Hand Me Down Watches Go Akimoto (PR, Director)
父の美意識を受け継ぐ 誇りの一本
良い時計は数十年、数百年と時間を超えて長く愛されていく。時を経る過程で誰かから誰かへと引き継がれる時計たち。見知らぬ誰かではなく、大切な人から受け継いだ“おさがり時計”には、鮮明な記憶が刻まれ、宿る思いもいっそう深くなる。その背景にはどんな時間と、どんなストーリーがあるのだろうか。
秋元剛
第58代横綱千代の富士の長男。雑誌「commons&sense」の広告営業兼編集としてキャリアを積んだ後、千代の富士に関わる様々な企画、運営を行う株式会社 秋元を2018年に設立。フリーランスでファッションPR・ディレクターとしても活動。
Classique Triple Calendar Moonphase Ref.4937A (1980s) by Breguet
from Father
「生前、父から受け継いだ時計は何本かありますが、このブレゲは形見分けをしている時に出てきたものです。父はかなりの時計好きで本数も多く所有していたので、遺してくれた時計を家族や親方をしていた時の関取たちと分けたのですが、その中で自分に似合いそうなクラシックなデザインのものを選びました。大銀杏(関取だけが結うことができる髪形)に紋付き袴をまとっている父がこの時計を着けている写真を見つけたので、この時計は現役時代の80年代に購入したものだと思います。父の現役時代、私はまだ幼かったのでほとんど記憶がありません。私の記憶にある、親方として九重部屋を運営している父は、もっとボリュームがあって煌びやかな時計を着けていたので、遺品整理をしていて思いがけずクラシックな時計が出てきた時は驚きましたね。父は美しいものが好きな人で、美術品や骨董品、アールデコ調のインテリアなど、華やかなものを集めていましたが、服や靴はレディメイドのものだとサイズが合わないので、その分時計に凝っていたのではないかと思います。秋元家には成人祝いに時計を贈る風習があり、私もそれ以来時計に興味を持ち集めています。その中でもこの時計は、上品なデザインでありながら、トリプルカレンダーなので実用的でもあり、カジュアルな私服の時とスーツスタイルが必要なビジネスシーンの両方で重宝している1本です。企業の上役の方々とお会いする時にも、この時計が会話のきっかけになってくれます。父から譲り受けた時計であることを話すと『千代の富士さん、素敵なセンスをお持ちだったんですね』と言っていただくことが多く、とても誇りに思います」。
Photo Asuka Ito | Interview & Text Aya Sato |