ART & CRAFTS Paper Eden MEGUMI SHINOZAKI

花の新たな形、ペーパーエデン

花の刹那的な美しさをデフォルメする

生花やドライフラワー、造花とも異なる新たな花が咲き誇った。“ペーパーエデン”と名付けられたそれは、花や植物を扱うクリエイティブスタジオ、エデンワークスを率いる篠崎恵美が紙を用いて作る花のことだ。国内に先行してヨーロッパやアメリカで開催された展示は反響を呼び、逆輸入的に今年の10月に日本で開催された個展も成功を収めた。多くの人を魅了するこの花の魅力とは何なのか。ペーパーエデンについて篠崎はこう話す。「花屋として毎日花を扱う中で、綺麗に咲く生の姿と、少しずつ枯れていく死の姿を同時に目にします。その花の儚い一生を何か別の形で表現できないかなと考えて生み出したのがペーパーエデンです。造花のようにリアルさを求めたわけではなく、花の繊細な構造を単純化させてグラフィカルに捉え、アンリアルだけど見る人の想像が膨らむものを作りたかったんです。人の手で一輪一輪作るからこそ手作業の温もりを感じられますし、単純化した形だからこそ想像の余白がある花になっていると思っています。日本には“いい塩梅”という言葉がありますが、その加減や精神性が日本社会から徐々に失われつつあると感じています。だからこそ“いい塩梅”、“ちょうどいい”という曖昧だけど日本的な力加減も込めているつもりです。素材は全て日本製の紙を使っています。和紙や揉み紙といった伝統的な紙からトレーシングペーパーまで、花のタイプに合わせて様々な種類の紙を使い分けています。ペーパーエデンの花の色は、全てが実際の花の色というわけではありません。例えばバーガンディの色をしたデンファレという蘭の一種を模した作品は、デンファレを夜の暗闇の中で見たときに赤黒く目に映った記憶の色を表現したものです。また本来は白い色の芍薬の花は、少し青っぽい色を選びました。これは白い芍薬の花を朝の青みがかった光の中で見た瞬間が綺麗だったので、その姿をほかの人にも伝えて空想してもらいたかったからです。表現したい色を実現するために、色は自由に選んだり、染色をしたりしています。藍染や泥染など日本の伝統的な染色方法を用いることもありますね。ペーパーエデンの色は生花を忠実に再現しているのではなく、四六時中花と共に過ごしているからこそ見てきた、とある条件のもとで一瞬だけ現れた花の刹那的な美しさを表現しているのです(篠崎)」。文字通り花に囲まれた日々を過ごす篠崎だからこそできるペーパーエデンという表現。日本の素材へのこだわりや、“いい塩梅”という日本ならではの精神性に確かなクラフツマンシップが宿っている。篠崎と10年来の付き合いだという本連載のナビゲーター南貴之は、篠崎の新たな表現であるペーパーエデンをこう評する。「いわゆる造花は園芸や趣味の領域であることが多いですが、メグ(南の篠崎への愛称)はエデンワークスで培ってきた経験を元に新たな視点で紙の花を“ペーパーエデン”として作っている。これは彼女にしかできないことですし、花の美しい瞬間を切り取ってくれることは見ていて楽しいですよね。花をデフォルメした表現も独特で面白いです。ペーパーエデンのアプローチは、この連載のタイトルである“アーツ&クラフツ”そのものではないでしょうか(南)」。

左 白い花が房上に咲くユリ科の一種、アスフォデルをモチーフにした作品。特徴の一つである花びらに浮かぶ赤い線もフリーハンドで描いている。中にはワイヤーが仕込まれており、茎の動きや花びらの開き具合を置く空間に合わせて篠崎が微調整していく。
右 大輪を咲かせるアネモネの一種、牡丹一華(ボタンイチゲ)を表現した作品。花びらの下に顔を覗かせる黒く細かな雄蕊(おしべ)と雌蕊(めしべ)も手作業で紙をひねり作り込まれている。

篠崎恵美
花や植物を扱うクリエイティブスタジオ、エデンワークスを主宰する。それぞれコンセプトの異なる3つのフラワーショップも運営する傍ら、雑誌や広告、ミュージックビデオなどでフラワークリエイターとしても活躍する。

南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。ロサンゼルスを拠点とするアパレルブランド「プレ_」をリノベーションした新レーベル「プレ_シャル」も始動させた。

PAPER EDEN

Select Takayuki MinamiPhoto Masayuki NakayaInterview & Text Yutaro Okamoto

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