NEAR MINT TOKYO [経堂]

未体験の食、音楽、お酒が フュージョンされたレストラン

料理をDJする

レアグルーヴのレコードを聴きながら、自家製の煎茶ジントニックとともにニューアメリカン料理を食べる。そんなカオスな組み合わせを聞いてどのような店を想像するだろうか。経堂にある〈NEAR MINT TOKYO(ニア ミント トウキョウ)〉がまさにそれである。店主の渡辺優はフレンチ料理店やブルーノート東京でシェフとして経験を積み、ニューヨークに渡って現地のレストランで働きながら、食べて、飲んで、良い音を聴いて、貪欲に経験を刻んできた。そうしてニューヨークでの5年間の生活を経て、2023年にオープンさせたのが〈NEAR MINT TOKYO〉だ。「定番とマニアックの間のギリギリのラインにある、世にあまり知られていないけど実はいいものを提供することをテーマにしています。料理だとニューアメリカン料理であり、音楽だとレアグルーヴ、お酒だとジンやラムですね。そもそもニューアメリカン料理はフュージョン料理とも呼ばれ、70年代ごろに現れ始めたジャンルです。ヨーロッパや中南米、中東、アジアなど世界各国の伝統料理を自由に組み合わせた新しい料理のことを指し、アメリカの西海岸や東海岸のように様々な人種が入り混じる場所で生まれてきました。ニューヨークにいた頃に出会ったのですが、その魅力に取り憑かれていきました。国は違えど、調味料や発酵など料理には国境を超えて共通するものがあります。その要素を掛け合わせることで、全く新しい料理が生まれることが楽しいです」。渡辺の話を聞いていると、彼はレコード屋で好みの盤を求めて掘るかのように料理の世界を探求し、まるでDJのように料理をリミックスする創作シェフだと気づく。

ニューアメリカン料理の数々。右上から時計回りで、イカ墨のフライドニョッキ、白もつ・白ソーセージ・白いんげんの白ワイン煮、シメサバと紅芯大根のマリネ。
定番とマニアックの
ギリギリのライン

この店がユニークな理由は料理だけでなく、サウンドシステムや流れる曲のセレクトにもある。渡辺はニューヨーク滞在時にサウンドシステムの世界に目覚めたようだ。「知り合いの家にJBLのスピーカーとMcIntosh(マッキントッシュ)のアンプが組まれていて、マイケル・ジャクソンの[Human Nature]のレコードが流れたんです。それまで聴いていた音と全く違い、もはや曲さえ違うと思うほどの衝撃を受けました。その経験があり、周囲にはミュージシャンや音響機器に詳しい人もいたので、いろいろ教えてもらいながら、独学で理想のシステムを作っていきました。お店で今組んでいるのは、JBL 4320のスピーカーにMcIntosh c28とMcIntosh MC2500、THORENS(トーレンス)TD125のターンテーブルです。アメリカを意識した、ビストロ仕様のセットアップにしています。流すジャンルもさまざまで、ラテンジャズやブラジル音楽、モダンソウル、ゴスペルファンク、アンビエント、ブギー、ヒップホップなどです。先ほどの話につながりますが、料理と同じで音楽にもジャンルや国境を超えた共通点があるのがおもしろいですね。料理も音楽も、知っていそうで知らなかった、定番とマニアックの間にあるものを提供したいんです。お客さんに反応してもらい、一緒に楽しみたいですからね」。渡辺はバーで働いた経験も持ち、お酒やカクテルに関する知識も深い。お店に並ぶボトルはジンやラムが多いが、どれも初めて見るようなラベルのものばかりで、それらを求めてプロのバーテンダーも多く来るようだ。「各ジャンルの専門家が来ても納得してもらえるようにすると決めたんです。でも想像以上に大変で、頭がパンクしそうです(笑)」。と控えめに話す渡辺のマニアックさと勤勉さには驚きを隠せない。〈NEAR MINT TOKYO〉に訪れる人は、料理が目的の人もいれば、音楽目的の人、お酒目的の人などさまざまだが、どのような目的であれ予想を超える経験をできることは間違いない。ましてや目的ではなかったジャンルでの感動も待ち構えており、さまざまな経験と感動がフュージョンされるのがこの店の美味しいところだ。

お店の地下には「NIKEMERIO(ニケメリオ / 2軒目利用をスペイン語風にした造語)」と名付けられた隠れ家的空間が広がる。ギャラリーやリスニングスペースとして現在改造中で、ハウスディスコ系のDJが追い求めるMark Levinson(マーク レビンソン)のパワーアンプが目玉として置かれている。

NEAR MINT TOKYO
東京都世田谷区宮坂 3-19-1
@near_mint_tokyo_

Photo Asuka ItoInterview & Text Yutaro Okamoto

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