Car with Styles by Fumio Ogawa

タイヤメーカーが作る 世界一美しいカレンダー Pirelli The Cal 2024

「Time Stopper」なる役割を与えられた「The Cal 2024」内のナオミ・キャンベル。Magazine Londonを会場に行われた発表会にはおおぜいの招待客が参加し、たいへん華やかな雰囲気だった。

時事的なテーマを美術的に昇華する
プリンス・ジャスィの作る
カラフルで優美な世界
小川フミオ

自動車に関連する企業が文化に貢献する。と聞けば、多くのひとが「ミシュランガイド」を思いつくだろう。
ミシュランはフランスのタイヤメーカーだが、イタリアには高性能車のタイヤでおなじみ、ピレリがある。この企業もやはり、美しい美術本のようなカレンダー「The Cal」を、1964年以来発行しているのだ。特徴は、著名な写真家を起用し、大判で、かつ日付など入っていないところ。ページ数も30を優に超えることもあり、まさに本。過去には、ハーブ・リッツ、ブルース・ウェバー、ヘルムート・ニュートン、ピーター・リンドバーグらが撮っている。同時にもうひとつ、ピレリのThe Calの注目点は時事的なテーマに積極的に取り組むところ。たとえば、アニー・リーボビッツは2016年に、被写体としてセリーナ・ウイリアムズやパティ・スミスら、各界で活躍する女性ばかりを選んだ。
2018年のティム・ウォーカーは、アフリカ系のひとたちだけで「不思議の国のアリス」の世界を構成した。2023年11月末、ロンドンはグリニッチ近くの「マガジン・ロンドン」で発表会が行われた24年版は、ビジュアルアーティストのプリンス・ジャスィ(Prince Gyasi)が担当。1995年にガーナで生まれたこのひとは、「タイムレス」なる主題で、自分の人生においてアイコンと呼べるひとたちを撮影した。
プリンス・ジャスィは、22年の京都国際写真祭「Kyotographie」にも参加。「アフリカ(人)の美しさを表現したい」という思いで撮り続けてきた作品は高く評価された。The Calでも、プリンス・ジャスィが選んだのは、すべてアフリカ系のひと。少年時代のアイドルだった(であろう)ガーナ出身のサッカー選手、マルセル・ドゥサイーもいれば、バイデン米大統領就任式で自作の詩「The Hill We Climb」を朗読したアマンダ・ゴーマンまで幅が広い。
そのひとたちを、プリンス・ジャスィの作風を特徴づけているビビッドな背景色のなかに置くことで、まさに優美で、場合によっては荘厳な世界観の創出に成功している。ロンドンでインタビューした際、プリンス・ジャスィは、被写体になったひとたちを選んだ背景には、たんに個人的な思い入れだけでない、と語った。
「私はひとを勇気づけたい、と思って作品を作っています。とりわけ若いひとたちに、やりたいことを見つけて、それに全身全霊で打ち込めば成功する、という実例として、The Calの人選をしました」
プリンス・ジャスィは作品制作のかたわら、ガーナ共和国の首都アクラにおいて「Boxed Kids」なるキャンペーンに賛同している。状況や地域に閉じ込められた(boxed)青少年たちに、教育などを通して可能性を与えるプロジェクトだ。
紛争の絶えない今だけれど、みなが一つになってよりよい世界を作る努力をする。ファッションの世界でも絶え間ない努力をするひとたちがいるように、クルマの世界でもプリンス・ギャスィと、それにピレリは、素晴らしい方法でそれを主張していると思える。

「The Cal 2024」内のマーゴット・リー・シェタリー(右上)とアマンダ・ゴーマン(上中央)、幼き日のプリンス・ジャスィを演じる少年(左上)、撮影中のプリンス・ジャスィとモデルの男の子(右)。登場人物はほかに、アンジェラ・バセット、イドリス・エルバ、ジェイムズ・サミュエル、テヤナ・テイラー、アモアコ・ボアフォ、ティワ・サベージ、ガーナ共和国内のアシャンティ王国王といったひとたち。

小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。

Text Fumio OgawaEdit Takuya Chiba Katsuya Kondo

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