Places of Comfort & Chic

瀬川誠人に影響を与える 色褪せない様式美ある秘湯

“Comfort”で“Chic”な場所とはどんな場所だろう?心地の良い音楽とゆったりした時間が流れるカフェ?歴史と情緒にあふれた宿?センスある作品を目にできる美術館?答えは人の数だけあるだろうが、それらはいずれも訪れたものの気持ちを豊かにしてくれる場所に違いない。時代のムードが変わり、豊かさ、贅沢の基準も変わってきた。高級ホテルやレストランなど、いわゆる“ラグジュアリー”とは違う心の贅沢。豊かな時間を過ごせる場所。ここからはそんな場所について、ファッションの第一線で活躍する6人のクリエイターに語ってもらった。彼らにインスピレーションを与える7つの場所は、我々をも大いに刺激してくれることだろう。

Houshi Onsen Chojukan (Gunma)
Selected by Masato Segawa (SEEALL)

弘法大師が発見したという言い伝えからその名がついた法師乃湯。上信越高原国立公園内に位置するこの一軒宿は、国の有形文化財に登録されている。足元湧出の2つの風呂をはじめとした3種の風呂が訪れた人々の疲れを癒す。囲炉裏、鹿鳴館風の大浴場など、趣ある建物が日本の風情を感じさせるこの宿。美しい水の流れる上州ならではの料理や清酒が楽しめるのも魅力。温泉好きならずとも一度は訪れ、その無二の時間を堪能してほしい。

時代を経ても変わらない
色褪せない様式美
瀬川誠人

「自分のライフワークである湯巡りをしているなかで訪れた創業1875年の秘湯、法師温泉の温泉宿長寿館。源泉掛け流しの昔ながらの湯治ができる古き良き湯として、温泉好きの間ではとても有名な宿ですので、自然と行き着いたわけですが、長寿館の孤高さは右に出る宿はありません。リゾート化されたホテルのような豪華さを競うような温泉が多い中、この宿は本館、別館、法師乃湯の3つが文化財登録され、昔ながらの湯治場の風景、建築をそのまま残しており、特に底の石の間から直接湧く足元湧出型、源泉距離ゼロの浴槽は自然とのリンクを強く感じます。とても静謐な空間は疲れを取り、同時に変わらない美しいものの姿を示してくれるので、身体、精神ともに快適。シャルロット・ペリアンが感銘を受けたような日本のミニマルな格子や建築様式そのものを体感できる場所です。24時間入浴できるので、夜中に一人で入り、湯の沸く音に耳を澄ませるひとときは純アンビエントでとても洗練された時間です。歴史の変遷を経ても変わらない美しさ、色褪せない様式美は、自分自身がものづくりを行う上でもとても影響される部分。高いクオリティーを保ったものは流行に消費されず、常に人を魅了してかならず残っていく。これだけさまざまな物事にあふれた世界だからこそ、すぐに消費されるようなものではなく、この場所のように引き継がれる濃度と深度を保つようなクリエーションができることを心がけていきたい。長寿館はそんなことを改めて感じさせてくれます。外向きへの発信力が強いものから、より内省的な自分のための贅沢さへのパラダイムシフトが起きている現代。相関的な価値ではなく、自分が本当に好きなものを自由に楽しむ快適性や満足感はこれからのファッションを考える上で鍵となることでしょう。カテゴリーや社会的な位置付けを超えて、自分の生活を自分自身で彩る。僕のアイテムがそんなライフスタイルの支えとなれば嬉しいですし、同時にそれらが長寿館のように長く愛される本物でありたいと思っています」。

法師温泉 長寿館
群馬県利根郡みなかみ町永井 650
0278-66-0005

瀬川誠人
様々なカルチャーからのインスピレーションをデザインの着想源に、国内外の卓越した技術を持つ職人が手がける生地に落とし込んだ丁寧な服作りを行う注目ブランド、シーオールのデザイナー。ショップ、FAARのディレクターも務める。

Edit & Text Satoru Komura

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