untitled BOSCO SODI

計画された偶然のひび

“Untitled” 2022, Mixed Media, Canvas,
186 × 186 cm, SCAI THE BATHHOUSE
自然の素材と偶然性を作品に込める

木材や岩、土などの天然素材を用いたダイナミックな表現で世界的に評価の高いメキシコ人アーティスト、ボスコ・ソディ。東京の谷中にあるギャラリー、スカイザバスハウスで5年ぶりとなる個展が今年11月5日(日)までの期間で行われている。“GALAXY”というタイトルをつけた今回の展覧会は、新作群の発表とともに、近年のソディの取り込みを包括したような展示内容となっている。本展でも公開される左ページに掲載した黒地に紫の円が3つ描かれた作品は、おが屑などの自然素材を用いた独自のメディウムをキャンバスに施し、乾く過程で表面に生じたひび割れも自然的な表現としたソディらしさのある作品である。表面はまるで月面のようなテクスチャーででこぼことした立体感が、地面を切り取ってそのままキャンバスに載せたような印象だ。この作品にも見られる、塗料のひび割れという偶然の表現を展開している。ソディはこの「素材が偶然に変化するというコンセプトが好きである」と過去にインタビューで発言しており、この作風は、過去にアトリエの床に落としてそのままにしていた塗料が乾き、自然と出来上がった表面のテクスチャーからインスピレーションを得たものだ。その偶然の発見以来、ソディの作品制作における主要なオブジェクトとなった。汚れのない綺麗なものよりも、寂れたものの美しさを好む価値観は、まるで日本の侘び寂びのような印象だが、ソディは高校生の頃から日本の美意識や精神性には興味があったようで、侘び寂びについての本を読み文化について学んでいたという。職業的に日本と繋がりの深かった父の影響で、ソディにとって身近な存在であった日本。過去にも、日本の伝統工芸に欠かせない漆を使用した作品を手がけたほか、2014年にはメキシコ、オアハカ州にアーティストのためのレジデンシーや地元コミュニティとの美術教育の普及を目的とした施設“カサ・ワビ”をオープンし、その設計を安藤忠雄に依頼したというストーリーもある。
そうした日本との繋がりは、ソディ作品における素材との対話や自然の変化からも繋がりを感じることができるだろう。今回、掲載したキャンバス作品のほかにも、スカイザバスハウスの展示室の真ん中には黄金の球体型の作品や麻袋に太陽や月を思わせる丸のドローイングを描いた作品が展示される。球体の作品は、その表面を見ると金の釉薬で粘土にレイヤーをかけたことでキャンバス作品と通じるひび割れが生じていて、黄金という素材が様々な文化圏で人々に持たれてきた“神聖さ”に着目した作品。麻袋の作品も古くから聖人が身につける素材に着目し、マーケットで使い古された袋をキャンバスに置き換えることで崇高なものへと変容する瞬間を探求しているという。それら、円形を意識した作品が連なり、作品の一部となっている自然界の素材が神聖さを持つことで展示されているギャラリー内がまるで宇宙(ギャラクシー)のような空間になっている。自然素材、ひび割れとソディならではの表現方法が実践された新作を見ることのできる本展で、彼の作品における計画された偶然の美しさを体感してほしい。

ボスコ・ソディ
1970年メキシコシティ生まれ。豊かな質感と鮮やかな色彩のダイナミックな絵画で世界的に認知されている。化学工学と絵画を学んだのち、バルセロナに移住。その後、素材のひび割れを特徴とする制作方法を確立し、以後ベルリン、ニューヨーク、メキシコシティに拠点を広げ現在に至る。

Edit Takayasu Yamada

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