Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi

野口強の写真集連載 Part6 三者三様のランドスケープ

1 William Eggleston “Los Alamos (2003)”
2 Robert Adams “WEST FROM THE COLUMBIA (1995)”
3 Lee Friedlander “THE AMERICAN MONUMENT (1976)”

アートフォトといえばモノクロしか受け入れられなかった60年代から、カラーフィルムで写真を撮り続けたニューカラーの筆頭ウィリアム・エグルストン。エグルストンは、1976年にMoMAで初のカラー写真展となる“William Eggleston Color Photographs 1976”を皮切りに業界に大きな影響を与えてきたが、このLos Alamosは、その前にあたる1966年から74年にかけてニューメキシコ州を旅しながら撮影した約2200枚の写真の中から厳選したもの。ロバート・アダムスが、河口が持つ過ぎ去りゆく美しさに魅了されてコロンビア川の河口部を撮影した“WEST FROM THE COLUMBIA”。人知れず素通りされるアメリカ中にある記念碑を12年もかけて撮り続け、写真を用いた追悼をしたリー・フリードランダーによる“THE AMERICAN MONUMENT”など方向性は違うがコンセプトの濃い野口らしいセレクトだ。ページ末尾で紹介している写真は、“THE AMERICAN MONUMENT”から。

風景写真はその視点に人となりが出る
野口強

今回のテーマは、ランドスケープ。一口に風景写真といっても、海や空といった自然を撮っているようなものから街の様子まで様々だ。だからこそ、どういった風景をどういう視点で切り撮るかといった写真家ごとに違う表現の多様性に面白みがある。有名なところでは、アメリカの壮大な自然風景を撮影し続けたアンセル・アダムスが風景写真の筆頭だろう。そんな、ランドスケープ写真の中でも野口が特に気に入っていて、後世にその魅力を伝えていきたいと考えているものは何かを聞くと、次々とフォトグラファーの名前があがる。
「いわゆるランドスケープフォトグラフィーで言えば、アンセル・アダムスやアルフレッド・スティーグリッツのような中心的な写真家はいるけれど、自分が好きなのはこの辺り。大自然の写真よりももう少しだけ街だったり、人の匂いがするようなウィリアム・エグルストンだったり、リー・フリードランダーが撮る写真が好き。とはいえ、自然を撮り続けているロバート・アダムスは特別好きで、以前から欲しいと思って狙っているプリントもあったりする」。
そうして悩みながらも厳選した写真集は、ニューカラーの代表格ウィリアム・エグルストンが1966年から74年にかけてアメリカ南部を旅した写真をまとめた“Los Alamos”、大河と海との合流をテーマにコロンビア川の河口をロバート・アダムスが撮り続けた“WEST FROM THE COLUM BIA”、リー・フリードランダーが12年の歳月をかけて全米を旅しながら、あらゆる記念碑を撮影し続け1冊にまとめた“THE AMERICAN MONUMENT”の3冊。
「エグルストンは有名だから知っている人は多いと思うけれど、今のファッションフォトグラファーにも沢山影響を与えている人だよね。一番有名なものだと、三輪車が表紙の“William Eggleston’s Guide”だと思う。それも良いけれど自分は“Los Alamos”も好き。エグルストンの写真は、ほかの人と視点が違うような構図に驚かされる。ものの見方が違うからこそ、観た人に驚きを感じさせられる写真が撮れるんだろうね。エグルストンの写真は自分の仕事でも、被写体の写真の切り取り方の参考になったりもしているけれど、ロバート・アダムスの写真集に関しては観て癒されるような存在。リー・フリードランダーのこのアメリカのモニュメントを撮り続けている写真集は、昔ニューヨークの古本屋で店主に勧められて、面白いなと思って買ったもの。変わり種だから、一緒にいた友人からは『ほんとにそれ買うの!?』って笑われたけれどね。これをランドスケープと呼んで良いのかはわからないけれど、自分の中ではその枠で見ている。自分たちも海外に行くと、ついこういったモニュメントは目にいくものだから、写真家が惹かれるのもわかる。この3冊の方向性は全然別物だけど、写真家の人となりが出ていると思う」。リー・フリードランダーのモニュメントの写真集のように、どこまでが風景写真でどこからがコンセプチュアルアートのジャンルに属するかなど、細かく考えると取っ付きにくくなるが、野口は自分の視点で写真を楽しんでいる。
「学校の先生ではないから。難しいことは写真家や評論家が語ればいい。写真論も最低限知っていることは写真に関わるクリエイションをする上であった方がいいと思うけれど、結局は自分がその写真を観て好きかどうかだからね」。

野口強
1989年からスタイリストとして、長年国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌や広告を中心に活躍し、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも写真集は状態を確かめるため実際に書店で確かめてから購入している。

Photo Masato Kawamura Interview & Text Takayasu Yamada

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