Jaguarʼs New Innovations
革新を伝統とするジャガーの 新章が始まる
Copy Nothing
= なにもののコピーではない
2024年12月、新しいジャガーのストーリーが始まる。ブランドの再構築と自動車業界のゲームチェンジとして新たな価値を定義したのだ。1935年を起源とするイギリスの名門自動車メーカー ジャガーは、創業者でありカーデザイナーでもあったウィリアム・ライオンズ卿が掲げた理念「CopyNothing(なにもののコピーではない)」を受け継ぎ、革新することを伝統とするスタイルを貫いてきた。それはサイドカーの製造からスタートし、コーチビルダーを経て、「世界で最も美しい車」と称されるEタイプなど革新とともに自動車史のマスターピースを生み出してきた歴史が証明している。そんなジャガーはどのような革新を仕掛けたのか?その皮切りがこのEVのコンセプトカーだ。幾何学的なフォルムと鮮やかなカラーリングがジャガーとして斬新だが、どこかEタイプやXJ-Sを感じさせるような面影もあり、EVとして成立しているのが伝統と革新の力強さを感じさせる。ジャガーをよく知る人ほど想像していなかった姿ではないだろうか。しかしここまでの大胆な変化をすることこそが「ジャガーらしさ」そのものなのである。
2025年からはEV専売メーカーになることを発表しているジャガー。その理由は、現代のジャガーチームが考える理想のデザインを実現するためには“EV”という形を選ぶのがベストだったからだ。時代の流れとともにEV車を開発する自動車メーカーは増えているが、ジャガーがEVを選んだ理由はほかと一線を画している。だからこそこのコンセプトカーのようなユニークなデザインが生まれるのだ。
これは「美しいものは売れる」というジャガーの企業哲学が強く影響している。先ほども触れたが、これまでのジャガーといえばEタイプやXJ-S、XJ-6など滑らかで色気ある流線型が特徴的だ。流線型を現代的なデザインに進化させた新ジャガーの美学には驚かされる。時代によって形は変われど、美しさを追い求めていることに変わりはない。過去の栄光にすがるのではなく、現在の理想を追求するその精神性にこそジャガーブランドのクールさを感じる。
アートに通ずる価値観
今回のコンセプトカーは、12月2日に行われたアメリカ最大級のアートフェスティバルであるアート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2024で世界初公開となった。つまりこの新ジャガーの出現は自動車業界の枠を超え、アートがそうであるように、新たな価値を世に生み出したと言えるのではないだろうか。新車の姿が世に発表されたのは12月2日が世界初だが、予告映像はそれより以前から公開されていた。しかしそこには車の姿は一切映っておらず、ピンクやイエロー、レッド、オレンジなどの鮮やかな原色の世界を、カラフルな装いに身を包んだ人たちが自由に振る舞うという内容だった。「live vivid(鮮やかに生きる)」「delete ordinary(ありきたりをやめる)」「copy nothing(なにもののコピーではない)」といったキーワードが織り交ぜられ、車を見せずしてジャガーブランドの世界観を伝えている手法は斬新だ。ジャガーのクリエイティビティが新たな扉を開けたことは間違いない。
リブランディングの4つの柱
ブランドの象徴であるロゴも今回刷新されているが、新たなロゴやデザインビジョンに込められた意味を補足しておきたい。どのような思いが込められたリブランディングなのかを知ることは、ジャガーが提案した新たな価値を理解するために必要な情報だからだ。まず一つ目はDevice Markと呼ばれ、新しくなったシグネチャーロゴのことを指す。幾何学的なフォルムやシンメトリー、シンプルさを基調とし、モダニズムの力強さを表現している。表記は「JaGuar」と大文字と小文字を組み合わせ、先進性と意外性を示している。二つ目はStrikethroughであり、16本の直線的グラフィックをロゴに組み込んでいる。これにより存在感とオリジナリティを表現している。三つ目はExuberant Coloursだ。ジャガーの新たな価値観とアートとの結びつきを表現するためのカラフルなカラーパレットを準備している。イエロー、レッド、ブルーをはじめとした原色のトーンをベースとし、常にテクスチャーや動きを加えて変化と表情を与えている。今後発表されていくコンセプトカーにはこれらのカラーパレットが使われていくようだ。最後となる四つ目は、ジャガーといえばのリーパーキャットに新たな命を吹き込んだMakers Marksである。常に前進し続ける姿勢を表現した新リーパーは、ブランドとしての卓越性を表現している。JaguarのJとrを組み合わせたモノグラムは、斬新かつ華やかなイメージを抱かせる。これら4つの変化は「Exuberant Modernism(活気あふれるモダニズム)」を表現するための要素であり、Copy Nothingという創業時からの理念を進化させている。
新たなジャガーはまだスタートしたばかりであり、これからもどのように変化し続けるのか、どのような革新を起こすのかと心を躍らせずにはいられない。ジャガーが自動車業界の枠を超えて幅広い文化層から愛されるのは、ファッションやアートなど伝統と変化を愛する世界との親和性が高いからだと改めて気づくリブランディングだ。
新ジャガーをどう捉えるのか
伝統と革新から生まれるデザインとスペック、そしてイギリスの老舗メーカーとして醸し出される品格。ジャガーに魅了される人は数知れず、クリエイターにもファンが多い。ジャガーを愛車としてきたファッションクリエイターの新ジャガーに対する意見を聞いた。
Takashi Kumagai (Stylist)
「映画『12 Monkeys』にステッカーでカスタムされたジャガーが登場するんです。それを見て衝撃を受け、近いデザインで自分が気に入ったXJ-Sを購入したのが僕にとっての最初のジャガーでした。唯一無二のデザインと力強いエンジンが共存していることがジャガーの魅力だと思います。新型はスポーツカーのようなデザイン性でありながらEVなのがかっこいい。一度の充電で700km走るのも頼もしい。東京の人だと長野県へスキーや成田空港への往復ができる走行距離はマストですからね」。
Takay (Photographer)
「ブリティッシュグリーンの77年クーペに乗っているのですが、イギリス車ならではの乗り心地や音、走りの軽快さがジャガーの魅力ですね。新ジャガーのサイズや存在感には圧倒されました。ファッションやアートと融合した表現も印象的です。若い頃にロンドンに住んでいたのですが、ジャガーといえば高級車で、簡単には手を出せないようなエレガントさとアカデミックな匂いを感じる憧れでした。だからこの新型EVも文化人や若い世代のクリエイティブな人たちが乗っていたら素敵ですね」。
Yohei Usami (Stylist)
「ジャガーにはXJR、ダイムラー クーペ、ダブルシックスといったモデルに乗ってきました。この新型ジャガーは伝統的な美学を保ちながら、現代的で全く新しいデザインに驚かされました。このモデルは、エレガントで品格のある所有者にふさわしいラグジュアリーで美しい車だと思います。自動車は、服装以上に個人の特性やライフスタイルを反映する重要な要素であり、単にその日の気分で選択されるものではありません。この新しいジャガーをどの様な人が選ぶのか非常に興味を抱いています」。
Takayuki Fujii (nonnative Designer)
「このデザインでフルEVなのはいいですね。もし今後オーダーメイドができるようになったとしたら、グリーンにベージュのシートを組み合わせたいです。ジャガーの伝統色なのに、実は中身はEVだというのがかっこよくなると思います。EVで高級感のあるものがなかなかないなと思っていたのですが、この新型ジャガーからはラグジュアリーさを感じます。電気自動車に乗る贅沢とは、静かな走りとエアサスペンションの乗り心地にあると思っています」。
Text & Edit Yutaro Okamoto |