ART & CRAFTS Deer Skin Object MIKIO ISHIGURO

皮膚としての 鹿の原皮本来の美しさ

Clockwise from top
Width 130mm Height 400mm Diameter 120mm
Width 130mm Height 410mm Diameter 130mm
Width 170mm Height 290mm Diameter 170mm
Width 130mm Height 120mm Diameter 80mm
Width 90mm Height 60mm Diameter 60mm
Width 230mm Height 90mm Diameter 200mm
自然でも人工でも
アートでもクラフトでもない

無機質な空間に佇む有機的な作品群。あたかもそこには木々が生い茂り、小動物が遊んでいるかのような情景が空想させられる。これらは、鹿の原皮で石を包み込んだにかわオブジェと、砕いた落ち葉を膠で木に貼り付けた作品だ。近づいてよく見ると、皮の弾力ある質感や傷跡、そして血管跡や少し残った毛までが鮮明に見えてくる。一瞬で「生と死」を考えさせられるこの作品は、雄大な山々や棚田に囲まれた京都の京丹波で制作を行う石黒幹朗が手がけている。本連載のナビゲーターである南貴之は、石黒の作品をこう評する。
「石黒さんの作品は森に置いたとしても、おそらくそのまま森に還っていくだろうなと思うほど自然な仕上がりです。僕は東京を拠点に生活していますが、都市にいると自然や生物を身近に感じることはあまりないですよね。でも石黒さんの作品を部屋においておくだけで、森の中にいるような気持ちに一瞬でさせられるんです。作品になるまでの制作工程は工芸的要素が強いと思うのですが、作品としては工芸の匂いをほぼ感じさせず、むしろアートのように意識や考え方に訴えかけてくる。でも直球のアートでもクラフトでもなく、その中間を漂うような作品であり、僕が今一番好きなタイプの作品です(南)」。

Left 鹿の原皮を石に接着し、“石の皮膚”として原皮に皮膚の機能を再度与えた作品。皮の質感や少しの毛、傷跡や血管跡も残され、鞣し加工などが施されるレザークラフトとは全く違うメッセージ性の強さや原皮ならではの美しさが伝わってくる。
Right 「六」と名付けられたこの作品は、丸太を六面体に削り、砕いた落ち葉を膠で3~4層塗り重ねたもの。鹿が歩く野山の地面や仮想の森を表現しているという。乾燥などで自然に割れた跡はあえて生かし、それぞれの割れ目をつなぎ合わせるように積み重ねるのが石黒のこだわりだ。
一度剥がされた皮に
再び皮膚の役目を与える

アートでもクラフトでもない、曖昧な存在。ましてや特定の用途があるわけでもない。しかしそれこそが自身のものづくりのテーマだと石黒は話す。「何かではなく、何でもないもの。人工物だけど、森にある自然物のようでさえあるもの。そういう存在を生み出したいと思って活動しています。何でもないからこそ、この作品に何かを見出してもらいたいんです。実は僕は兵庫県の西宮という街の育ちなのですが、自然との暮らしに憧れて京丹波に移住しました。山々に囲まれたこの地で、畑作業から草花の強さを学び、毎日見る夕陽の美しさに心奪われる。豊かな自然体験に日々感動しています。そして作品を作るなかで、ふと自然の美しさには太刀打ちができないなとわかったんです。でもそれと同時に、人間だからこそ生み出せる美しさも世の中にはあるとより強く感じるようになりました。だから自然と人が共存するような、森に還っていくような人工物を作りたいと思ったんです。僕が美しいと感じた自然物の一つに鹿の皮がありました。動物の皮膚である皮は、人間が使う道具となるためには鞣しなどさまざまな人工的な加工が施されます。しかし京丹波での生活を送る中で、森の暮らしで受けた傷やシワ、虫刺されの跡さえ残る原皮のプリミティブで透き通るような美しさに魅了されたんです。だから皮本来の、皮膚本来の美しさを伝える表現ができないかと考えました。そうして思いついたのが、あらゆるものを皮で包むことで、一度剥がされた皮に再び皮膚としての役割を与えるという方法。中でも特に気に入っているのが、家の周りで拾った石などに接着して“石の皮膚”として表現することです“。新しく生み出す”というよりは、“自然にあるものを整える”という作業に近い。だから自然や森の中に置くと馴染みますし、一方で人工物でもあるから家の中に置いても違和感がない。そういうものを作りたいと思って日々自然との共存を楽しんでいます(石黒)」。自然と人工、アートとクラフトの垣根を軽々と飛び越え、共生させる石黒の作品。自然と人工を循環するその制作工程と作品が実に美しい。「用途のないもの」と石黒は話すが、「意識に訴えかける、という用途がある」と表現する南の解釈にスーッと納得させられる。

石黒幹朗
兵庫県西宮市出身。自然の中での生活に憧れて京都の京丹波へ移住。鹿の原皮そのものの美しさを追求する作家活動を行いつつ、実用的な革小物を扱う「logsee」というブランドを妻とともに運営している。
https://www.instagram.com/ishiguromikio

南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。4月に新たにオープンさせたフレッシュサービス京都も話題となっている。

Select Takayuki MinamiPhoto Masayuki NakayaInterview & Text Yutaro Okamoto

Related Articles