Feel the craftsmanship VISVIM
ものづくりの本質を求めて
ビズビム ブルー
江戸時代の藍に魅せられて
ビズビムのものづくりを巡る旅。今回は10年以上に渡ってビズビムの藍染のアイテムを手がけている壺草苑(こそうえん)を訪ねた。藍染といえば徳島県の阿波藍が有名だが、壺草苑が工房を構えるのは東京都の青梅市。実は青梅の町は昔から織物業が盛んで、特に“青梅縞”と呼ばれる絹と木綿を混ぜ合わせた生地を天然藍で染めた織物が江戸時代に大流行した歴史を持っている。そんな当時の青梅縞の貴重な破片を目にし、その美しさに魅了されて天然藍の染色を追求しているのが、壺草苑を率いる藍染職人村田徳行だ。安価で染色効率のいい化学藍が開発されたことで、技術の習得や手間、時間のかかる天然藍の染色は衰退の一途を辿っている。そんな現代においてもなお天然染色にこだわり、「天然藍灰汁醗酵建(てんねんあいあくはっこうだて)」と呼ばれる伝統的な染色方法を実践する村田の情熱に中村ヒロキは共感し、ビズビムのアイテム作りを依頼するようになったのだ。村田に話を聞きに行ったことで、壺草苑の技術とビズビムのクリエイティビティが交わって 藍染の可能性がさらに発展していると感じた。今回はそんなビズビムブルーが生まれるまでの話。
実は藍染は3000年以上の歴史を持つ世界最古の天然染色方法と言われており、日本では江戸時代の多くの人々が日常着として身にまとっていたことから“ジャパンブルー”という呼び名のルーツにもなった。そのような歴史が始まったのは、藍染がただ美しい染料としてだけではなく、さまざまな効果を持っているからだと村田は教えてくれた。「天然染色は薬やお守りの役目をすると昔から言われています。藍染には防虫効果や消臭効果、保温効果、紫外線防 止などがあるんです。作業着として誕生したデニムがインディゴ(壺草苑が行う天然藍灰汁醗酵建とはまた別物ではあるが)で染められているのは、重労働に耐える頑丈さを持たせるための工夫でもあります。
日本だと戦国時代の武将である伊達政宗は、藍染をして堅牢度を高めた狐の革をベストのように着て、その上に藍染をして切れづらくした糸で結び合わせた甲冑を纏うことで、戦で相手の刀が通りづらくなるように防御していたと言われています。江戸時代の火消しさんが着ていた半纏も藍で濃く染め上げられることで燃えづらくなっています。そうやって藍は私たちの身を守ってくれるのです。
江戸時代には徳川幕府の政策の一つとして、武士や貴族は光沢があり軽くて丈夫な絹を着ることが認められていましたが、農民や町民は絹を着ることが認められず綿や麻で織ったものを着ていました。麻を染めるのに藍の相性がよかったことから、江戸時代の一大産業として藍作りと藍染が発展しました。そうして藍染された服を日常的に江戸時代の人たちが着ている光景を出島に来日したオランダやイギリスの人たちが目にし 、“ジャパンブルー”と言い表したのです。藍とインディゴは混同されがちですが、実際は全くの別物です。日本の藍はタデ科で、かつては40種類近くありました。インドの藍はマメ科で、インド藍で染めたものは『オールナチュラル』と呼ばれています。インド藍は色素量が多く簡単に染めることができるので、重宝されてヨーロッパに多く輸入されました。それがインディゴの語源とも言われています。実はインディゴや化学藍で染めている工房も自身の藍染を『本藍』や『正藍』と呼んでいることが多く、それだと私がしているタデ科の藍を使った天然染色の藍染と区別しづらかったんです。その誤解を解くために、『天然藍灰汁醗酵建』という呼び名を天然染色にこだわった職人たちが新たに名付けました。私が藍染を修行し始めた38年ほど前の出来事です」。
多くの手間がかかる
だけど青梅の文化を作っている
本藍や正藍の染色では職人的な経験や勘に頼る部分が大きく、安定的な生産が困難だったが、今では大量生産に適したインディゴや化学藍が主流となる。ましてや村田と同じく天然藍灰汁醗酵建を行う工房は数えるほどしかないという。藍染をする上で大切なのは、天然藍灰汁醗酵建の名前にも含まれる「発酵」の工程だと村田は話す。「藍染の染料は、タデ科の植物の葉を乾燥させ、発酵・熟成を経て堆肥状にした蒅(すくも)です。蒅の中には菌が生きているのですが、その菌をいかにうまく発酵させ、活性化させるかが染上がりを左右します。そのために灰の上澄液や石灰、日本酒、ふすまを加えて藍液を作っていきます。壺草苑では原料に天然素材しか使っていないので、手袋をつけずに素手で作業をしても問題ありません。青く染まった手は2~3日すれば色も抜けてきます。でも原料に化学薬品を使う工房だと、手袋をつけないと手が荒れてしまうし、工房に化学成分が染み付いてベターっと青くなってしまったり、建物の老朽化の原因にもなってしまいます。 化学藍に比べて天然藍灰汁醗酵建は染色成分が少なく、その分だけ染めの工程回数を多くして目標の色味に近づけていきます。藍液は使うごとに染色濃度が下がっていくので、例えば最初のロットは10回で染まったアイテムも、次のロットでは14回染める必要があったりします。化学藍やインディゴを使うと、うちが3日間かけてやっと染められる量を半日もかけずに染めてしまいますよ。だからなぜそこまでして天然藍灰汁醗酵建にこだわるのかと思われるかもしれませんが、私が理想とする青梅縞の色、江戸時代の藍の色はこの染色方法でしか表現できないからなのです。他の染色方法に比べると多くの手間がかかり、生産性はとてもじゃないが太刀打ちできない。だけど青梅の文化を作っていると信じています」。
藍染めの可能性を広げる
ビズビムの豊富なアイディア
目先の利益ではなく、信じる色を求め惜しみない時間と労力を注ぐ村田。そんな彼が生み出す藍の美しさを求め、国内外問わず様々なブランドからのオファーがあるようだ。だが村田は相手の価値観を見定め、共感できるものづくりにこそ協力する。その中で村田も「圧倒的」と太鼓判を押すのが 中村ヒロキとビズビムなのだ。「一番最初に中村さんが来たのは13年ほど前でした。インドの古い布を持ってきて、『この色味を再現できますか?』と相談いただいたんです。それから関係が始まりました。ウールやシープスキン、スニーカーなどの染めにも挑戦させていただきましたね。ウールは藍液と相性が悪くて液を痛めてしまうので、どの工房もなかなか染めたがらない素材です。でもうちは藍液を長持ちさせるための工夫を考え、ウールを染めることを工房としての強みにできました。そもそも染められるのかもわからない素材をビズビムは持ってくることが多いのですが、どれも面白いアイディアばかりなのでやりがいがあります。一番驚いたのは、ゴアテックスを藍染したいと言われた時でした(笑)。そもそも水を通さないための素材ですから、藍液が染み込まないわけですよ。あれには手こずりました。試行錯誤を繰り返し、いつもの何倍もの量の藍を使い、いろいろ工夫を加えることでなんとか染めることができました。ゴアテックスを製品染する前例はそれまでなかったようで、ゴアテックス本社から10人ぐらいの方が取材にも来ました(笑)。あとはリモンタ社のキャンバス生地やラムレザーも難しかったですね。どれも苦戦はしましたが、苦ではありませんでしたよ。ビズビムが天然藍に求めるクオリティや色、堅牢度などのレベルは相当高いので、うちが今期お手伝いしている型染めや枷染め、製品染めのどれか一つにでも対応できる工房はほかにないと思います」。
ビズビムのアイディアを面白がり、試行錯誤を繰り返して天然藍の染色の可能性を広げながら応える壺草苑。確固たる信頼関係が築かれている今、村田は中村とビズビムを改めてこう評する。「中村さんは日本や各国の文化や技をデザインに取り入れ、その魅力や価値を世界へアピールすることがとても上手だと思います。ビズビムは糸作りから最後まで徹底していますし、どの工程も『そこまでするのか』と驚かされるレベルばかり。例えば壺草苑で藍染をする前に、実はその生地を奄美大島で泥染しているものがあったり。私の知る限りではこのようなブランドはほかにありません。日本の魅力を世界に伝えたいという熱意が伝わってきますし、そのおかげで日本の技術が活性化し、受け継がれていく可能性が生まれている。ビズビムはたとえ少量の生産量であっても高品質を目指して時間も労力を惜しまないので、その情熱に応えられるよう私も精一杯藍染をしているつもりです」。
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