ART Harvest Festival SYOTATSU
和歌山の自然の中で 笑達が描く森羅万象
森羅万象を独自の手法で描く
和歌山県紀美野町の山小屋で土を使いながらプリミティブな絵を描くアーティスト、笑達(しょうたつ)。家の周りにある草木や月日、現れる動物などの自然。そこで営む人間の暮らし。そうした、森羅万象をインパクトの強いタッチで描く笑達だが、5年前までは、京都の路上から始めた似顔絵作家としての活動だけを続けていたという異色の経歴を持つ。似顔絵から自由表現へと変わっていった話から、神秘的な作品に込めた笑達の思いを紐解く。
「地元である和歌山に帰り、ある日、今住んでいる土地を訪れた時、ふいに僕の妻が『私、多分ここに住むと思う』と話し出したんです。妻もアーティストで直感型なので神のお告げみたいな感じでした。それで、元々耕作放棄地で草木が生い茂っていた場所を切り開きそこに住むことにしたんです。作品を作り出したのは、和歌山に引っ越しをする少し前のこと。その土地の地主さん
と会う少し前くらいのタイミングで、ある晩、不思議な夢を見たんです。背中にでっかい木の生えた猪の神様、熊、もののけ姫のシシガミ様みたいな3匹の生き物が現れて相撲をとるという夢。普段、夢をはっきりと覚えているタイプではないんですが、その夢だけは鮮明に覚えていました。その夢のことを翌日にあるイベントで一緒だった友人の音楽家、haruka nakamura君に説明をしたところ、『その夢の絵を描いてみたら』と言われたんです。それまで、僕は一生似顔絵描きでいるつもりだったので、似顔絵ではない絵を描くことは否定していたんですが、その夢の絵は描いてみたくなった」。
土地との直感的な出会いと、不思議な夢が今の作品制作のきっかけとなったことは、まさに神の導きのような運命を感じるエピソードだ。この夢の話は、2018年に兵庫県篠山にあるリズムというイベントスペースにて、haruka nakamuraの演奏と妻の川井有紗の歌とともにライブペイントで9日間かけて1枚を描いた。幅15メートル、高さ3.7メートルの作品を描いたこの時のことを笑達は、「身体中の細胞が沸き立つような、自分の中の扉がバーっと開くような体験だった」と話す。似顔絵から今のような表現の絵画へと作風が変わっていったのは、この時からだという。
今回紹介しているこの“収穫祭”という作品は、木の板に麻の布をしき、その上に土などを中心とした画材を用いて描かれている。これも、今の和歌山での私生活から見えてきたものが作品へと落とし込まれているようだ。「これは麦の絵です。今年、うちの畑で麦を収穫したのですが、その時、鳥も麦を食べに来ていたんです。家の近くはよくカモシカやニホンジカ、猪などの野生の動物もでます。そういう生き物みんなで収穫を祝う絵です。下にいる人間は男女のつもりで、自分と妻でもあります。生命の根源のように男と女、2つが重なって1つができるみたいなことに神秘を感じるので、こういう風に対になっているものはよく描きますね」。
自然からインスピレーションを受けた絵を自然の素材を用いて描くという笑達の表現はどういったところから生まれたのか。「似顔絵を描いていた時から実験で土を使うことはあったんですよ。自分が好きなものといえば、民族博物館とかにあるような古代の世界各国にある文明の出土品。古い民芸品や絵画、彫刻、神様に捧げるための道具など。そういう出土品みたいな絵を描きたいと思っています。土を用いるのもそうした理由です。例えば、洞窟壁画って岩盤に描きますよね。それをしたかった。壁画のイメージで土に描くにはどうしたらいいか?板に麻布を貼って、そこに土を定着させたら良いんじゃないか?という風に色々と試しながら描いています。僕は、大学でグラフィックデザインを学んでいたこともあって、絵を描くための技法を学んでこなかった。僕の技法は邪道と言われるかもしれないけれど、最終的に格好良かったら良いんじゃないかと思っているところもあります」。
この絵を観ると表面のところどころに麻布がはみ出しているのがわかる。麻はしめ縄などでも使われるように古来から神聖な場所で使用される素材。こうした素材も笑達が描く森羅万象の世界を神秘なものにしている。また、笑達は大学でグラフィックデザインを専攻していたきっかけを、「高校時代に雑誌で見かけたフューチュラなどのグラフィティアーティストによる影響」だと話してしたが、彼の作品にどこかストリートのグラフィティアート的な自由さやキャッチーさを感じるのはそうした根底の部分からなのだろう
笑達
1982年和歌山県生まれ。大学在学時に京都の路上で似顔絵を描き始め、そこから18年間似顔絵作家として活動する。2020年より地元和歌山へと帰り、紀美野町の山の上、自分たちで土地を切り拓いた場所に住みながら、そこで感じた自然の営みを絵で表現する。
Interview & Text Takayasu Yamada |