THE THINGS Dr.Martens 3 HOLE SHOES

「ドクターマーチンこそ完全無欠な革靴」 野村訓市が語る3ホールの魅力

これが革靴を探す旅の
始発駅であり終着駅
野村訓市

革靴、それも短靴を履かなきゃいけないっていうときが必ずあるじゃない?年柄年中ほぼビーサンとスニーカーだけで過ごす俺にとってそれはとてもとてもかしこまった機会ということなのだけれど。昔はいろいろと履いていたんですよ。そもそも幼稚園のときからローファーか革靴を履かされていたし、小学校のときは編み上げの革のブーツが指定でそれを履いていた。高校になるとみな怒られない程度にクラークスのデザートブーツやワラビーを履いていた。満員電車で足を踏まれるのが嫌だとスチールトウのエンジニアブーツ履く奴もいたな。とにかく昔はいろいろと履いていた。アイリッシュセッターだ、マーチンの8ホールだ、ウェスコだと。アメリカに住んでいたときは向こうの親父にもらったウェスタンブーツだって履いていた。けどね、歳をとってくると面倒臭くなるわけですよ、重くて手入れが必要で、歩くと疲れる靴っていうのが。スニーカーって楽じゃない?軽いし、歩きやすいし、履き潰したら捨てて、また同じものを買えばいい。値段だってたかが知れてる。夏はまた話しが別だ。ここ最近はやたらと暑いし、よく雨が降る。靴下なんか履きたくないし、雨に濡れたスニーカーを履くのは拷問だっていうことでビーサン。濡れるの上等みたいな気概がいいじゃないですか?困るのは場所によってビーサンが禁止だってところがあるくらいで。というわけで年間を通じてほぼビーサンとスニーカーで過ごすようになってしまったわけですよ。スーツを着なきゃいけない時でも大体それで押し通している。

昔、アメリカのアカデミー賞のアフターパーティに呼ばれたことがあった。ヴァニティフェアという雑誌が主催するそのパーティはハリウッドの人たちにとって物凄く呼ばれること自体が名誉あることらしく、みな呼ばれたらビシっとタキシードにボウタイして行くわけですよ。それにお呼ばれしたのね、丁度「犬ヶ島」っていう映画の制作に関わったときに。それでちゃんとブラックスーツ持ってロサンゼルスに行ったんだけれど、はい革靴を忘れました。でね、じゃあ買うかってなったときにバカらしくなっちゃったわけですよ。普段大して履かないのに、なんでたかだか一回のパーティのために余計な革靴を買わなきゃいけないんだと。正装というが、自分にとっての正装でありだろ!と頭の中で勝手な理屈を捏ねて、結局そのとき履いていたヴァンズのオーセンティックで行ったんですよ。オーセンティックは元々がオックスフォードシューズ、短靴のデザインをスニーカーにしたものだしね。スーツ着て、友達とリムジンに乗り込んで出かけていった会場に着くなり、いろんな奴に言われました。「オマエ、スニーカーデキタノカ!ドキョウアルナ」「スニーカーデキタヤツ、ハジメテミタヨ!」だからどうした?という気持ちでいましたが、フォトコールのときだけは靴の中で指を丸めてたけどね、やべーかな~って。でもね、中入って酒飲んでいる内に知り合いの俳優たちがみな「アシガイタイ」「タチッパナシデカワグツハツライ」と愚痴りだして、羨ましがられることになりました。自分たちもスニーカーで来れば良かったと。俺は随分と勝ち誇った顔をしていたと思うよ、そもそもが忘れただけだったんだけど。

でもね、本当は革靴のほうがいい。ちゃんとTPOに合わせるってのは大事で、変わったことして目立つ必要もないし。やっぱり一足は持っていたい、持ってなければならないんですよ。結婚式もそうだけど、特に葬式。故人のために集まるのだが、最後の別れの時くらいちゃんとしていたいじゃないですか?じゃあどうする?どうせならそんなかしこまらなきゃいけない時だけじゃなく、普段使いだってできるような革靴が良くない?だとするとそれはスニーカー並にとまではいわないが、クッション性があって履き心地のいいやつがいい。さらに言うならば、そこそこ買いやすい値段のものがいい。革靴は安くないからね。実はいっとき、オールデンのコードバンの靴をいくつか持っていたことがある。まだ2足くらいは残ってると思うのだが、あれはモノとしてはいい。革の感じがなんと言っても一目見るだけで、「お、オールデンだ」とわかるくらいのいい照りとシワ感がある。だけど、すぐ革底がすり減ってくるし、磨くのは面倒臭いし、何より高い。今じゃいくらするんだか分かったもんじゃないが。というわけで、カジュアルなお値段であって、しかも履き心地が良く、普段履きにもいける、そんな革靴を考えたとき、一足の靴に行き着くわけだ。

ドクターマーチン、3ホール。これが革靴を探す旅の始発駅であり終着駅。これだけあればいいのだ。マーチンはね、もちろん最初はブーツを履いていましたよ。一足目は定番の8ホール。10ホールも履いていたし、12だったか14?なっがいのも履いたことがある。もちろんきっかけはパンクスの出立ちに憧れてですね、手を出したわけです。細身のデニムにマーチンを履く。靴紐がビッシビシに絞り上げられて履くのが良しとされているわけですが、居酒屋で飲み会やるときとかは本当に困ったものです。「え、座敷の席か…。」そうなると脱ぐのも大変だし、会計が終わって次行くぞというときも大変。靴紐を緩めるのもそうだし、足をそもそも入れることすら困難だったり。あぁ急がないとあの子がいっちゃう!なんていうこともあったような気がするような。じゃあマーチン履いていていいことないのかというとそんなことはない。やはり紐を締め上げていくうちに気持ちもシャキっとしたものだし、自分の足の形に馴染むまでは踵あがりに靴づれができて、靴下を血塗れにしたりもするが、その後ははっきりいって無敵です。走れるし、踊れる、最高のブーツだった。だった?過去形になるのには理由がある。歳取ると、もう脱いだり履いたりが億劫過ぎて無理なのよ。昔、マーチン愛好者だった俺の友だちなんて太っちまってもう無理だといっていた。玄関でかがんで紐を締めたりするのがもう不可能だと。マーチンはやっぱりパンク、青春の思い出として卒業しました、なんていう40代がゴロゴロいるわけなのよ、そんなわけで。そこで3ホールだ。いわゆる一番オーソドックスな短靴の形をしたこいつこそ完全無欠な革靴なのです。飛んだり跳ねたりできて、スーツにも合う。短パンに合わせたっていい。俺はもう一生革靴はこれでいいと決めて、それ以外のものをほぼ処分した。トゥの部分が丸くて嫌だという人もいるが、ラストは他にもあるし、ギャルソンから毎シーズンでてるコラボのやつもラストが違って、適度に尖っているので、いわゆる普通の革靴がいいという人にはそっちを薦めるけれど。スーツにも滅茶苦茶合うよ。黄色いステッチだって気にならない。気になる奴は靴墨で黒くしちまえばいい。とにかく一家に一足、お薦めよ。

野村訓市
1973年東京生まれ。編集者、ライター、内装集団Tripster主宰。J-WAVE『Traveling Without Moving』のパーソナリティも早、8年目になる。企業のクリエイティブディレクションや映画のキャスティングなど活動は多岐に渡る。

Illustration T-zuan12:55 – 14:43
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