Creator’s New Authentic Keiji Kaneko (BOUTIQUE)
金子恵治(BOUTIQUE)の考える ニューオーセンティック
「ニューオーセンティック」とひと言でまとめても、その解釈とアウトプットは人それぞれ。ファッションシーンで活躍し続けるクリエイターが考える、新しい時代の信頼できるものとは。現代のオーセンティックと呼べるプロダクトを生み出し続けるデザイナーに、話を聞いた。
クラシック&モードなアイテム
今の時代感の中で
道具のように使えるもの
独自の審美眼によってキュレーションやセレクト、コラボレーションプロダクトの企画を行う金子恵治。彼が選び出す時代のトレンドを取り入れつつもどこか等身大で、日々の暮らしにフィットするプロダクト群は常に人々の心を捉えている。そんな金子が考えるニューオーセンティックなアイテムとは、どんなものなのだろうか。
「いわゆるオーセンティックと呼ばれるものは、すでに今まで存在していて誰のそばにでもあるようなものを指しますが、そこにデザインや素材、サイズ感などを今にフィットさせアップデートして使えるものにするというのがニューオーセンティックなプロダクトの考え方だと思います。この使えるという感覚は、僕にとって『道具』という意味合いに近いです。例えば、実際50年前に作られたオーセンティックなものが単純に今も使いやすいかと言うと、決してそうではない。ちゃんとチューニングして現代でも使えるものにしていくことが重要だと思います。オーセンティックの代名詞として語られるリーバイスの501だって、変わらないものと思われがちですが、実は年代によって大きく変わっています。長く続いているもので変わらないものって実はあまりないんです」。現代の生活において、道具的に使えるものという独自のニューオーセンティックなプロダクトに対する考え方。今回紹介してもらった4つのプロダクトには、すべてその基準となる考え方が投影されていた。「まず紹介したいのが、リーバイスのビスポークサービスでつくったデニムのセットアップです。オーダーを受けて1人の職人が作るという大量生産時代前のプリミティブなものづくりを目指したプロジェクトですが、作り方は原始的でもオーダーする人が今欲しい形を作ってくれます。そうして生み出されたデニムは、従来の量産的なものでは絶対に成し得ないフィット感があるんです。僕の場合、自転車で移動しますし、車にも乗るので、前傾姿勢に耐えうるサイジングでないとダメ。そのためヒップ周りにゆとりを持たせ、ジャケットも背中を広くして、僕のライフスタイルに合わせてアレンジしてもらっている。古い洋服を現代の暮らしに合わせてアップデートする、マイニューオーセンティックと呼べるアイテムですね」。
今の時代感を持ってしっかり使えるもの。それは金子にとって明確なニューオーセンティックの定義と言える。「道具のように使えるというのが、僕にとってのもの選びのキーワードなんです。例えば男性の道具というとバッグが挙げられると思うのですが、仕事以外のバッグって選び方がなかなか難しい。そんな中見つけたのがバレクストラのミニバッグです。デザインはもちろん、そのアイテムの背景にあるストーリーに共感しました。このバッグは、ロンドンのタクシー運転手が、いつも助手席に置いている箱に着想を得て作られたものなんです。ドライバーはその箱にお釣りや領収書などを入れ、昼にはそれを持ってランチに行くという。実際の箱自体の機能はちゃんと取り入れられていますが、デザインとしてもしっかり美しく表現されている。50年前にできたバッグらしいのですが、現代の感覚でも使える道具ですよね。そういったストーリーも込みで、僕はよく車の助手席に置いて使うことが多いです。
他にピックアップしたアヤメのサングラスとカルのスラックスも、美しいデザインはもちろん、道具の様に使える機能性という視点で選んでいます」。
洋服のデザインも数多く手がける金子。もの選びの視点ではなく、ものづくりの視点ではニューオーセンティックをどのように考えているのだろうか。「オーセンティックという言葉には、信頼できるものという意味もあります。自分の今の感覚と世の中の不便を照らし合わせて、そこに何が足りないのか。僕にとっては、その要素をしっかりと見極めることがものづくりの際の重要な決め手となっているんです。例えば3枚入りのパックTを作る時も、すべて同じパターンではなく自分だったら1週間使えるような3つの違うデザインのものが入っているのがいいと思う。普通のパックTにつまらなさを感じている人もいるだろうし、3種類試すとなると色々迷うことがあっても、すでにパッケージングされていたら強制的に3枚試せる。でもその分お試しできるように金額も抑えるなど、世の中の不便に対しての答えを出してあげるようにしています。皆さんがこんなの待ってましたと思ってもらえるような、今の感覚の中での信頼できるものづくりを目指しています」。世の中の不便を解決するもの=信頼できるもの。金子のものづくり、もの選びには、そんなニューオーセンティック的な感覚が込められている。
金子恵治
北青山にある洋品店「BOUTIQUE」のオーナーであり、自身が立ち上げたL’ECHOPPEにも携わるかたわら、数多くのブランドディレクションも手掛ける。その活動は多岐にわたる。
Photo Asuka Ito | Edit & Text Satoru Komura Shohei Kawamura |