Gauthier Borsarello (Fursac - Creative Director, Co-Founder & Fashion Director l’etiquette magazine)

レチケットマガジン編集長 ゴーティエ・ボルサレロの腕時計

ゴーティエ・ボルサレロ 1988年、パリ郊外生まれ。2018年にレチケットを創刊し、共同編集長・スタイリストを務める。同年ヴィンテージショップ、ル・ヴィフを16区にオープン。21年にフルサックのクリエイティブディレクターに就任。

フレンチシックを体現する者が選ぶ
ヴィンテージのロレックス

今やモダンなフレンチメンズウエアを牽引する存在となった、ゴーティエ・ボルサレロ。かつてはパリ16区でアメリカンヴィンテージショップ、ル・ヴィフを運営し、現在はパリ発のファッション誌レチケットの共同編集長を務め、撮影スタイリングも自ら手がける。2021年には、フレンチシックを体現するメンズウエアブランド、フルサックのクリエイティブディレクターにも就任。彼の多岐にわたる経歴には、いかに多角的な視点でファッションを見つめ、それをクリエイションへと昇華してきたかがうかがえる。

そんなゴーティエがこよなく愛するのが、腕時計だ。パリ郊外にある彼の自宅を訪ねると、そこに広がるのは山積みのヴィンテージ時計──と思いきや、整然と並んだ腕時計の数は意外にも限られていた。その経歴からするともっと数多くの時計を所有していると思われるかもしれないが、それぞれの時計に対しては驚くほどのこだわりを見せており、そのコレクションがいかに洗練されたものであるかがよくわかる。

「時計に夢中になったきっかけは、15歳のときに手に入れた金メッキのイヴ・サンローランのファッションウォッチ。それは誰かに盗まれたんだけど(笑)、それから時計に取り憑かれて、買っては売るということを繰り返してきた。お金を稼げるようになった頃、一番買っていたのはヴィンテージの服と時計だった。しかし、今はもう自分のスタイルを見つけたので、落ち着いたよ。流行に左右されることもなく、十分に持っていると感じている」と彼は語る。

「もし、今持っている時計の中で一本だけを選ばなくてはならないとしたら?」と尋ねると、ゴーティエが迷わず指を示したのは、ロレックスのオイスター パーペチュアルだった。「スポーツウォッチで防水性も高く、子どもと一緒にお風呂に入れるくらい丈夫。サイズも絶妙で、34mmという大きさは上品さを保ちながら、スポーティな服装にもぴったり合う。ロレックスは元々好きなブランドだし、あまり好きじゃない日付表示もない。ケースは18金の無垢で、経年変化によって、すごくきれいなパティナが形成され、ブロンズのような色合いになっている。軽さも素晴らしい。僕が好きな要素がすべて詰まった、完璧な時計だよ」。

意外にも、この時計を手に入れたのは1年ほど前で、スイスのヴィンテージディーラーMr.Aから購入したという。「実は昔から憧れていた時計ってわけではないんだ。ノーデイトのモデルは探し続けていたんだけど。『君にこれを渡したい』ってMr.Aが出してきてくれたこの時計は、本当に素晴らしい個体だった。まったく研磨されていなくて、裏面には購入時のグリーンステッカーがそのまま残っているほど。ブレスレットは珍しいリベットタイプで、それも気に入ってる。これは90年代のモデル。ロレックスは、ステンレスでは70年代の早い段階でリベットブレスレットをやめたけど、ゴールドでは長く続いていたんだ」。

Oyster Perpetual Ref. 14208 (1996) by Rorex
数あるコレクション中からひとつだけ選ぶとしたらと取り出したのは、90年代のロレックス オイスター パーペチュアル。未研磨の証として裏蓋に貼られた緑のシールは、今もそのまま。時間とともに深まる魅力を物語っている。
スタイルに合わせるものだから
色々な腕時計を集めている

ゴーティエは、「僕にとってはスタイルが何よりも大事だ」と語る。そのスタイル作りは、毎日の服装の選び方にも現れている。彼は、コーディネートを決める際にまずボトムスを選び、その後に靴やジャケットを選ぶ。そして、最後に時計とアクセサリーを決めるという。彼にとって時計は、スタイルを完成させるための最後のピースなのだ。「だから、僕のコレクションはヴィンテージウォッチに限らないよ。新品のものからチープなものまで、エレガントなもの、スポーツ系、楽しいもの、すべて揃っている。例えば、デイトナやサブマリーナーは新品で買ったものだけど、セラミックの質感がとても気に入っている。新しい時計に対する苦手意識はないけれど、丈夫で水にも強く、ストレスが少ないものを選ぶ。ヴィンテージ時計は、今では手に入らないスタイルのものを探す」と語る。

L to R
Field Master Contra by SEIKO
Aquastar Continental by DUWARD
Clarly Gent by SWATCH

そう語りながら見せてくれたのは、ブルガリのディアゴノだ。「ETAムーブメントで精度も高く、デザインも抜群。特にブレスレットが面白くて、第一次世界大戦中のフランスの戦車から着想を得たらしい。発売当時はロレックスの10倍の価格だったんだ。今はそこまで高くないけど、今後きっと値上がりすると思うよ。今が買い時だね。ドラマ『フレンズ』のモニカがこの時計をしてるんだ。だから、あのキャラクターの中では僕はモニカ推し(笑)」。

Diagono Sport Date by BVLGARI
ヴィンテージで手に入れたブルガリ ディアゴノのブレスレットは、フランス軍の戦車から着想を得たデザインであることを検証。ミリタリーの機能美を宿した、静かに存在感を放つ一本。

海に行くならサブマリーナー、ドライブにはデイトナ、90年代のビーチスタイルにはゴールドの時計。ヴィンテージから最新モデルまで見渡しながら、自分のスタイルに合う時計を丁寧に選ぶゴーティエは、すでにほとんど理想のスタイルは揃ったと話す。だが、最近ひとつだけ心を奪われた時計があるという。それがスイスのUBS銀行の刻印入りインゴットウォッチ。純金から作られ、手縫いのブレスレットはエルメス製だ。「もう時計は必要ないと思ってた。でも、見た瞬間に恋に落ちた(笑)。手首につけたときの感覚も最高だった。今までにないスタイルだったから、それも購入理由のひとつだった」。そして、コレクションを完成させるピースとしていつか手に入れたいと語るのは、TUDORのマリーン・ナショナル ブルーダイヤル(ノーデイト)だ。

そんな彼が愛用する時計ケースもユニークだ。ペリカンのハードケースを使用し、腕時計用にカスタマイズされた内装を備えている。「すごく実用的。湿気にも強いし、時計にとって良い環境で保管できる。しかもプラスチック製で目立たないし、高そうに見えない(笑)。いつもこのケースに入れて、金庫にしまってる」。

こちらの黄色のペリカンケースには、主に高級な時計を収納。ロレックスは、裏に「NOT FOR SALE」と自身で刻印したものや、30歳の誕生日に友人から贈られた(本人いわく「自分で選んでないからデイト付き」)モデルもある。ベゼルを外したり、ブレスレットを交換したりと、自分らしくするためのカスタマイズも施している。

ゴーティエがスタイリングを手がける雑誌、レチケットにも、彼のスタイル哲学は色濃く反映されており、その中で時計は重要な役割を果たしている。撮影で使用する時計は、どう選ばれているのだろうか。「ジュリアン・トレトっていう友人が手伝ってくれるんだ。彼は“otottoi.watches”って名前でインスタグラムをやってる。撮影前に『今回はストーンダイヤルの時計がいい』『スポーツウォッチを使いたい』とテーマを伝えて、欲しい時計のリストを渡すと、彼がディーラーを回って集めてくれて、現場には時計とジュエリーがテーブルいっぱいに並ぶんだ。その場で僕がスタイリングして、『このルックは1984年のニューヨークのバンカーだからこの時計』、『これは1985年のマイアミのスポーツマンだからこの時計』って選んでいく。たまに時計ブランドと組むときは、時計中心にスタイリングを考えることもあるけど、基本は服を先に決めて、最後に時計を選ぶね」。つまり、日々ゴーティエが自分自身にしているスタイルの思考を、そのまま誌面に反映しているのだ。「そう。レチケットは、僕のスタイルそのものだから」。

Photo    Shota KameiInterview & Text    Ko Ueoka

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