Interview with Tetsuya Okada (GLOBE SPECS)
GLOBE SPECSの岡田哲哉が アイウエアをかけ続ける理由

世界中のメガネ好きがこぞって足を運ぶ名店 グローブスペックス。メガネ業界において、最も権威があるとされる国際見本市 MIDO(ミド)で世界一を2度も獲得した同店を手掛けるオーナー 岡田哲哉。ヴィンテージから新進気鋭なブランドまで世界中の様々なメガネを知る岡田はなぜメガネに惹かれ続けているのか。
ファッションが常にそばにある
東京 青山での原体験
日本に3店舗を構えるグローブスペックスオーナーの岡田は、広島で生まれ転勤族であった父親の影響で、神戸や横浜、ニューヨーク、そして東京と様々な土地を転々としていたという。その中でも多感な学生時代を過ごした東京・青山での時間が今の岡田を作り上げる大事な時間となったようだ。
「私の家系は割と堅い仕事に就く人が多い家系でした。弁護士や大学の教授など、そういう人が周りに多かったので、自分もいわゆる堅い仕事をしてこれから生きていくんだろうなと。そのような中で、私が学生時代を過ごした東京の青山という場所は、言わば流行の発信地。一時代を築いたVAN JACKETや菊池武夫さんが作られた“MEN’S BIGI”、そして原宿にビームスの1号店がオープンしたのが同じ頃でとても印象に残っています」。日本のファッションの歴史において大切である瞬間を目の前で見てきた岡田。彼にとってファッションとは日常的にあるもの、空気のような存在だった。だからこそ、ファッションを仕事にする考えは無かったという。「仕事は堅いことをして、ファッションはあくまでプライベートで楽しむもの。そう思っていたので、最初に就いた職場は銀行です。ところが実際に働いてみると、全く面白いと思えなかった。これをきっかけに自分は何がしたいのか、様々な選択肢を考えました。辿り着いたのは、目の前の人に喜ばれるような仕事をしたいということ。銀行のように大きな企業を相手にするのではなく、“目の前の人を笑顔にする”、これが私のやりたい事なんだという答えに辿り着きました。そこから転職先にメガネ業界を選んだ理由は、やはり、学生時代を共にしたファッションへの関心と、光学や目の医療的側面を勉強するのが好きだったから。そうやってメガネについての思案を重ねていくと、メガネは顔の中心につけるものなので、良くも悪くも人の印象を大きく変えることができるアイテムだなということに気づいたんです。80年代前半だったんですが、日本ではまだメガネがファッションアイテムとして認知されていなかった時代でした。これだけ印象を変えられるのであれば、ゆくゆくはメガネをファッションとして楽しむことができるんじゃないかという期待を持って、メガネ業界に足を踏み入れました」。
多感な学生時代に肌で体感したファッションの魅力。引き寄せられるように岡田はメガネ業界へ転身した。
そして、岡田の転機とも言える出来事が起こる。
ニューヨークで見た
メガネを楽しむ文化
「私がメガネ業界へ転職した80年代前半、日本でメガネを買う人は視力が悪くなったから、仕方なく買う人ばかりでした。メガネを着けたくて着けているという感覚はなく、あくまで視力補助の道具として。楽しそうにメガネを買いに来る人はほとんどいなかった。視力が悪くなければ買わなくて良いものだったんです。目の前の人を喜ばせたい、メガネをもっと楽しいものであると提案するため、希望を持って転職したこの業界でしたが、可能性をあまり感じられない時期もありましたね。意識を変えることは無理なんじゃないかなって。メガネは役に立つけれど楽しいものなどではない、みたいな雰囲気が社内にもあったと思います。そんな時、確か26歳ぐらいだったと思うのですが、勤めていた会社の海外転勤でニューヨークへ行くことになったんです。日本では突破口が見出せない時期でもあったので、行けば何かが変わるんじゃないかと。いざ行ってみると、やはりお店に来る人や街を歩いている人がみんなメガネというアイテムを楽しんでいました。そこでやっと、日本でもいけるんじゃないかと可能性を感じることが出来ました」。

グローブスペックス
世界のメガネを総合的に
紹介できるような店舗
20代でニューヨーク、30代では別の会社の海外出張でヨーロッパ各地を飛び回り、世界各国のメガネブランド、デザイナーとの交流を深めた岡田。
その土地に根差したメガネへの価値観や日本にはない様々な形状のメガネに触れたことで、それらを総合的に紹介できるようなお店をつくりたいという想いからグローブスペックスを立ち上げたという。
「お店の名前であるグローブスペックスは、地球を意味する「グローブ」と、メガネを意味する「スペックス」を組み合わせた造語です。つまり、世界中から厳選したメガネを取り揃えたお店にしたいという想いを込めました。それはまさに私が体験してきたことであり、私が伝えたいメガネへの価値観です。お店を立ち上げた当時の日本では、若い人をターゲットに安い価格設定をしたメガネ屋さんが少しずつオープンしていましたが、うちのように平均4〜5万円もするメガネを扱っているお店というのはほとんどありませんでした。開店して最初の1週間はお客様があまり来なくて焦りましたが、雑誌で紹介していただいてからは一気に広がっていきました」。
それまでの日本にはない、メガネをファッションアイテムとして楽しむという価値観を提案したグローブスペックス。その勢いは留まる事を知らず、今日では世界中からメガネ好きが集まる名店へと進化を遂げた。
そんなグローブスペックスの店内には、所狭しと数多くのメガネが並んでいるが、岡田が惹かれるメガネとはどんな特徴があるのか。
「うちの場合、メガネについて流行りというのはあまり気にしてないんです。世界中のクリエイターの方はそれぞれ違う視点を持ってメガネに取り組んでいらっしゃるので。そこに純粋に向き合おうと思っています。その中でもユニークな視点を持っているブランドというのが最も大切です。今回紹介する3本のメガネ(P63)は、まさに物作りがユニークかつ唯一無二。メガネにも3〜5年周期でフレームの形などの流行がありますが、1度流行り始めると、様々なブランドで同じようなフォルムのものが出てくるんです。そのジャンル(フォルムやコンセプト)のパイオニアかつ、どんな視点で作られたのか。私がセレクトする上で大切にしているポイントです。出来るだけデザイナーの意思を汲み取りながら、しっかりお客様へ伝えたいと考えています」。

「私たちが日本で最初の取り扱いになるソラモールというブランドです。1950~1970年代に作られていたこのブランドは、当時パリにあるほとんどのメガネ屋さんが扱っていたと言われています。当時の映画や音楽、ファッションのシーンでもかなり支持されていて、多くの著名人が着用していました。その後、廃業してしまったのですが、今回、アラン・ミクリ氏の手によって復刻することになった今後注目を浴びるブランドの一つだと思います」。
「ラピマはブラジル・サンパウロのブランドです。ブラジルの風土や文化、建築からインスピレーションを受けているこの流線的かつ立体的な造形美が美しい。設計が難しすぎるため引き受けてくれる職人さんがなかなか見つからないほど繊細なデザインが特徴で、通常のアイウエア製造では行わないハンドメイドや研磨の工程を多く取り入れることで唯一無二の独自性のある表現を可能にしています」。
「フランスのリヨンで、22年秋に誕生した、ラザール・ステュディオというブランドです。クラシックなデザインに最先端の技術を融合させて、持続可能性を追求する新しいジャンル “ネオレトロ”を生み出しました。このワビサビと名付けられた独自の下地処理と貴金属を重ねてメッキする特殊表面処理を施したメガネには、エックスブリッジと呼ばれる19世紀後半のメガネに見られるディテールをモダンに解釈した特別なブリッジがついています。ヴィンテージアイウエアのように見えて実は、最先端のメガネなんです」。
想像できない
岡田哲哉が
メガネをかけ続ける理由
グローブスペックスの店内で、世界中のメガネを通して、沢山の人の笑顔を見てきた。
流行に左右されることなく、作り手の思想と真摯に向き合いながらメガネを選び続けてきた岡田は、なぜメガネをかけ続けるのか。
「視力の補助以上に自分を表現してくれるアイテムだからですね。私が20代でこの世界に入った頃の日本では、メガネは“仕方なくかけるもの”でした。誰も進んではつけたがらないし、ファッションアイテムでもなかった訳です。でも、お店を始める時に思ったのは、“目が悪くなくてもかけたい”と思えるメガネを提案したいということ。うちに来てくれるお客様の中にはコンタクトで視力を補正しながら、印象づくりや気分のためにメガネを選んで下さるお客様も多くいます。メガネは視力の道具ではなく、自分をどう見せたいかをデザインできる存在になったんです。先ほども話しましたが、メガネってその方のキャラクターをいい意味でも悪い意味でもすごく変えてくれる。その方のライフスタイルとか職業、顔以外の部分がそのメガネにフィットしているかどうかも大事になってきます。極端な話、芸能人の方と堅い仕事をしている人では、提案するメガネは全く違ってくるんです。その人にとってどんなイメージの顔が1番いいのかということを考えて提案するんです。自分にとって正しいメガネを選んだ時、これほど心強い味方になってくれるものはないと思いますよ」。
最後に岡田にとってメガネとは、どんな存在なのかと問いかけた。
「最初に申し上げた通り、ファッションには関心あったんですけど、元々メガネ自体に特別関心があったわけではないんですね。ですが、20代の前半からこの業界に関わって、今ではもう40年ほどが経ちました。そこで思うのは、メガネがすごく自分の人生を面白くしてくれたっていうことです。うちに来るお客様の中には、見え方に課題を抱えている方、目が難しい状態の方もいるんですよ。今までどこのメガネ屋さんへ行っても、うまく見えるようにはならなかったと。そういう方々はうちに来て、“初めてちゃんと見えるようになった”と言ってくれるんです。そのメガネを作ったことで、ものすごく救われたっていう風に言ってくださったんです。今の私にとって、メガネがない人生は想像ができないし、メガネを通して出会うことができたお客様、世界中のブランドやデザイナーがいます。彼らはもう、親友や家族に近い関係です。だから、私にとってメガネとは、すごく自分の世界を開いてくれた。自分の人生をものすごく豊かにしてくれたアイテムだと思います」。

岡田哲哉
海外経験を通じてメガネ文化に触れた豊富な知見をもとに「グローブスペックス」を創業。視力補助だけでなく、個性を引き出す提案を行ってくれる。
| Photo Tomoaki Shimoyama | Interview & Text Jo Kasahara |












