Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi
野口強の写真集連載 Part4 日本人作家の濃い写真集
この人だからこそ撮れる写真 野口強
海外の写真家が続いたこの写真集連載。今回は少し趣向を変えて、自国である日本人の写真家にフォーカスを当ててみる。日本の写真家と一括りにいっても数多く、紹介すべき人は枚挙にいとまがない。そんな中でも、知っておくべき写真集はどれかを野口強に聞いたところ、「日本にもたくさん良い写真家はいる。荒木経惟さんや森山大道さん、植田正治さん、細江英公さん……言い出すとキリがないほどいるけれど、折角だからこれまでにみんなが見たり、聞いたりしたことがないような、意外と知られていない人たちを挙げるとこの辺りになるかな。ファッションの仕事をするのであれば、知っておかないといけないような人たちだと思う」と言いながら本棚から取り出したのが、これらの写真集たちである。「この辺りの写真集は、とにかく濃い内容ばかり。石内さんの『水道橋』という写真集は、東京歯科大学からの依頼で校内を撮影した写真が収められた内容。まず、石内さんに依頼した学校側の判断がすごいと思う。歯にまつわる内容だけじゃなく、刺青の入った皮を剥いだものとか、乳児のホルマリン漬けとかも写っていて、一度見たら忘れない力強さがある。石元泰博さんの『シカゴ,シカゴ』は、60年代にシカゴまで行ってドキュメンタリーを撮るというそのバイタリティがすごく、写真を見ると本当に洒落ている。石元さんは『シブヤ,シブヤ』という写真集もあって、それは渋谷の様子を撮った内容だけれど、やっぱりシカゴの方が自分は好きだね」。
こうした写真集を観ていると、被写体の持つ力強さに新鮮で強い衝撃を覚える。また、何年もかけて撮り続けるという写真家のバイタリティには観ていて感服するような気持ちにさえなってくる。「荒木さんにしても森山さんにしてもいつもカメラを持ち歩いている。こんなことを言うと怒られるかも知れないけれど、カメラ小僧がそのまま大人になったような人たち。今回紹介している写真家たちは、実際に会ったことがないからわからないけれど、多分そんな人たちじゃないかな。だから多くの良い瞬間に出会えるのだと思う。それに加えて、写真集の題材が面白いよね。深瀬昌久さんにしてもカラスを撮り続けた『鴉』という写真集のほかにも、『BUKUBUKU』という写真集を出していて、それは自分がお風呂に入っている自撮りを撮り溜めたもの。そういう発想がぶっ飛んでいるよね。今回は日本人の写真家に縛ったけれど、日本人だからこういう写真っていうのではなくて、この人たちだからこそ撮れるっていう写真なんだと思う。作家の人たちは写真を撮り続けていく中で、もっと欲求深くなっていくんだと思う。まさに自分との戦い。それで、撮るときは被写体との戦いという。戦いだらけの仕事。撮れたと思っていても、いざ写真があがってきたら、もっと撮りたい……みたいなのの繰り返しなんだろうね」。
こうした写真集を観て、クリエイターは、なにを学んでいく必要があるのか。野口に聞くとこう答える。「雑誌のエディトリアルでも数十ページに及ぶようなロングストーリーの場合、強いモデルポートレートばかりだとお腹いっぱいになってくる。こういう写真集を観ると写真の構成に緩急があったりする。そういうところが勉強になるし、ロケでもこういう風に撮れたりするのかとか、物撮りの切り取り方のアイディアをもらうことがある。丸々やってしまうと古い感じになってしまうから、こういう写真集から学びながらプラスで今の人たちの考え方を入れていけば、新しいものになっていくと思う。情報はスマホで入手すれば良いけれど、実際の写真集を観ようと思ったらちゃんと本屋に行って観る。それで気に入ったら買えば良いと思うし、本屋に行くことでまた次が広がるとも思う。写真集を開いて紙の状態で観るのとでは伝わるものが全然違うから。古本屋に行けば話好きなスタッフがいっぱいいて、色々と教えてくれもする。マニアックな店だったら、『この人もいいですよ』と知らない人を教えてもらうこともある。石内都さんの水道橋の写真集もそうやって出会ったもの。自分は暇があると古本屋に行ったりするけれど、スタッフとのコミュニケーションだったり、新しいものとの出会いが面白んだよね」。
野口強
1989年からスタイリストとして長年、国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌をはじめ、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも写真集は状態が気になる為に書店で購入している、という。
Photo Masato Kawamura | Interview & Text Takayasu Yamada |