Modern Craftsmanship of the World

世界から拾い集めた モダンクラフツマンシップあるもの 01

デジタルシフトが進み、便利になっていく現代だからこそ改めて注目されるクラフツマンシップというキーワード。今までのクラフツマンシップは伝統工芸のイメージが強い。しかし、現在はその哲学や技術を大切にしながら、新しい感性を取り入れたクラフトが世界中で生み出されている。世界中のクリエーター達が表現するモダンクラフツマンシップ詰まったプロダクトとはどういったものなのだろうか?

The Elder Statesman

Item: Cashmere Sweater
Place: Los Angeles, USA

Knit ¥308000 by The Elder Statesman (The SAZABY LEAGUE)

作り手の思いが込められた
モダンなラグジュアリーニット

極上のカシミヤと、その高級素材の概念を覆す独創的かつモダンでグラフィカルなデザインやカラフルな色使いが存在感を放つジエルダーステイツマンのニットウエア。最高品質の素材とクラフツマンシップが融合したコレクタブルなプロダクトは、現代における新しいラグジュアリーと言っても過言ではないだろう。また、A$AP NastやAminéといったアーティストを起用したビジュアルは、作り手の温もりを漂わせながらも、そのスタイリッシュな打ち出しが、現代に根ざしたデザインを体現している。そんなブランドを率いるグレッグ・チェイトは、人々の日常に寄り添うプロダクトこそがモダンクラフツマンシップであると言う。

「人々が本当に必要とする、生活の重要な一部となる製品を作っています。チームのひとりひとりのクリエイティビティを追求し、日常のあるゆる物事からインスピレーションを受けている。それはファミリーの成長に伴い、深みを増していくのです。私が特にフォーカスしているのは、原材料や職人技術、そしてそれに適した様々なプロセスですが、手織り機を使って作ることに愛情を注いでいます。そして、長く人に寄り添う良質なプロダクトが、未来のデザインとして朽ち果てることなく受け継がれていく。それが新しい技術であろうと、伝統的な技術であろうと、毎日の生活の中で美しく機能し、緻密に作られていることがモダンクラフツマンシップだと考えることができると思います」。

◯Elder Statesman
https://elder-statesman.com

Devon Ojas

Item: Speakers
Place: New York City, USA




Saturdays NYCの代官山店、渋谷パルコ店に鎮座するカスタムオーディオ。デヴォンとSaturdays NYCがタッグを組んで制作されたスピーカーは、無駄な装飾を削ぎ落とした木製のボディがシンプルな美しさを放ち、世界中のクリエイターたちから注目を集めている。聴くにも素晴らしく、見るにも美しいデザインは、ハンドクラフトの跡が刻まれている。
DIYの精神が生み出す
個性溢れるオーディオ

ニューヨークの『Supreme』、カフェ&レストランが併設した様々な音楽の交流場所である『Public Records』、『Saturdays NYC Tokyo』などの洗練された空間に置かれたスピーカーたち。それらはすべて音響システムデザイナー、OJASの名で活動するデヴォン・ターンブルの手によって生み出されている。ヴァージル・アブローや『JJJJound』を手掛けるジャスティン・サンダースといった気鋭クリエイターも厚い信頼を寄せ、今や世界中の音楽愛好家から支持を集めている。DIYの精神が生み出す独創的なオーディオには機能とモダンデザインが共存している。デヴォンはこう話す。

「現代では3DプリントやCNC加工など、高い加工技術がたくさんあります。オーディオに新しい可能性を生み出すことができるのは、とてもエキサイティングなことだと思います。その一方で、モダンクラフツマンは、消費者を満足させる手の届きやすい価格で、高品質なプロダクトを完成させなければいけません。ヴィンテージオーディオから着想を得た私の作品は、建築などによく用いられる材料で作られており、無駄を削ぎ落としたデザインが特徴です。大量生産では実現できない素材を活かした日常に寄り添うデザインには、DIYの精神が表現されているのです。私にとって最も重要なのは、オーディオ作りへの愛をさらに広め、インスピレーションを与えてくれた世界中の偉大なクラフツマンたちを独自のアイディアでサポートすることなのです」。

◯Devon Ojas
https://ojas.nyc

BODE

Item: Quilted Patchwork Jacket
Place: New York City, USA

ドランカーズ・パス・キルテッドジャケットの背中のディティール。このジャケットの素材となる四角いピースは緑と白の別々のアンティーク生地から作られており、各生地を小さい四角に切り取り、さらに四分円を切り取って、そのパーツを反対の色と組み合わせることで柄の一つの四角が出来上がる。それをきれいに白い糸でステッチして繋ぎ合わせることで一着が出来上がる。各ステッチと四角の縫い目を見れば、この服がどう作られたか想像がつく。職人の努力とスキルで出来上がっているからこそ人間の温かみとアンティーク生地にしかない着心地のよさを感じる。

Jacket ¥228800 by BODE (SUPER A MARKET AOYAMA)
伝統的クラフトのキルティングで
モダンなメンズウエアを作る

エミリー・ボーディが手がけるニューヨーク発のメンズウエアブランドのボーディ。クラフツマンシップをモダンファッションに落とし込んでいるブランドといえば、ボーディがその象徴として名高いだろう。アメリカの伝統的なキルティング、刺繍、手織り、パッチワークなどのクラフトワークは歴史上だと女性の手によってその多くが作られていた。だが、ボーディはその技法を現代のメンズウエアに応用することで、クラフツマンシップをモダンな捉え方でファッションに用いている。ここで紹介しているアイテムはボーディで多用されるキルティングで仕上げられたジャケットである。

特にこのパターンはドランカーズ・パス(Drunkard’s Path)という1880年~1890年代のイギリスの伝統的なパターンをベースとするジャケットで、遠目で見ると大胆なグラフィックのようだが、近くで見ると四角いパッチワークを繋ぎ合わせたことによって完成されていると分かる。キルティングとパッチワークの伝統は、1800年代のアメリカで、切り残しの生地や古い服を再利用して布団や服を作っていた文化から来ている。これらのキルティングのアイテムや手法は代々受け継がれ、様々な記事が組み合わされて行くうちに歴史や作り手のストーリーが重なって行く。そんな魅力がキルティングにはある。ボーディは世界中から個性的な歴史を持つアンティークの生地を集め、それらの生地をパッチワークする。それによって、また新たなストーリーが生まれ、次世代へ受け継がれて行くのである。唯一無二の生地を伝統的なクラフトで仕上げて、メンズウエアに適用することで一点物を作り、その伝統と歴史を継承しながら守っている。

◯BODE
https://www.bodenewyork.com

Ten c

Item: The Parka
Place: Milan, Italy

Parka ¥203500 by Ten c (TNP)
構想3年、制作2年、完成に5年テクノロジーが魅せる究極アウター

「一生着られる服を作る」をコンセプトに実直に服作りと向き合うブランド、テンシー。耐久性に優れたミリタリーウエアを再解釈し、最先端技術で進化させながら現代のライフスタイルに合わせた服作りを行っている。シーピーカンパニーのデザイナーであるアレッサンドロ・プンジェッティと、ストーンアイランドで12年間チーフデザイナーを務めていたポール・ハーヴィーがタッグを組み2010年にスタートした本ブランド。構想に3年、制作に2年と、完成までに計5年を費やしたアウターは、まさに2人の集大成ともいえる究極のプロダクトだ。

ブランドを象徴する本作は、1951年の朝鮮戦争でアメリカ軍が採用していたフィッシュテイルパーカーをベースにデザイン。ファブリックにはOJJと呼ばれるナイロンとポリエステルを超高密度でニットのように編んだ日本製の特殊生地を採用。張りのある、滑らかな質感の素材は、レザージャケットのように着れば着るほど体に馴染み経年変化を楽しめるのも魅力的。味わい深い色味は配色は、2種類の合織を製品染めできる唯一の工場で正確な染色温度で色出しされている。素材、デザイン、シルエット、ディテールの全てが完璧な技術により生み出されたこのプロダクトは、モダンクラフツマンシップと呼ぶに相応しいアイテムだ。

RECOUTURE

Item: Shoes
Place: Tokyo, Japan


Shoes ¥55000 by RECOUTURE [Reference Item]
スニーカーに新たな命を宿す
新世代のクラフツマンシップ

どれだけ大切にしているスニーカーでも、時間が経つにつれ加水分解してしまう。そういった経年劣化で履けなくなってしまったスニーカーを分解して、修繕し、そして再構築するシューズカスタムショップ、リクチュール。そのオーナーであり靴職人の廣瀬瞬が生み出すスニーカーは、新世代のクラフツマンシップが込もったアイテムと呼ぶに相応しいだろう。ここで紹介する彼の熟練した技術が詰め込まれたナイキハリスツイードターミネーターのカスタムスニーカーは、モダンとクラフトが共存するルックスが目を惹く。アッパーはそのままに、高機能なビブラム社製のソールに張り替え、一流ブランドも使用する最高級レザーを使用したコバは美しい曲線を描く。

「私にとってのモダンクラフツマンシップは、世の中にはない新しいものを作ろうという強いマインドを持ちながらクラフトをすることです。だからこそ大量生産のスニーカーでは使わないような素材を使用しています。しかし、カスタムは元々ないパーツを使って作り上げるので、見た目を損なわないように調整をしなければいけません。また独自の加工方法でカスタムを行わなければならないのでバランスがとても重要なんです」。そんな廣瀬稀有なクラフツマンシップは、アディダスが手掛けるプロジェクト、『Campus 80s MakerLab』に選出され、世界最高峰のシューズ生産技術をもつメーカーからも高い評価を獲得している。

◯RECOUTURE
https://recouture.thebase.in

Photo Taijun HiramotoEdit & Text Mikuto Murayama
Shunya Watanabe

Related Articles