The Craft in a Jacket ensou.

自然にムードが漂うジャケット

Jacket ¥165000 Shirt ¥49500 Pants ¥81400 by ensou.

羽織るだけで、情緒的な雰囲気が立つ魔法のようなジャケットがある。知る人ぞ知るブランドとして、服好きな人たちを魅了し続ける、エンソウのジャケットだ。毎シーズンのように当たり前に存在するジャケットだが、エンソウにとって“象徴”なのだろうか。デザイナーの西川に聞くと、「ないのは想像できなくて、当たり前にある感じ」と答える。西川が目指すのは、鎧としてのジャケットではない。肩パッドで形を固定し、誰が着ても同じ“ビジネススーツっぽさ”に寄せる方法はできる。だが、それは西川が求めるスタイルではない。体型を矯正して「それっぽい男」にするのではなく、着る人の身体に沿いながら、自然に雰囲気が立ち上がるほうへ。威圧的ではなく、風が通るような緩やかな肩まわり。硬すぎても、柔らかすぎてもだめ。ちょうどいい曖昧さを、パターンで掴みにいく。その“加減”に、いちばん神経を使うという。

ドニブレザーが生まれるきっかけを作った実験的なジャケットの1つ。これは通常見えない副資材をあえて見えるようにしたらどうなるのか、という発想で生まれたもの。

「通常はないといけないパーツを極端に外して、極端に少ない部品で作った」というこちらもエンソウ流の遊び心を感じるジャケットだ。

そして、そのジャケットは生活と地続きだ。西川にとってジャケットは、ジージャンやスウェットと同じ温度で着るもの。洗濯機に放り込むし、同じテンションで袖を通す。焼肉屋を避けるような気遣いも、基本的にはない。「汚れても破れても気にしないというか、逆にそうなってもかっこいい」。その言葉は、服を長持ちさせるための美学ではなく、服と共に過ごす時間そのものを肯定する姿勢といえる。毛羽立ち、傷、匂いさえも、暮らしの痕跡として引き受ける。筆者は何年かエンソウのジャケットを着続けているのだが「汚れてもいいと思える」と話した瞬間、西川はそれが「一番嬉しいことかもしれない」と受け取った。作り手が願っていたのは、正しく扱われることではなく、怖がられずに“使い込まれること”だったのだ。

ドニブレザーの名前の由来となった、俳優 ドニ・ラヴァンが出演するレオス・カラックス監督による映画たちと、ジム・ジャームッシュ監督による「ブロークン・フラワーズ」。こうした枯れた印象のする男たちに魅力を感じると西川はいう。

美しく枯れている男たちのレコードたち。こうした音楽もエンソウを構成する重要な要素の1つである。

エンソウの定番として親しまれる「ドニブレザー」も、その延長線上にある。生まれは、テーラードの工程を疑い直す実験の先に立ち上がったものだという。裏地の合わせ方、内側の袋状の作り。よそにないやり方で組み立てながらも、狙いは奇抜さではない。「普段着で着るジャケット」。無理やり作るムードではなく、羽織れば自然に漂うムード。そこで西川が思い描いたのが、ドニ・ラバンという俳優の佇まいだった。彼が実際に着ていたわけではない。ボロボロになっても着続け、人生を抱えて歩くような、あの雰囲気。その象徴として名前を借りた。
名前を与えることは、エンソウの愛情表現でもある。「チェックジャケット」より、「ドニブレザー」のほうが、服のノリが伝わる。最初から人名ありきではなく、作っているうちに「見えてきた」人物像に言葉を探し当てる。その作業は、テーマ決めにも似ている。ぼんやりした心模様から始まり、かけら同士の共通点が見えてきたとき、はじめて“合う言葉”を拾いにいく。言葉は装いの最後の一手であり、印象を決める靴のように、微差でムードを変えるものだ。
ジャケットは比較的長く着続けられる服であるが、西川は「一生もの」という言い方に、どこか嘘っぽさを感じると言う。ファッションには一過性があるし、ブレザーはシンプルだからこそ時代の空気でサイズの“正解”が揺れる。だから目指すのは、永遠ではなく、受け渡しだ。自分が着なくなっても、穴が開いていても、「それがいいんじゃん」と次に回せる服。そのために必要な“最低限の仕立て”だけは、絶対に譲らない。根本はパンクミュージックが好きで「品質なんかどっちでもいい」と言いたくなる自分を抱えながら、それでも仕事としてのクオリティは越えていく。次世代に残していく服でありたいからだ。

みうらじゅんによる、テングとピングー(ペンギンのキャラクター)を掛け合わせたテングーはエンソウなりのユーモアを感じるプロダクトとしていつも身近においているのだという。

エンソウのジャケットは、正装のための道具ではない。日々の作業で膝をつき、地べたに手をつき、汚れる可能性と隣り合わせで生きる生活を少し良くしてくれるものだ。鏡の前で袖を通したとき、「あ、そうそう、これが欲しかったやつだ」と思えるもの。誰が着ても、自然と“ムードある男の人”になれること。汚れも傷も抱えたまま、それでも格好いい。そんな“当たり前”を、エンソウは作り続けている。

Photo  Masato Kawamura (Model)
Ryosuke Hoshina (Products)
Styling  Keisuke Shibahara
Model  EmileEdit  Takayasu Yamada

Related Articles