Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi

野口強が語る ラリー・クラークの写真

巨匠ラリー・クラークの
写真と仕事

1 “Teenage Lust (1983)”
2 “Tulsa (1971)”
3 “Punk Picasso (2003)”
4 “Kids (1995)”

被写体との距離感が近い写真
野口強

セックス、ドラッグ、バイオレンス、ストリートカルチャーなど過激な若者文化をドキュメンタリーで撮り続け、ファッションシーンにも多大な影響を与えている写真家、ラリー・クラーク。今回の写真集連載で、「これまでに仕事をした写真家」というお題を出して名前が上がったのがラリーであった。そんなラリーの写真に、スタイリスト野口強も若い頃から多大な影響を受けてきたという。これまでに2度彼と撮影をしたことがある野口に、ラリー・クラークという写真家について話を聞いた。

「ラリーさんが最初に出した写真集“タルサ”はもう、傑作としか言いようがない。この写真集が発売されたのは1971年のことだけれど、中を見ると1963年から撮り始めた写真が収録されている。自分が生まれる前から今日までの長い間、ラリーさんはずっと家族や友達たちの写真を撮り続けているのだと思うとそのバイタリティには感服する。自分も若い頃からラリーさんの写真に影響を受けていたこともあって、いつか機会があれば一緒に仕事をしたいと思っていた。そういう、一緒に仕事をしてみたい写真家は多くて、これまでもダメ元でいろいろな写真家にコンタクトを取ってきた。有名な写真家は、簡単には仕事を受けてくれない。オファーしても断られて当たり前。だからこそ、やりたい写真家がいれば何度もドアをノックし続けてきた。ラリーさんとは、これまでに2回撮影をしたことがあるけれど、1回目はヒュージ(雑誌)の撮影で、2回目はワコマリアの写真集を作る時。ヒュージの撮影の時は、ラリーさんとは面識がなかったこともあって、ニューヨークの知り合いを通してダメ元で頼んだところ、OKが出た。当時、アメリカのマーファというところが、ほかから移り住んできたアーティストたちで盛り上がっていたこともあり、現地まで行って撮影。被写体には、プロのモデルではなく現地の街でストリートハントした子たちをキャスティング。ラリーさんに撮ってもらうならプロではなく素人の方が良いと思って、その提案は自分からだった。ワコマリアの時は、LAの中でも特に治安が悪い街でメキシカンが住む家に毎日のように通って、その家で撮ったり、スケートパークで撮ったり。ラリーさんは、ぱっと見気難しそうな印象があるんだけれど、『こういうことがしたい』と話すとちゃんと要望にも応えてくれる人。ただ、撮影になるとシャッターは滅多に切らなかった。被写体も素人だから、コミュニケーションをとって、心が開くまで、お互いエンジンがかかるまで時間をかける。納得がいく瞬間が来るまでシャッターは押さないというスタイル。ラリーさんには事前に、『何日間でこれくらいの数のルック数は撮りたい』とノルマは伝えるけれど、エンジンがかからなくて全然撮れない日もある。被写体となるモデルたちと一緒に飯を食って、酒を飲んで遊んで……その合間、いい瞬間が来た時にシャッターを切る。そういうのを見て、ほかの写真家と違うと気付いたことは、モデルとの距離の近さ。写真からもわかるけれど、それが例えカップルを撮っていても被写体との距離感が本当に近い。言葉の壁があるという理由もあるけれど、そうやって被写体との壁を越えるようなコミュニケーションは自分たち日本人だとなかなかできることじゃないと思う」。

カメラとモニターを繋ぎ、そこに居合わせたクリエイターやクライアント全員がリアルタイムに写真を確認しながら撮影するという、現代の日本の撮影プロセスとは全く真逆といえるラリーのスタンス。だからこそ、被写体とのみ真正面から向き合え、ラリーにしか撮れない写真になるのだろう。野口がいっしょに撮影したいと思える写真家にはそういったスタンスを持っている人が多いという。

「頼みたくなる写真家は、ラリーさんみたいなドキュメンタリーを撮れる人か、テリー・リチャードソンやマリオ・ソレンティみたいにグラマラスな写真が撮れる人が多い。せっかくお願いをするなら、どこかで見たことのある写真ではなく、この人にしか撮れない写真、というような強い個性を持つ人に頼みたい。それは、自分がスタイリングをする時も一緒で、ルックを崩せない時でも着せ方を工夫して、自分がやったと思ってもらえるような要素をどこかに加えることは考えているんだよね。そうやって足掻くことで、見る人に伝わる作品にならないと面白くないからね」。

野口強
1989年からスタイリストとして、長年国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌や広告を中心に活躍し、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも写真集は状態を確かめるため実際に書店で確かめてから購入している。

Photo Masato Kawamura Interview & Text Takayasu Yamada

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