Interview with Yabiku Henrique Yudi

スケートの即興性と コラージュとの親和性

写真左手に見えるのが今回のメインの作品。ビルボードをイメージしたという本作は、ビートルズのライブを見ている観客がコラージュされており、作品横に設置されたランプでトリックを行うスケーターを観客が覗き込むような構図に配置されている。

雑誌や古紙を組み合わせたコラージュをベースに近年は木材やシルクスクリーン、2.5D印刷といった多角的な表現方法で注目を集めるアーティスト ヤビク・エンリケ・ユウジ。自身が敬愛するストリートカルチャーを根幹とし、大胆な色使いや力強い構図で人々の目を奪う彼のスタイルは多くの支持を集め、その活動は作品制作だけでなく雑誌のアートディレクションからヴァンズのイベントディレクションまで多岐に渡る。そんな彼のアイディア、そして創作意欲の根源はどこにあるのか。自身の個展『JARRING HARMONY Supported by VANS』でスケートイベントを開催していた彼に話を聞いた。

古雑誌とスケートからヒントを得た
コラージュという表現方法

心地の良い秋晴れの午後、会場のギャラリー『YUKIKOMIZUTANI』を訪れると忙しなくイベント準備を行う彼の姿が目に入った。個展にスケーターを招致し、トリックを行うという初めての試みを行った彼は、そのために使用するランプやボックスなども自ら制作していたのだ。実際に言葉を交わしてみると物腰や口調は柔らかく、パワフルな彼の作品とのギャップに驚きを隠せない。ブラジル サンパウロで生まれ、11歳の時に日本へ移住、その後服飾学校へ入るもファッションではなく、アートの道に進んだという特異な経歴を持つヤビク。その生い立ちやファッションへの興味こそがコラージュという彼の手法に強い影響を与える要素なのだと語ってくれた。
「僕が生まれたサンパウロは南米最大の都市。人種も日本とは比べ物にならないほど多く、富裕層が住むエリアのすぐそばにはスラム街があるなど、様々なものが混ざり合い、それがわかりやすく目に入る場所でした。そんな生活を経て、11歳で日本に住み始めたのですが、日本語も話せない中、多国籍のサンパウロとは違い日本人しかいない環境に突然身を置くことになり、2つの場所で様々な文化を経験しました。その後、ファッションやスケートカルチャーが好きというシンプルな理由で服飾学校を選びましたが、高校のような単調な日常の繰り返しに耐えられずすぐに退学。そんな時期にハマったのが古紙や古雑誌収集だったんです。その中でも衝撃を受けたのが、昔の『THE FACE magazine』や『PLAYBOY』でした。規制の緩かった当時は戦争や犯罪などシリアスなニュースの次にアートページ、そしてファッションエディトリアルが構成されるなどとにかく混沌としていた。でもデザインとしてまとまっていて強さがある。ファッションを中心にスケートなど様々な雑誌を買い集める中で、この美しい混沌を自分でも表現したいと思ったのがコラージュを始めたきっかけでした。遊びの延長線で始めたコラージュでしたが、いつしか様々な文化が混ざり合ってきた中で育ってきた自分の感覚を一番に表現できるものへ変わっていきました。そうやって出来上がった作品をインスタグラムにアップするうちに、オカモトレイジ君 (OKAMOTO’S) が主催するYAGI エキビションの合同展への誘いがあり、出演を決めたのが今の活動の原点になっています」。

Left 展示会に飾られていた初期の作品たち。様々な要素がミックスされた古雑誌に影響を受け、ニュース記事やファッションビジュアル、広告などを感覚的にコラージュ。最後に完成した作品を見て、それに合うタイポグラフィを置くことで作品として完成させていた。
Right 近年のYabikuの作品では、額縁という平面から立体へと表現の幅が広がる木材が多用されている。元々平面に感覚的にコラージュを行っていた彼にとって、立体造形は計算の連続で今の形に至るには多くの失敗が積み重なったそうだ。
『JARRING HARMONY』
=ノイズの調和

遊びから始まったというコラージュは過去2回の個展でさらに本格化していき、9月20日から開催された本個展はその集大成と呼べるものだった。タイトルは『JARRING HARMONY』。ノイズと調和という一見相反する言葉だが、そこにはどのようなイメージが込められているのだろうか。
「約2年ほど、感情的にも作品的にも焦点の定まらない時期が続いていました。アナログの平面コラージュから立体造形や2.5D印刷などのデジタル処理など様々な表現にチャレンジしながらも、自分の進むべき方向性が見つかりきらず、まさにずっと頭の中でノイズが響いているようでした。そんな中この1年はこの個展に向け、さらにストイックに作品作りを行ったのですが、もがき続ける中で作品が徐々にまとまってきたのがわかってきたんです。それをギャラリーの中に並べてみると不思議と調和しているように見えました。元々僕がコラージュを好きになった理由は、様々な要素が重なり合い額縁に入るとアートとして価値がつく瞬間。今回の個展はギャラリー自体をコラージュしているという感覚で開きました。現代アートのギャラリーでスケートイベントを行うなど、自分のインスピレーションになっているものを組み合わせ、ギャラリーという大きな額縁の中に落とし込む。そうすることで様々な要素が調和した空間作りをしたかった。壁にかかった作品だけではない、会場全体を使った概念的なコラージュを試みています」。

Top 今回の個展では自身の作品にも強い影響を与えたスケートカルチャーをコラージュ以外にもランプやボックスなど様々な手法で表現している。
Bottom 現代アートのギャラリーでスケートイベントを行うのは異例のこと。イベントが始まる直前までランプの固定や壁の補強など、Yabiku自身が何度も確認し作業を行なっていた。
Vansとの協業で再認識した
スケートボードという即興アート

ファッションの他に自身の作品作りに強い影響を与えたというスケートカルチャー。作品を見てみると直接的にスケートボードは描かれないものの、燃える車のコラージュやタイポグラフィの配置など、スケートビデオに見られる演出が随所に見受けられる。今回ヴァンズのサポートのもと実現したイベントでは、多くのスケーターがギャラリーを縦横無尽に走り回っていた。このイベントを通してスケートボードの中にあるアート性に改めて強い衝撃を受けたと彼は語ってくれた。
「今回初めてイベント時のスケーターの招致などサポートという形で個展を手伝っていただきました。そうしてイベントはもちろん、スケーターの方々と交流をしていく中で彼らのクリエイティビティに強い衝撃を受けたんです。ストリートやランプなど限られたスペースを使って、即興で自分のスタイルを作り上げる。自分では想像もできないようなトリックや場所の使い方にアート性を感じるとともに、同じように感覚や即興性を重視してコラージュを行う自分の作品との親和性も強く感じました。彼らが失敗しても反骨精神を持って何度もチャレンジをする姿を見ると、自分の作品の可能性もまだまだ広げられると気持ちを後押しされるような感覚を得られました。それがこのイベントを行った最大の収穫だったかもしれません」。

イベントの際、ランプや壁に傷や汚れをつけながらトリックをするスケーターを見て、まるでやっと作品が完成したように喜ぶヤビクの様子がとても印象的だった。インタビュー中『感覚的』という言葉を何度も繰り返していた彼。作品ではあまり深く考え込みすぎず自身の感覚を頼りに制作を進めるそうだが、話を聞く中で彼が様々なものに影響を受け、考え、試行錯誤を重ねることで今のスタイルが出来上がっていることがよくわかる。頭ではなく、感覚的に制作に向き合えるまで自身の作品に真摯に向き合い、失敗も厭わず様々な表現方法を試みる彼だからこそ、ここまで人々を魅了することができるのだろう。20代の彼が10年後、20年後にどんな作品を作り上げるのか楽しみでならない。

取材日に行われたイベントではプロ・アマチュアを問わず老若男女のスケーターが一同に介しのびのびとトリックを楽しんでいた。傷や汚れがついた壁や自作のランプやボックスはそのまま展示され、新たな彼の作品として表現されている。

ヤビク・エンリケ・ユウジ
1997年ブラジル、サンパウロ生まれ。11歳より日本に移住。2017年よりコラージュを用いた表現活動を開始する。2019年、2021年、2022年に3度個展を行い、先日新たな個展『JARRING HARMONY Supported by VANS』をYUKIKOMIZUTANIにて開催。コラージュをベースにストリートカルチャーをアートへと昇華する彼の手法は東京のアート・ファッションシーンで大きな反響を呼び、現在では、オブジェクトの作成や空間インスタレーションなど、その表現の裾野を広げている。

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