Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi
カルロ・モリーノの ポラロイドに宿る美学

建築家カルロ・モリーノが1970〜80年代に撮影したポラロイド写真を収録した写真集。自らが設計した室内と家具を背景に、ダンサーやモデルたちを被写体として撮影。女性のポージング、装飾、家具の配置まで緻密に構築された独自の世界観が特徴で、死後発見された1200枚の中から厳選してまとめられた一冊。
自動現像が可能な特殊なフィルムによって、撮ったその場で写真を見ることができるポラロイドカメラ。明るさやピント合わせなど一般的なカメラよりも制御は難しいが、その不完全さや独特な味わい、1枚だけしかプリントが存在しないという希少性、シャッターを押して写真が浮かび上がるまでの数十秒という時間─そんな唯一無二の魅力で、多くの写真家やアーティストたちがこれまでも使用してきた“ポラロイド写真”が今回のテーマだ。
ポラロイドといえば、アンディ・ウォーホル、ヘルムート・ニュートン、ギイ・ブルダンによる写真集も有名だが、その中でも野口が“観るべき写真集”としてリコメンドするのは、イタリア人建築家カルロ・モリーノによる『Polaroids』である。
「まず驚かされるのは『写真だけではない人』がここまで写真のことを考え抜いていたという事実。彼は生涯、建築家として知られながら、自分がデザインした室内や家具を背景に、地元のダンサーたちをモデルにしたポラロイドを撮り続けた。被写体は一貫して“女性”。裸もあれば、そうでないものもある。ただ、主役を張っているのは、身体と同じくらい綿密に設計された『背景』だと思う」。

ウォーホルのポラロイド作品のように、セレブリティをアイコンとして切り撮るのではなく、モリーノは建築家らしく“空間”を組み立て、その中に女性を立たせる。二の腕や脚にまず目が行くような艶っぽさがありつつ、ふと視線をずらすと、頭の後ろに来る装飾、壁紙の柄、家具の配置まで、すべてが計算されているのに気づく。「単なるヌード写真じゃない」と野口は言う。「ファッション写真として見てもおかしくない」。
ポラロイドというメディウム自体にも野口は「写りすぎない魅力がある」と話す。モリーノのこの写真集は、彼の死後に発見された1200枚の写真からセレクトされ1冊にまとめられている。写真集のレイアウトも、ページに1枚で掲載しているものもあれば、4枚など複数のポラロイドを並べて一つのシーンを構成するコラージュ的な見せ方もあり、見どころが豊富である。野口も「ポラロイドは1枚じゃなくて、何枚か並べて観る」ことで面白みが増すと話す。
現代でもポラロイドフィルムは復刻したりと度々話題になるが、野口はそれに対して辛辣だ。かつてプロが使っていた“めくるタイプ”のものと、現在市場に出回っているポラロイドフィルムとの間には決定的な差があるという。昔のポラロイドが持っていた独特の雰囲気は戻っておらず、「今のものをポラロイドフィルムだと思ったら大間違い」とバッサリ。ボディをどれだけこだわっても、肝心の薬剤とフィルムが追いついていなければ意味がない。そんな歯がゆさがにじむ。

野口がこのモリーノの『Polaroids』に出会ったのは、今から20年ほど前。野口自身もその前からポラロイドが好きで、SX-70のような機種で自宅に遊びに来た友人たちを撮影していたこともあり、モリーノのポラロイドに強く惹かれたという。写真史の文脈で語られることの少ない、半ば隠れた存在であることもコレクター魂をくすぐった。実際に野口はモリーノのオリジナルポラロイドを過去に2枚所有していたようで、このほかの写真集や関連本も少しずつ集めていった。
モリーノのポラロイドにおいて興味深いのは、撮影後にポラロイドに手を加えていたということだ。単に写すだけでなく、撮った写真に対してブラシを用いて直接加工し、理想の女性像へと仕上げていた。リアリティはあくまで不完全なもので、後処理によって理想化することで芸術へと昇華する─それがモリーノの哲学である。
理想化された女性の身体、建築的な背景、そしてポラロイドという儚いメディウム。その3つが凝縮された小さなイメージ群は、今見てもどこか新しい。モリーノのポラロイドは、写真技法の巧拙を超えて、「空間をつくる眼」がそのまま写真に移植された稀有な例と言えるだろう。スマホの画面越しにしか写真を見なくなった私たちの目にこそ、この少し奇妙で、エレガントなポラロイドの世界は刺さるのではないだろうか。
野口強
1989年から、スタイリストとして長年国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌や広告を中心に活躍し、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも、写真集は状態を確かめるため実際に書店で確かめてから購入している。
| Photo Masato Kawamura | Interview & Text Takayasu Yamada |












