HENDER SCHEME×TOD’S
エンダースキーマ ×トッズ クラフツマンシップという共通言語
Maxi Pebble Tassel Moccasin
トッズ始まりの1足であり、代表作でもあるモカシンシューズ「ゴンミーニ」をアップデートした「マキシペブルモカシン」。柏崎の本項での言葉通り、今回のコレクションのコンセプトを最も象徴するモデルで、極端に大きくなったペブルがポップで現代的だ。「接地面や履き心地から見え掛かりまで、何度も微調整を繰り返しました」と柏崎。
Pull Over Shirt
優しいラベンダーの色合いを柔らかいドレープが引き立てるプルオーバーシャツ。デザイナー自身が日常着として着たいと思えるものを求めて生まれたデザインで、かなりたっぷりとしたシルエットが特徴的。シンプルな分、コットンブロード生地の上質さと狂いの無いステッチワークが目を引くミニマルな1着。
Trench Coat
現代的にデフォルメされたトレンチコートは今回のコレクションの中でも特に長い時間をかけて完成へと至ったプロダクト。襟下に付くスロートベルトとガンパッチはレザー製で、前者は初めから2つのカラーのものが付属していて好みに合わせて付け替えられる。「ヴァルターのコレクションは色合わせが素敵なので、僕も普段より色数を多めに取り入れています」。
Gommino Sabot
ステッチダウン製法を用いたカーフスエードのミュール。エンボス加工を施したレザーソールはエンダースキーマのMIPシリーズにも通じるアプローチ。毛足の揃ったキメ細かい革の表情と発色の美しさ、緩衝性に優れたフットベッドにトッズの生産背景の個性が色濃く表れている。
Chunky Knit Shawl + Poncho Holder
ふっくらとして柔らかいアルパカベースのニットショールと、それを固定して持ち運べるハンドル付きのカーフレザー製ベルト。馬具を思わせるクラシックなフォルムに遊び心が垣間見られる。「このチャンキーニットショールはほとんどイニシャルのアイデアのまま完成したプロダクトです」。
Denim Pants
「岡山県産の生地を使って、僕が好きなゆったりとしたシルエットにしたデニムです。つくるに当たって、古着を買ってきて解体したりしながらアトリエで自分でテストをしました」。通常は店頭陳列用で廃棄されるはずのフラッシャーやサイズ表記のシールをレザー素材で制作し、そのままデザインとして取り入れている。
Circle Shoulder Bag Small
サークル型のバッグはヴァルター・キアッポーニが生み出した名作、「オーボエバッグ」が着想源で、長さも柄も異なる3本のレザーストラップが重ねて使われている。「クロスボディ、ショルダー、ハンドバッグと3つの使い方を選べるようになっていて、外してそれぞれひとつでも使えます。これは元々エンダースキーマで温めていたアイディアです」。
Fur Mocassin
カーフ製のアッパーにラムのファーをあしらい、フィドロックでフィット感を調整するというハイブリッドなモカシン。「このアッパーとレザーソールでゴンミーニのソールを挟むイメージで考えました」。ソールのペブルは従来通りの小ぶりなもので、ボリューミーなアッパーと均整の取れたルックスに。
■オンラインストア
https://www.tods.com/jp-ja/home.html
「つくり手」という言葉は聞けばシンプルだが、それが指す対象は幅広い。それはそのまま、何かが生み出されるときには往々にして、何人もの人間が携わっていることを意味している。エンダースキーマというブランドで言えば、多くの人はつくり手としてデザイナーの柏崎亮を思い浮かべるだろう。もちろんそれはひとつの正解だが、彼のアイディアやイメージの数々が具現化するまでにはいくつもの工場や職人たちの協力があり、そうした人々もまたつくり手の一員であることにはあまりフォーカスされない。しかし、かつて靴工房で自らの手を動かし、試行錯誤するところからものづくりの世界へと足を踏み入れた柏崎は、そうした生産現場の大切さを誰よりもよく知っている。毎回洒落者たちを沸かせる様々なブランドとの協業も、オファーを受けるか否かの基準はそんな背景が鍵となっているようだ。
「僕らに求められるのはニュース性を主体としたコラボレーションよりも、もっと身の入った、プロダクトとして新しいもの。ありがたいことにそういうリクエストが多いですし、逆にそういうものじゃなければお受けしていません」。
インパクトに特化したハイプなダブルネームが連日タイムラインに並ぶこの時代にあって、柏崎のコラボ観はいたって堅実だ。先頃発表されたトッズとのコラボレーション企画、トッズファクトリーもこのイタリアの名門に明確なクラフツマンシップの歴史があったからこそ実現に至ったものだ。
「トッズの会長が来日した時にお会いする機会があって、プロジェクトの具体的な話よりも先に『工房を見に来ないか?』と誘っていただいたんです。それでイタリアに行って、クリエイティブ・ディレクターのヴァルターやトッズのGMたちとカジュアルに意見交換をしたのがロックダウンよりもう少し前、確か2019年の終わり頃だったと思います」。
初となる布帛の服づくり
きっかけは10年目にして突然に
タイトスケジュールでの訪問だったが、実際に工房やそこで働く人々を訪ねたことで柏崎には協業の青写真が見え始めた。国も規模も違う両者には、靴づくりという同じバックボーンがあり、それが互いを結びつけたのは明白だ。しかし、コラボに際してトッズが柏崎に伝えた数少ないリクエストにはシューズだけではなく、服づくりへの挑戦も盛り込まれていた。
「最初は驚きました(笑)。僕たちはプロダクトフォーカスの方が得意だし、ご時世的にもホームウエアとか、そういうプレゼンテーションはどうかと言ったんですが、はっきりとレディ・トゥ・ウェアもやってほしいという返事がきました。でも、今回イタリアにあるトッズの生産背景でつくることは決まっていたから、素材の質も仕立てのレベルもかなり高い中で、新しいものづくりができるのは恵まれているなと、チャレンジしてみようかと思ったんです」。これまでにもエンダースキーマではいくつかウエアをリリースしているが、それらはすべてレザー製で、皮革製品を扱う中で培ったノウハウやアイディアの、新たな発露の場として考案されたもの。布帛の洋服を手がけるというビジョンは「正直あまりなかった」と柏崎は言う。その理由はこうだ。
「僕らは洋服の構造をすべて理解しているわけじゃないから。年2回のシーズンコレクションをつくるほどの引き出しが担保できないと思ったんです。それでも10年間シューズだったりバッグだったりと、服にまつわるプロダクトをつくってきたから少なからず洋服のことは考えていたし、自分自身も好きなものなので、アイディアやイメージは蓄積していました。その10年分を今回使った感じですね」。
コンセプトを可視化した
“トッズ⇄ドッツ”というキーワードに
こうして出番があるかもわからなかった静かなひらめきの数々は、にわかに日の目を見ることに。そうした発想力とプロダクトの個性を重要視する柏崎はスタートからずっと自身のブランドのコレクションにシーズンテーマを設けていない。それはできる限りニュートラルにものづくりに取り組むための選択であり、年月を経ても価値を保ち続けるものであってほしいという彼の願いの表れでもある。しかし、トッズとのコラボレーションについては、また勝手が違った。
「今回はカプセルコレクションということもあって、プロダクトフォーカスだと伝わらないなと思ったんです。いろんなアイディアはあったけど、それを包括するアイディアがさらに必要だなって。そこで思いついたのが、“トッズ⇄ドッツ”というコンセプトでした」。
言わずもがな、“TOD’S”のブランド名のアナグラムだが、もちろん、ただの言葉遊びではない。
「トッズのアイコンシューズ、ゴンミーニのソールは小さなドット(ペブル)の集合によって出来ていて、それが線は点の連続によって描かれるというイメージと重なりました。さらに丸いプロポーションやループ、円環などと文脈的なアイディアを積み上げていきました。それがサークルのバッグやキーチェーンになっていたり、ループ構造のコレクションムービーのアイディアソースになっていたりします。そのコンセプトがまず重要でした。“トッズ⇄ドッツ”のキーワードが置ければそこから全体を見渡せるようになるから。でも、それってラグジュアリーブランドのロゴをイジることになるので、難しいところだろうと思ってになるので、難しいところだろうと思っを社内でつくってプレゼンテーションしました」。
トッズとヴァルターの返事は「OK」。イタリアにいる彼らもそんな提案を素直に楽しんで受け入れた。「これがダメだと言われたら完全に振り出しに戻るなと不安だったので良かったです」と柏崎は笑う。その時点で、彼のいくつもの細かいアイディアは一本の線として繋がった。コレクションの制作期間はコロナ禍によりお互いの国への往来が難しい状況だったが、大半のアイテムについて一度エンダースキーマ側で試作品をつくり、イタリアへと送ったその原型を指標にしながらより製品に近いサンプルをつくるという工程で、そうした不自由を克服していった。
「シューズや小物は社内にいるインハウスの職人とプロトタイプをつくりました。ウの職人とプロトタイプをつくりました。ウにトライしていたからイメージを形にしてもらえるパタンナーが日本にいたのが幸いでした。その方に基準となる型紙とトワルをつくってもらって、イタリアに送って。言葉とか絵だけだと難しいから、プロトタイプを共通言語としてコミュニケーションして行きました。とにかくラフサンプルを自社のアトリエでつくって、立体にして渡しながら補足していったんです」。
日本のものづくりの現場に
今一度つくり手の本懐を
ちなみにレディ・トゥ・ウェアはイタリア的なシェイプの効いたパターンではなく、ゆったりとしたコンテンポラリーなものになっている。いずれにしても海外渡航の制限がかつてなく強まっているこの世相下で両者が納得のいくコレクションが完成したのはそれぞれが高レベルの生産背景を持っていて、そこで働く職人や専門家たちの協力があったからこそ。どちらの国にも秀でた面があって優劣で語るのはナンセンスだ。しかし、柏崎が短期間でその両方の仕事に触れたことで気づいたのは技術とはまた別の部分だった。
「一番は、トッズのファクトリーで働いている人たちがすごくポジティブなマインドで、自分たちの仕事に誇りを持っていたこと。ミラノから離れたマルケの街にトッズの本社と工房があるんですが、そこには託児所があったり、きれいな食堂があったりして、ブランドからそこで働く人たちへのリスペクトがすごく感じられるし、いい環境でモノが生まれている。それが素晴らしいなって」。
“職人気質”という言葉が示すとおり、日本のものづくりの現場はどうしても閉鎖的になり、根性論が美徳とされがちだ。しかし、それによって後継者不足や、優れた技術の消失などの課題を抱えているのもまた事実だ。
「イタリアの職人の社会はすごくオープンで、下っ端だろうが言いたいことが言える環境がありました。それを見られたのがイタリア視察で一番の収穫だったかもしれません。日本的なクラフツマンシップは否定していません。ただ、汗水垂らしてしんどいのが偉いとか、5年、10年修行しないと一人前にはなれないとか、そういうクローズドな風潮は変えていきたいんです。今は過渡期で、そういう古い価値観も根本から見直されてきている。そういう時の僕らの態度や振る舞いには責任が生まれてくると思っています」。
それが柏崎がこれまで度々口にしてきたそれが柏崎がこれまで度々口にしてきた“ニュークラフト”という言葉の意味するところで、彼は今もその先にあるオルタナティブなものづくりの現場をはっきりと見据えている。
「今回のトッズファクトリーでもお互いに譲れなくてボツになったアイデアもあったけど、それでもリスペクトし合えていたと思うし、ちゃんと本音のやりとりができた。もちろん苦労もあるけれど、ものづくりって苦しいものじゃなくて楽しいものだと僕は思うんです。そうじゃないと、続けていけないじゃないですか」。
柏崎亮
1985年生まれ、東京都出身。シューズメーカーで製靴とシューリペアに従事した後、2010年に独立、エンダースキーマをスタート。モノの形や製法、果ては創作にまつわる権利まで、既存の当たり前を査読しながら、新たなものづくりのありようを日々模索する。
■オンラインストア
https://www.tods.com/jp-ja/home.html
Photo Kenta Sawada | Interview & Text Rui Konno | Edit Takayasu Yamada |