Interview with MILD BUNCH
野村訓市が主催する 東京を代表するパーティー、マイルドバンチ
東京らしい音楽、東京らしい遊び場ってなんだろうか。そのことについて考えていくと、一つのパーティにぶつかった。パーティの名前はマイルドバンチ。野村訓市が友達たちとオーガナイズする不定期のパーティだ。音楽のジャンルも会場も決まっているわけではないが、ミュージシャン、俳優ら著名人からブランドディレクター、グラフィックアーティストら業界人、そして一般の音楽好きまで、開催されるととにかく様々な人を集めてしまう。出演DJも実に多彩。これまでにはマーク・ロンソン、ヴァージル・アブロー、ペギー・グー、アヴァランチーズ、DJハーヴィーなど、海外のド級のアーティストもラインナップに名を連ねたこともある。MIXカルチャーの街、東京を象徴するこのパーティにこそ、東京の魅力が詰まっているのではないか。東京で生き、東京で遊び続ける主催者、野村訓市に話を聞いた。
みんなが混ざって飲んで、
仲良くなるってすごくいい
野村訓市がマイルドバンチという名でパーティをスタートさせたのは2006年、07年頃。それ以前も運営していた海の家「スプートニク」や西麻布のクラブ「イエロー」などでパーティを行っていたが、マイルドバンチと名乗ってのパーティはその頃がはじまりだったという。
「パーティの名前の由来はブリストルのサウンドシステム『ワイルド・バンチ』。あと『荒くれども』と言う意味の西部劇の時代のギャングの名前でもあるんだよね。でも仲間内で『大人になってカッコいい名前って痛い。十代だったら肩がぶつかったら喧嘩になってたけど、大人になった今だったら謝った方が楽っしょ』みたいな話になって(笑)。ワイルドよりマイルドだろ、と思ってマイルドバンチに決めたら、外人の友達にもすげえウケて。ワイルド・バンチのTシャツをオフィシャルで作ってたマイケル・コッペルマンや、ワイルド・バンチのメンバーのDJマイロにその説明を後になってしたら、『すげえくだらないけど、その通りだよ。もう歳とったら楽しくだよな。マイルドバンチっていいよ』って、じゃあこのままやろうかなっていう感じで今に至る感じかな。東京でルバロンがオープンした頃で『明日空いたからやってくれない?』って言われたら『いいよ』っていう感じで最初のうちは毎週くらいやってたな、まだ結婚してなかったし。そのときはEZやマックス、フレイジャーにフランキーとかとばかり。たまに海外の友達のDJが来る時だけ、イエローで年に1、2回やってたかな。忘年会は常に、もう20年以上やってるけど。ビジョンやコンタクトができて、大箱になって部屋数が増えたんで、トランプルームもフロアが3つあったし、DJも人数べるからだんだん出演するDJも増えていった。海の家の時代から回してもらっていた年上の人たちから、俺がしょっちゅうクラブで飲んできて、おもしれえなって思う若い子まで、酒を飲んで声かけてるうちに、雪だるま式に人が増えていった」。
そもそも野村はなぜパーティを始めたのか。その理由について聞いてみると、彼の夜遊びのルーツがあるという。
「夜遊びって、チンケに聞こえるかもしれないけどみんな酔っ払ってるから国籍も年も仕事も関係ないじゃない。俺が高校生ぐらいの時にディスコがクラブになったんだけど、当時クラブで遊ぶのがオシャレってされてて、40歳ぐらいの金持ちとか、遊び好きの兄ちゃんから得体の知れない人までいろんな人がいた。知り合いになって、お金がない時はそれでよく奢ってもらったりしていた。昼間に何やってるかも、苗字もわからない人たちにね。それでクラブで毎週会うんだけど、それがすごい楽しかった。俺は当時はハウスを聴いてたけど、クラブで流れていたテクノにはまったりして、そういうイベントにもたくさん行ったけれど、そのとき思ったのが『ごちゃ混ぜって楽しいな』ってこと。真剣に一つのことをやってる人たちもリスペクトなんだけど、俺がやるならテクノナイトとかで縛るんじゃなくて、誰でも来れて、誰でもどんちゃん騒ぎができるパーティのほうがいいなと。若い子も大人も一緒になって遊べるのって、ほんと街の醍醐味じゃない?でもみんな余裕がなくなって、どんどん世の中がケチになってきたから、それがなくなってきてきちゃった気がするんだよね。お金持ちは日本に増えてるけど、そういう人たちは多分クラブ遊びとかしてなくて、先輩が後輩に奢ってあげたり、連れ回したりっていうのも減ってきたし、金になりそうな人同士でしかくっつかねえみたいなのばっかりで世知辛いし、もうちょっと適当に遊んで、年寄りも若い奴らも楽しいんだったらそっちの方がいいみたいな。そう思ってたからマイルドバンチでは、とにかく年齢もかけるジャンルも違うみんなをぐちゃっと混ぜてやってる」。
他のイベントを見渡してみても、このようにさまざまな人が入り混じるパーティは他にない。マイルドバンチのパーティでは、いわゆる顔の知れた者も普通にフロアで見かける。そんな光景も東京ならではと呼べるのではないか。
「俺はパーティ屋でもないしそれで上がりを出そうとも思ってない。ただクラブ側にいつも頼んでるのはゲストなしでいいから、無制限のディスカウントをくれっていうこと。誰かが遊びに来たいって言ったら、もちろんディスカウントリストに名前を入れるんだけど、みんなに千円は払ってってお願いしてる。それって平等でしょ?セレクティブにもしたくないし。それで俺たちは酒をハンパなく飲むから、クラブはそこで儲けが出るから全部チャラ(笑)。VIPルームで人がふんぞりかえるのも好きじゃないから作らない、みんなが混ざらないからね。身内だけでDJ入れてパーティやっても面白くないんだよ。知らない人と一緒に踊って、一緒に盛り上がるから楽しい。毎年やり続けてている忘年会には、子供もいてクラブも行かなくなったり、ダンスミュージックも分からなくなったけど、年に1回ははっちゃけたいみたいなやつも多く来てくれる。そこで誰かと知り合って友達になる奴らも多いらしい。俺の同級生も来たりするんだけど『いろんな人がいるけど、フランクなノリでいいな』みたいな感想がくるし。気づいたらみんなぐちゃぐちゃに混ざって飲んでて、仲良くなってるっていうのはすごくいいよね、40過ぎて(笑)」。
音楽をミックスするより、
人をミックスしてる
マイルドバンチのパーティで混ざるのはオーディエンスだけではない。それは出演DJも同じこと。
「DJもいつもばらばら。俺がそれぞれにどこかで飲んで知り合って、声かけてた。だからブースが3つあるような大きい箱で最初やる時は、転換する時に前後のDJを紹介したりしなきゃいけないから、俺はあんまり遊べなかった(笑)。でもパーティが終わる頃には結局全員ブースから出ていかないでどんちゃん騒ぎで、友達になるんだよね。ショーケースみたいに、マイルドバンチでのプレイをきっかけに出演してくれたDJに、いろんな違うところから声かかるようになればいいなと思ってる。“リストに名前がない”、“財布忘れた”、いろいろ対応していると忙しいから、フライヤーには名前を載っけてるけど自分で回さないことも多い。でも俺的にはレコードを回して音楽をミックスするより、人をミックスしてる気分なんだよね。レコード回すDJとしたら俺は下の下だけど、人を回すDJとしたら俺はすごいDJだと思う(笑)。クラウドコントロールして、喧嘩も起きないようにして。いいプレイして盛り上げてるDJがいたら次のDJに少し待ってもらったり、酸欠状態になったら水買って来てみんなに配ったり。親切心ももちろんあるけどバイブが切れる方が嫌なのよ。みんなが疲れて動けなくなってくるより水ばらまいて、みんなが踊ってるのを見てニヤニヤしながら酒を飲むっていう方が楽しいんだよね」。
音楽をミックスするより人をミックスする。それこそがマイルドバンチのパーティの核であり、パーティでの野村の役割であり、彼の喜び。訪れた人は皆、音と酒で繋がり、誰と出会うかわからない予想不可能なハプニングを楽しんでいるのだ。これこそ東京のあるべき姿と言えるかもしれない。
マイルドバンチといえばオリジナルデザインのスウェットも欠かせない。これは元々出演DJへのギャラ代わりとして作ったものだという。
「儲けようと思ってないし、儲からないからさ、パーティやる時も出演者には基本交通費くらいしか払えないわけ。だからギャラ代わりに『スウェットでも作ってあげるよ』って作り始めたのがきっかけだったんだけど、そのスウェットが人気になって。デザインがいいとかそういうことより、ただ売ってないものを人は好きなんだと思うけど。『僕も欲しいです』ってよく言われるんだけど『DJしかあげないから、欲しいんだったらパーティでDJしろよ』って言っていて、実際それでDJを始めたやつもいるな。スウェットは毎回24枚しか作らないんだよね。12枚が1ダースで、6の倍数だとオーダーが早いからって理由なんだけど(笑)。『百万出すから売ってくれ』って言われたこともあるけれど、もちろん売らないって断った。なんでも買えちゃう今の世の中で、遊ばなきゃもらえない、お金で買えないものがあるって最高でしょ」。
儲からないのに来てくれる
仲間にもすごい恵まれてる
海外の超有名アーティストが出演することでも知られるマイルドバンチ。今やLOUIS VUITTONのメンズディレクターとして活躍するヴァージル・アブローも海外から出演を熱望した1人だ。
「ヴァージルがオフホワイトで出て来た時に会ったんだけど、俺って格好変わんないから別に服について話したことはないのね。だけどはじめて会った時も、俺のインスタフォローしててマイルドバンチのことも知ってた。ちょうどあいつが来てる時にDJハービーが来たパーティがあったんだけど、『マイルドバンチのスウェットが欲しい』っていうから、『お前もDJだからやるよ』って言ってあげたんだよね。何年か前の忘年会の時は『日本に行くからパーティできないか』って連絡がきて。でもヴァージルってファッションパーティでDJやるとギャラがすごい高いのは知ってたからさ、『一緒にやるのはいいけど、ギャラは払えねえぞ』って言ったら、『ギャラなんかいらない、一緒にやろう。その代わりパーティのスウェット作ってくれ』ってなってね(笑)。シカゴ出身のヴァージルに合わせて、ブルズカラーのスウェットを作ってあげた。選曲もシカゴ縛りにして、コンタクトでやったんだけど、今だに『楽しかった』ってそのパーティの話をしてるよ。その時にDJやってたやつをその後ヴィトンのモデルで起用したりしてたな。本当によく人を見てるよ。ああいうのも面白かったよね。ヴァージル目当てのファッション系の子たちも、普通にクラブの音が好きな人も来て盛り上がったからさ。パリのコレクションの後のパーティでも同じことをやりたいって言って、デザイナーも含めジャイルスとかDJ集めてやってた。自分の打ち上げなのに自分がメインじゃない。でもそういうのって最高だと思うんだよ。ヴァージルは今年も忘年会やりたいって去年から言ってるよ」。
さらに一昨年にはグラミー賞も獲得したあのマーク・ロンソンも出演した。
「ロンソンとは出会った頃からずっとやりたかったんだよね。やっぱりヒップホップの時から、あの人、本当の音楽オタクだから。年末に日本に来ることになったっていうから、やろうよって声かけたんだけど、ギャラがハンパなく高くて。さらにマイルドバンチのパーティに出るためには、五日間ぐらい滞在を延長しなきゃいけなかったわけ。エージェントと話してくれって言うから、エージェントに『ホテルは一晩150ドルまでしか出せないし、ギャラは実はないんだよね』みたいなメールをしたら返事がこなくなって(笑)。怒っちゃったかなと思ってたら、返信が来て『マークがいいって言ってる、自腹で泊まると』って。そうまでして出てくれたんだよね。アメリカに戻ったら、別のパーティで稼げたはずだし、エージェントだってそれで儲かったでしょ。俺の忘年会に出るためにそれが0になったのにやってくれた。その代わりスウェットが欲しいっていうから、ニックスファンのロンソンに合わせて、ニックスのカラーのものを作った(笑)。ペギー・グーは共通の友達から知り合っていつか日本で一緒にやりたいって言ってて。日本に行けるって連絡が来たからギャラはそんなに払えないって言ったのに『いい、わかった、その代わりスウェットが欲しい』って言うからまた作った。みんないい人だよね。仲間にもすごい恵まれてると思う。儲かんないのにね。だけどDJたちもパーティの後は『すげえ楽しかった』、『今日の客はもう最高だった』って。『日本人はめちゃくちゃ酒飲むし最高だ』と(笑)。ペギーともまた絶対やろうって言ってるし、お客さんだって、ディスカウントで入ったやつは『今晩は儲かった』って思ってるはず。どこ行ったってペギー観るのに千円じゃ入れないもんね」。
フラットな関係で、お金じゃないものに価値を見出し、友達同士が集まる感覚で、世界中のスーパースターたちが出演するこんなパーティは、世界的を見渡してみてもそうは見つからないことだろう。
結局は自分が一番楽しい
こんなに旨い酒ってないよ
コロナ禍でパーティもできない中、野村は現在、マイルドバンチの会場となることも多いコンタクト、ビジョンの2つの会場のためにチャリティTシャツを作っているという。
「家賃の足しになれば良いなと思ってね。パーティできねえってみんなイライラしてるけど、終わったときに店がなくなってる可能性もある。現在のお酒が売れないって状況は、クラブにとってはおしまいだから。箱がなくなったら俺らも困るから手伝おうと思って。去年もやったんだけど、今年もやってる。その代わりといっちゃなんだけど再開した暁には俺らで24時間パーティーをやらせてくれって言ってるんだ。それが楽しみで今みんなを口説いてるよ。ブラックアイパッチとヴェルディ、YAGIにクリエイティブドラッグストアにビジョンのデザインを頼んで、コンタクトはアンダーカバーにワコマリア、バルと俺。ちゃんとそこの箱で自分たちのパーティをやってる人たちに頼んでいる。潰すのは簡単だけど、クラブの大箱って作るの大変だから」。
そんなフレンドシップから起きるアクションも東京ならではであり、人と人が繋がるマイルドバンチならではのものと言えるだろう。
最後に野村になぜパーティを続けるのか、という質問をぶつけてみた。
「俺は別に週末にゴルフをやるわけでもないし、ガーデニングするわけでもなんでもない。趣味って言ったら、酒飲んで騒ぐしかない(笑)。そろそろ違う趣味が欲しいけど、結局は自分にとって一番楽しいことだから。どこよりも美味しいお酒が飲めるのはパーティだから。500円くらいのお酒だけど、こんなに旨い酒ってないよ。みんなであちらこちらで騒いでる輪が見えて、ブース入ったらDJは恍惚の顔でプレイしてるんだから。それで酒飲みすぎて、財布の現金はタクシー代もなくなってたりして、結局細かいことは覚えてないんだけど、翌朝にものすごい二日酔いとともに何かすげえ楽しかったっていう記憶の断片は残っているわけ。それが何だったんだ?というのを確認するためにもう一回やんなきゃっていうふうに思うから永遠に飽きずにやってるんだろうな(笑)」。
海外のスーパースターから遊びに来た一般のオーディエンスまで誰もがフラットで、年齢も国籍もジャンルも超えて人と人が繋がり、楽しむ東京ならではのミックスカオス。東京という街の魅力はマイルドバンチというパーティが体現している。
MILD BUNCH
内装集団Tripster主宰であり、編集者、ラジオパーソナリティとしても活躍する野村訓市が主催する東京を代表する不定期のパーティ。ジャンルレスなDJ達と共に東京の夜を盛り上げてきた。ジェームス・マーフィーやマーク・ロンソン、DJハービー、アヴァランチーズなど豪華海外アーティストも多数出演していることでも知られる。
Interview & Text Satoru Komura |