング
1941年生まれ、ジョージア出身のシンガーソングライター。個性的なヴォーカルと歌唱スタイルで音楽界に多大な影響を与えたソウルミュージックを代表するレジェンドのひとり。数々のヒットを生みその才能を開花させるも、飛行機事故により26歳の若さでこの世を去る。

Photo Takafumi Uchiyama Select & Text Mayu Kakihata

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