Just Feel the Music DESPACIO

いま改めて注目すべき デスパシオ

DESPACIO (デスパシオ)という名を聞いたことがあるだろうか。
LCD SOUND SYSTEMを主催し、ニューヨークを拠点に活動するエレクトロニックミュージックアーティスト、James Murphy(ジェームス・マーフィー)を中⼼に、ロックバンド『soulwax』としても活動するベルギーのDJ デュオ、2manydjsとともに2013年から活動しているプロジェクトがデスパシオだ。楽曲の全てをレコードでプレイするスタイルで、ディスコやアコースティックギターのジャムセッション、⺠族⾳楽に⾄るまでさまざまなジャンルを⾏き来するその多様性に加え、ビートマッチさせているかと思いきや時折静寂を差し込むような遊びも織り交ぜオーディエンスを飽きさせない。そんな彼らのプレイや⾳楽性を⼀⾔で⾔えば、『常に新しい可能性を追い求めている』ということが⾔えるだろう。⽚⼿ひとつで⼿軽に⾳楽が楽しめるいまの時代だからこそ、その場所に実際に⾏かなければ聞けない⾳、できない体験は⼤きな意味を持つ。デスパシオはこの上ない⾳楽体験を届けるエンターテイメントそのものであり、今改めて注⽬すべきクリエイティブな存在であることは間違いない。そんな⾳はもちろん、空間やプレイ、全てにおいて妥協のないパフォーマンスを続ける彼らに、その揺るぎないマインドと、彼らの⾳楽性の根幹部分にある要素について話を聞いた。

未知を歓迎し
⾃由であること

まずデスパシオにおける最も重要な考え⽅や姿勢について改めて聞くと、それぞれがお互いの役割をはっきりと感じているかのように息の合った回答が帰ってきた。「デスパシオの最⾼なところは1年に1、2回の頻度でしかパフォーマンスしないから、その回ごとに特別なエディットやリミックスを作ったりしているところ。デスパシオだけでかけるために⾯⽩そうなレコードを探してセレクトしたりもしているよ(David Dewaele [2manydjs] 以下D) 」。 「いつも『このレコードは絶対知らないだろうな』と思ってかけてもこの2⼈は知ってたりする。稀にだけど2⼈が知らないレコードもあって、それをかけると興奮するんだ(JamesMurphy 以下J)」。「前回マイアミでプレイした時ジェームスから『1⽇⽬にかけたレコードは2⽇⽬にはかけないで!』って⾔われて。しかもそれをDJしてる最中に⾔ってきたんだ(StephenDewaele [2manydjs] 以下S)」。「でもジェームスが⾔ってることは正しいと思う。そうでなければ予定調和のいつもと同じレコードをかけ続けてしまうから(D)」。「まさしくそれが⼤事で、デスパシオのポイントはそこだと思っている。いつも未知と直⾯して、新しい可能性を探っていくことこそが⼤切だと思っているんだよ(J)」。3⼈が競い合うようにお互いを驚かせる⾃由なパフォーマンスを披露することで、デスパシオとしての⾳楽表現は常に進化し、新たな⾳楽性という形で機能し⼈々を魅了していることがわかる。デスパシオのファンや何度もパフォーマンスを体感したことがある⼈たちからすると、例えばChicagoの”I’ma Man”やビートルズの”Here comes the sun”のような、プレイのフックとしてのデスパシオ馴染みの曲が聞けると嬉しかったりもする。常に進化していく⾳楽性を⽬指していく⼀⽅で、こういった部分に対してはある種の葛藤もあるのだという。「”Here comes the sun”に関しては、元々は歌詞にある太陽とフロアのディスコボールを重ねるっていう演出だったんだ。でも⻑い間毎回かけているうちにブロードウェイの劇のお決まりの瞬間みたいになってきて⽬的に反してしまって。そもそもデスパシオの原点である、先鋭で⾃由というアプローチの中で⾒つけた曲が定番になってしまい新しい発⾒が無くなってしまうというもどかしさも感じているんだ(J)」。

「僕たちにとってデスパシオとは、かつての70年代、80年代のクラブ⽂化のように⾳楽に関する全ての要素を⾃分たちで作り上げることのできるスペース。メインステージではかけれないようなレコードでも、デスパシオのサウンドシステムやライティングというものが加わっているからこそ意味を成す。だから定番化しているような曲たちは⾔ってみればアンセム(祝歌)みたいなものなんだよ。僕たちにとってもお客さんにとってもね。でもラスベガスのショーみたいに、”お決まりのエンターテイメント”にならないように気をつけている。常に新しい発⾒をしていたいから、⾏き詰まらないように新しい可能性を⽇々模索しているんだ(D)」。特に⼤規模なフェスティバルでは、エンターテイメントやスペクタクルを常に届けることを求められるので、そこをあえて裏切って引いていくことが⼤事だとも語るジェームス。彼らを象徴するマインドである、⾃由と新たな可能性を⾒出すべく、試⾏錯誤を繰り返し常に新しいパフォーマンスとクリエイティブを追求しているのだ。

⾳を感じるための
空間ディレクション

デスパシオにはしばしば『サウンドシステム』という名前が⼊ることもある。これは彼らの⾳への飽くなきこだわりを表しているとも⾔える。そのことがわかる事例が、今年の4⽉に開催されたアメリカ・ロサンゼルスの世界最⼤級の⾳楽フェス『Coachella (コーチェラ)』。そこでは彼らのパフォーマンスが遺憾無く発揮されていた。デスパシオ⾃⾝がディレクションを⾏った特設会場には、マッキントッシュ製のサウンドシステムが計8台、会場を円を描くように配置。実際に会場の中央でその⾳を聞いてみると、迫⼒がありながらも、⼀切の不快なくダイレクトに⾝体全体へと届く⾳の波に感動を覚える。そしてその⾳に合わせる形で、デザインされたライティングがフロアを照らしていく。これはライティングデザイナーと緻密にミーティングをして、かける曲ごとにライティングも変えていくというこだわりが反映されているのだ。「コーチェラでのサウンドシステムや照明は、10年をかけてたどり着いた⼀種の集⼤成だと感じている。デスパシオが始まった最初の段階では、マッキントッシュのサウンドシステム以外はフロア中央のミラーボールのみの予定だったんだ。それがこの10年の間にいろいろ⾜されて拡⼤していった。空間は基本的にはできるだけシンプルな感じが良いと思っているんだよ。コーチェラの会場は、規模的には僕たちにとっても⼀番今まで⼤きい⼀⼤プロダクションだった。でも幸いなのはライティングチームが僕たちの要求することをちゃんと理解してくれているので、規模は⼤きくても求めているものを光を通して上⼿く表現してくれたんだ(D)」。通常デスパシオのパフォーマンスでは、最初の曲のBPMは80ほどで照明は落とした状態から始まる。そして最後の曲がかかる頃には⾳楽も照明もピークに達する状態になるのだ。ライティングのスタッフと息の合った掛け合いが必要とされる。「ライティングのスタッフがすぐそばにいることはとても⼤事。⽬を合わせられる位置にいることでインパクトのある演出や、⾳楽と融合した照明が可能になるからね(S)」。デスパシオのDJ陣以外にも、チームとしてライティングデザイナーやその他スタッフが⼒を出し合うからこそ、彼らが⼿がける⾳と⼀体化できる空間や時間が⽣まれていく。そのほかにもDJブースはダンスフロアからは⾒えないような仕様にしているなど、削ぎ落とされたシンプルな空間の中でも、フロアで⾳楽やダンスに没頭できる空間づくりとなっているのだ。

⾃由に、そして
ノープランで

ジェームス⾃⾝も度々⽇本を訪れDJを⾏うなど、3⼈ともに⽇本がとても好きだと語ってくれた。⽇本でのツアーの予定はあるのかと聞くと、「⽇本でやれるならどこでもやりたいと思っているよ。直島なんかはいまとてもアツい。札幌の ”Precious Hall(プレシャスホール)”は、実は僕たちがデスパシオを始めた理由のひとつでもあるしね。前に東京でKun (野村訓市)の50歳誕⽣記念パーティーでDJした時はクレイジーだったよ(笑)。僕はてっきり数⼈の友⼈たちがバーに集まって祝うのかと思っていたら、まるでフェスティバルみたいに⼤規模でびっくりしたんだ(J)」。とジェームス。この答えにも彼らのマインドや⼈間性が集約されている気がする。2013年から10年余り、デスパシオとして活動を続けてきた彼ら。特定の場所を持たずに世界各地を転々としながらその⼟地⼟地の⼈々に純粋な⾳楽の楽しさを届けてきた。そんな⾃由なスタイルこそが彼らの真⾻頂であり、これから先もそのスタイルは継続されていくことだろう。「10年前デスパシオを始めた時、まさか10年後のいまも続けているとはまったく思ってなかった。⻑くて2、3年くらいのプロジェクトだろうって考えてたんだ。でも今は⽌める理由がないね(笑)(J)」。「僕にとってデスパシオの良いところはタイムレスな事だと思う。だから10年、いや30年後も続けてやっていると思うよ(D)」。「30年後は83歳だ。今よりも⾳量をかなりあげていかないとね(笑)。この先も⾃由にノープランでやっていくのみだよ(J)」。「そうだね。いつかは武道館でパフォーマンスをしてみたいな(S)」。インタビューの最中にも、それぞれの⾃由で純粋なアイデアが⾶び交う。それぞれが築いてきた確かなアーティストとしての経験の下⽀えはもちろんであるが、彼らのピュアな好奇⼼をお互いに信頼し尊重し合うチーム感が⾃由なクリエイティブを⽣み出しているに違いない。選曲、⾳質、空間、ライティング。そのすべての要素が絡み合い、⾳と⼀体となるまたとない体験。デスパシオが発信する新たな可能性を追求したパフォーマンスからはこれからも⽬が離せない。

EVENT INFORMATION
10⽉20⽇と21⽇の⽇程で⽶マイアミで開催されるフェス『ⅢPoints』にて、2⽇間にわたりデスパシオのパフォーマンスを体感することができる。詳細はデスパシオ、もしくはイベントのInstagramからチェックしてみてほしい。

Despacio Instagram
Ⅲ Points Instagram

Photo Shunya AraiCoordinate Megumi Yamano
Translate Kyoko Fukuda
Text Shohei Kawamura

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