Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi
野口強の写真集連載 Part7 ダイアン・アーバス
服装に影響を受けてきた
野口強
ダイアン・アーバスを知らなくても、彼女が撮影をしたあまりに有名な双子の女のの写真を見たことがあるという人も多いのではないだろうか。強烈な個性の持ち主、従来の美とは反する被写体を選び撮影をしたダイアン。コミュニティに入り込み、被写体と真正面から向き合うからこそ撮れる、見たものの胸を掴むようなポートレート。写真家はもちろんだが、ファッションや映画など後世に続く多くのクリエイションに多大な影響を与えた。野口強もそのダイアン・アーバスの代表的な写真集“An Aperture Monographs”を最初に手に取り、衝撃を受けその魅力にのめり込んでいった一人だ。「若い頃はファッションフォトばかりを見ていたから、この写真集を初めて手に取った時はもう衝撃的だった。とにかく被写体の強さがほかの写真家が撮るものとは全く違う。この奇妙なポートレートは後世のフォトグラファーたちにも大きな影響を与えていると思う。明らかにダイアンから影響を受けているな、と思う写真は今でもよく見るけれど、それらはセットアップされた撮影によるもの。彼女がほかの写真家と違うのは本物の人たちの中に入っていって撮り続けていた人だということ。だから、被写体の強さが違うし、距離感や温度感のようなものが多くの写真家たちとは違うよね。撮影だけじゃなくて、普段の生活全てから違うんだと思う。体を張って写真を撮っている。彼女の写真集を見ると怖さはあるけれど、写っている人たちは良い笑顔の人も多いんですよ」。最初はダイアン・アーバスのポートレートの力強さに惹かれた野口だが、その写真を見る視点はスタイリストらしさを感じる。「被写体の格好を見ていくと実はみんなお洒落なんだよね。服の着方、小物の使い方は自分のスタイリングでも参考にすることは多い。雑誌のエディトリアルだと、テーマによっては街でモデルハントをした人をキャスティングすることもあるけれど、プロのモデルに比べて決して完璧な容姿ではなくてもキャラクターが強くて何か惹かれる人をそういう時は探す。そういったキャスティングの時は、ダイアンほど尖った被写体を選ぶことはできないけれど、できるだけテーマに沿ったリアリティが出せるようにキャラクター作りをこれまでも意識してきた。昔ある雑誌で、ブッチャー役のモデルが着るコートにリアリティを出すため豚の血をかけたことがあったけれど、そういうリアリティの追求をしたいとき、ダイアンの写真集をよく見返すことが多いのかもしれない」。野口のアトリエにある書棚には数え切れないほどの写真集が揃うが、その中でもダイアンの写真集は普段からよく目にすることが多いのだという。そして、ダイアンの写真集の数も多い。その理由として、「どうしてこんな写真を撮ったんだろうと気になる写真家は、掘り下げたくなるから」と答える。中には希少な“An Aperture Monographs”の初版第一刷(この第一刷のみにトレンチコートを着た双子の写真“Two Girls in Identical Raincoats, Central Park, N.Y.C.,1969”が掲載されている為、マニアの間で非常に高価となっている)も所有しているほか、マガジンワークをまとめた写真集、ダイアン自身の書棚を記録した“The Libraries”、 伝記本“炎のごとく”など、単に作品集だけではなく、ダイアンがどういうこと考えていたかを知れるような書籍も揃えている。
「関連する本まで読むことでなぜこういう写真を撮っていたのか知っていけることが面白い。最初はポートレートから入っても、自分はダイアンの風景写真が好きということに気付いたりもする。特に好きなのは、クリスマスツリーが写っている写真(Xmas tree in a living room in Levittown, L.I. 1962)なんだけれど、ダイアンらしい寂しい感じが共通していて、人は写っていないけれど人の気配がする。掘り下げて知っていくことで、写真の見方も変わるし、新しい気付きも出てくる。ダイアンのようにもっと知りたいと思える写真家は決して多くないけれど、写真集はそうやって深掘りする面白さもあるんだよね」。
野口強
1989年からスタイリストとして、長年国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌や広告を中心に活躍し、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも写真集は状態を確かめるため実際に書店で確かめてから購入している。
Photo Masato Kawamura | Interview & Text Takayasu Yamada |