Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi

ロックが聴こえてくる エディ・スリマンの写真集

1 “LONDON BIRTH OF A CULT (2005)”
2 “BERLIN (2003)”
3 “ANTHOLOGY OF A DECADE (2011)”
4 “ROCK DIARY (2008)”
箱にサインが入った“LONDON BIRTH OF A CULT (2005)” はエディ・スリマン本人からもらったもの。ザ・リバティーンズの元メンバーであるピート・ドハーティをモデルに撮影された内容。“BERLIN (2003)”は、ベルリンのユースカルチャーや音楽シーンが映し出された1 冊。“ANTHOLOGY OF A DECADE (2011)”は、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアでそれぞれ撮影された写真集が4冊セットになっている豪華版。“ROCK DIARY (2008)”はディオール・オムのディレクターを退任後にスペインで行われた写真展の内容をまとめた1冊となっている。どの写真集もヘルベチカのフォントで統一されており、余白を活かしたミニマルなデザインが特徴だ。
写真も服も世界観が一貫している
こんなデザイナーはほかにいない
野口強

ミュージックバーを特集した本誌とのつながりもあり、当連載の案内人を務めるスタイリスト野口強に、「音楽を切りとった写真集を教えてほしい」という希望を伝えた。返ってきた答えは、「エディ・スリマン」だった。

今年10月に発表された、セリーヌのアーティステック、クリエイティブディレクターを退任するというトピックが業界を震撼させたことは記憶に新しく、“モードの帝王”という異名がつけられるほど、モードファッションにおける彼の輝かしい功績は凄まじい。イブ・サンローランから始まりディオール・オム、サンローラン、そしてセリーヌと、エディが手がけたロックでエレガントなスタイルは、多くの熱狂的なファンを生み出した。だが、エディの才能は服作りだけではない。セリーヌでもほとんどのキャンペーンビジュアルはエディが撮影していたように、写真家としての一面があるのだ。エディは自身が影響を受けた人物として、デヴィッド・ボウイ、ポール・ウェラー、ポール・シムノンを過去のインタビューで挙げているが、そのほかにもここで野口が紹介した写真集 “LONDON BIRTH OF A CULT” でモデルとして依頼したザ・リバティーンズのピート・ドハーティなど、いつも彼にとっての被写体はロックであり、ユースなマインドである。プライベートではインディーズバンドの写真を撮り続けているエディ。「エディの写真は音楽を直球で、そして優れたセンスで捉えている」と野口はいう。そしてその魅力について聞くとこう答える。「一貫したブレない軸があるところじゃないかな。ほとんど若い人しか撮らなかったり、バックステージの写真が多かったりと好きなものばかりを撮っている。それは、エディの作る服とも通じるよね。彼とは、これまでに対談をしたり、日本でショーが開催された時のアフターパーティーだったりで会ったことがあるけれど、自分が魅力的に感じたのは、ストイックで、神経質で、シャイなところだった。服や写真にもそれが出ているなと思う。ブランドが変わってもエディのディレクションだと一目ですぐわかる。写真集のフォントもすべてヘルベチカを使っているけれど、エディが手がけるブランドでも使われるフォントは統一していたり。写真集にもよく出てくるパームツリーやミラーボールなんかも、洋服のデザインやビジュアルに繋がっていたりする。ここまで軸がブレず、世界観の伝え方が優れているデザイナーはエディぐらいなんじゃないかな。エディとの繋がりもあって、昔、自分がやっているスティーロというTシャツのブランドで、プリントTを作らせてもらったことがある。その時に使用したのが、ダイアリーの上にドクロが置かれている写真とギターにユニオンジャックがかけられている写真。エディの写真は、ポートレートももちろん良いけれど、スティルライフも力強く、ランドスケープもいい。単純にいうとセンスがいいということなんだろうね。看板を撮っている写真を見ても切り取り方が絶妙。ほとんどが横位置の写真なんだけれど、要所要所で縦位置を入れたり。エディティングの仕方がファッション的で参考になる」。

エディの写真にも度々登場するスカルだが、こうしたスティルライフは「ロバート・メイプルソープからの影響もあったんじゃないかなって自分は思っている」と野口はいう。2005年には、ロバート・メイプルソープの写真展をエディがキュレーションするという展示をパリで開催したこともあった。写真に対しての熱狂さは、不定期で更新されるオンラインのフォトダイアリー“エディ・スリマン ダイアリー”でも見てとれる。自分の好きな世界観を見続け、表現し続けるというエディの信念のこもったクリエイション。洋服とともにこれらの写真集は後世に多大な影響を与えていくに違いない。

Photo Masato Kawamura Interview & Text Takayasu Yamada

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