HERMÈS

最上級の品質と革新性 エルメスのモダン+クラフツマンシップ

最上級の品質と革新性

モダン+クラフツマンシップという特集を進めるにあたり、真っ先に思い当たったブランドがエルメスだ。1837年創業という長い歴史の中で、常に職人の手しごとを尊重してきたエルメス。エルメスと聞けば、誰しもがクオリティの優れた最高級のメゾンであると認識しているだろう。しかしこのメゾンの魅力は、質実剛健なものづくりだけではなく、時代とともに進化し続け、モダニズムを体現してきたということにもある。創業当初は馬具を専門とした工房から始まったエルメスが、クラフツマンシップとモダンな感覚を持って世に出したオブジェは数々あるだろう。エルメスの代名詞である「ケリー」や「バーキン」の原型である「オータクロア」、息を呑む柄や色が魅力のスカーフ“カレ”、最近ではアップルウォッチエルメスやAirTag用のケースなど枚挙にいとまがない。今では当たり前となっているが、メゾンブランドで初めてスニーカーを作ったのもエルメスである。

そんな、エルメスのクラフツマンシップと進化を知ることができる漫画として、1997年に描かれた竹宮惠子による「エルメスの道」にも触れておきたい。エルメスの創業者であるティエリ・エルメスの幼少期である18世紀初頭から漫画を製作した当時の1996年まで、エルメスの輝かしい歩みを描いた内容である。この漫画は、「エルメスの社史を日本の漫画で表現してほしい」という当時の社長であるジャン=ルイ・デュマによるオファーであったのだが、それまで社史を記した公式の書物がない中、漫画で表現という斬新なアイディアには驚かざるを得ない。いかにしてエルメスが現在のトップメゾンとなったのか、バッグ「ケリー」やカレなど数々の名作の誕生秘話などが美しいイラストとともにわかりやすく描かれた一冊となっている。

今回のテーマ「モダン+クラフツマンシップ」に因んだエピソードとして、特に印象的で、エルメス社がクラフツマンシップを大切にしてきたことがわかる奇跡のようなストーリーを引用したい。1929年にニューヨーク証券取引所で生じた株価大暴落による世界的な大恐慌の影響で、エルメス社も経営の危機に立たされた時、メゾンを守りたい一心で動いた職人たちの言動が素晴らしい。「社長はいつも我々のことを第一に考えてくれていた。有給休暇もボーナスも、健康保険も国よりも早く取り入れてくれた。3年間無給で良いから、会社を立て直して欲しい」。と動いた職人たちとのエピソードは、エルメスが職人を一番に考え、それによって職人達が誇りを持って仕事ができているというメゾンの根幹を伝えている。そんなエルメスの数々の軌跡を記した名作が、今年2月にオープンした表参道店を記念し、前作の続編を加えた新版として発売されているので是非一読を勧めたい。

そのほかにも、1973年から現在まで世界各国で年2回刊行している「エルメスの世界」など、オブジェだけではなく、様々な方法でメゾンの姿勢や哲学を伝え続けているのもエルメスならではだ。近年では、エルメスの自由でクリエイティブな世界観をインターネットラジオで伝える「ラジオエルメス」や表参道店オープン時のアートワークを、前号のSilverの表紙を手がけたグラフィックアーティストのYOSHIROTTEN(ヨシロットン)にオファーをするなど、現代の東京のクリエイターとも積極的に結びついていることからもエルメスの柔軟さが伺える。また、後項でも詳しく紹介しているが、今年10月から旅とクラフツマンシップをテーマに注目の若手クリエイターと日本で製作した7本のムービーもYouTubeで公開されるなど今後も目が離せない。

このように、長い歴史の中で核心である、ものづくりを大切にしながらも、新しいデザイン、新しい表現方法で常に時代への挑戦を続けるエルメスは、まさにモダンでクラフツマンシップな最たる例だ。有名な話だが、エルメスのロゴマークには、馬と馬車、従者が描かれているが主人がいない。主人はユーザーなのである。「最高の品質の馬車を用意しますが、それを御すのはお客様ご自身です」というメッセージが込められている。この信念を掲げたエルメスのオブジェが、現代の生活をする我々にとっても最高の品質であるということは当然のことなのだ。

¥157300 by HERMÈS (HERMÈS Japon)
Gloves [Nathan]

数ある革製品の中でも、より熟練の技術が必要とされるのが手袋だ。手に装着するものであるからこそ、肌馴染みの良い素材と、不自由のない伸縮性の良さが求められる。エルメスの手袋は、中世から革手袋を製作しているフランス中西部の町、サン・ジュニアンにあるアトリエで作られている。1880年代より手袋を作り続けるアトリエで、伝統的な手法を使い手縫いによって作られるこの一品は、15の工程、おおよそ10人の職人が携わることで出来上がるという。柔らかく肌触りのいいディアスキンに、軽くて暖かいカシミアのライニングが施された逸品は、手を入れればクラフツマンシップを存分に感じられるだろう。

Plaid ¥628100 Cushion ¥143000 By HERMÈS (HERMÈS Japon)
Plaid, Cushion [H Dye]

19世紀には馬用ブランケットを製作していたというエルメスのルーツを感じるオブジェ。1920年初頭には、旅をすることの多い顧客のライフスタイルとニーズに合わせ、幌付き自動車の中でも暖を取れるブランケットとクッションが誕生した。それから長い歴史の中で、人々の生活に合わせ、生地やデザインをアップデートしてきた。カシミア製の肌触りの良さに加え、この「Hダイ」は、手染めによる柔らかな表情が特徴的。1枚1枚が違う表情をもった手しごとの温かみを感じられる逸品。

¥4609000 by HERMÈS (HERMÈS Japon)
Bag [Haut à courroies]

数々の名作バッグが揃うエルメスの中でも最初に誕生したのが、「オータクロア」である。「オータクロア」が誕生した20世紀初頭には、乗馬用ブーツと鞍を運ぶバッグとして上流階級の人たちに愛用されていた。やがて自動車の普及とともに、馬具用バッグから旅行用バッグとして進化していった。その「オータクロア」ならではの、フラップや留め具などのシンボリックなデザインを継承しながら、現代的で機能的な仕様に生まれ変わったのがこちら。ミリタリーウエアから着想を得た、現代の生活における必需品を収納できるポケットには、スマートフォンやカード、イヤホンケース、タンブラーなどを入れることができる。

¥3135000 by HERMÈS (HERMÈS Japon)
Globe [Nereus]

エルメスの今年の年間テーマである「オデッセイ」を象徴する新作がこの海洋儀。陸地を記した地球儀とは逆に、海洋図を表した興味深いオブジェだ。北アイルランド出身のアーティスト、ナイジェル・ピークが描いた海図をプリントしたレザーを12枚に裁断し、樹脂製の球体を覆うように貼り付けていく。非常に細かな海図であり、一切のズレも許されないものであるからこそ、職人の精巧な技術が要される。海底は未だ10%しか解明されておらず、謎に包まれた部分も多い。そんな冒険心と、ものづくりの探究心を感じるエルメスらしいオブジェだ。

¥75900 by HERMÈS (HERMÈS Japon)
Carré [Drive Me Crazy]

バッグと並び、メゾンの代名詞ともなっているスカーフ“カレ”。1937年の誕生から、これまで毎シーズンいくつもの美しい柄や配色で人々の注目や憧れを集めてきた。カレはさまざまな工程を経て製作されているが、まずは細密に描かれた原画をもとに、リヨンのアトリエでカラリストが配色を決めていく。それらの色をもとに染料を調合し、色ごとの製版をシルクにプリントすることで美しい絵柄が生まれるのだ。縁がかりは全ての職人によって手縫いで行われている。今季の新作である「ドライブ・ミー・クレイジー」は、ダブルフェイスプリントで、両面異なる配色が楽しめるという進化を感じる1枚。くらしの進化を表すように、馬車とバイクが描かれている。

¥56100 by HERMÈS (HERMÈS Japon)
Bracelet [Kelly So Black]

名作バッグ「ケリー」の留め具部分を想起させる繊細なカフスブレスレット。アルミニウムを使用した軽さに加え、熱伝導率の高さによって瞬時に肌の温度に同化するという付け心地の良さとシンプルなデザインゆえのユーティリティーの高さが魅力。この黒い表面は、一見すると塗装によるものかと思いきや、なんと染色によるもの。建築や彫刻に使われる特殊な技術、アルマイト処理によってアルミニウムを黒く染色。キズが目立ちにくく経年変化も考えられたブレスレットである。現代の技術もものづくりに応用されていることがわかる逸品だ。

Muffler ¥119900 Cap ¥58300 Gloves ¥84700 by HERMÈS (HERMÈS Japon)
Muffler,Gloves, Cap [City Ride]

現代的でクリエイティブな都市生活者にとって自転車というツールは必要不可欠な存在だ。そんな自転車乗りに最適で機能的なアイテム群がこの「シティ•ライド」コレクション。マフラーにはフードが装着され、蓄光テープが配されたテクニカル素材が特徴。手袋もまた、悪天候時に手首の折り返し部分に備えたテクニカル素材のカフスを装着すれば、雨風から手を守ってくれる。それぞれがウールカシミア製で暖かく、エルメスならではの鮮やかなオレンジのカラーリングが特徴だ。それに加え、Hモチーフの編地がさりげない立体感を演出している。モダンなデザインと機能美が共存したラインナップである。

Photo Taro MizutaniHair Kenichi Yaguchi
Model Mamadou
Edit Takayasu Yamada
Yutaro Okamoto

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