Silver No.13 ART & CRAFTS Metalwork YUMI NAKAMURA

中村友美が生み出す 空間と共存する金物

Clockwise from top
Kettle [copper]
Kettle [copper]
Kettle [copper]
Big Lipped Bowl [copperandsilverplatedaround]
Tea Bowl [copper and silver plated around]
Small Pot [copper and silver plated around]
Small Lipped Bowl [copper and silver plated around]
Big Pot [copper]
Kettle [copper]
Pitcher [copper]
一枚の金属板から生まれる
日常道具の金工作品

一見すると素朴だが、繊細さと重厚感のバランスが目を引くこれらの作品群。これは、一枚の金属板を金槌で打って形を造り出す“鍛金”と呼ばれる技法を用いた中村友美による金工作品だ。「力は入れず重力に従ってハンマーを振り下ろし、金属との衝突による跳ね返りでまた振り下ろす。そうすれば力をたくさん使わずに効率よく一日中打つことができるんです」と中村は話す。自然の摂理に適った方法で叩かれた表面の槌目や全体のシルエットが、陽の光を受けて金属に表情を与えているのが儚げで美しい。本連載でこれまでも数々の作品を紹介してきたクリエイティブディレクターの南貴之は、中村の作品の魅力をこう話す。「岡山県の牛窓っていう海沿いの町でクラフトフェアが定期的に開催されているのですが、そこで5年ほど前に中村さんの作品に出会いました。言葉で説明するほどチープに聞こえてしまうかもしれませんが、その佇まいやバランス、雰囲気が当時の展示会の中でも一際目立っていて。僕が買ったのは今回の作品よりもう少しオブジェ的なものだったのですが、『どうしてこういう形になるのかな?』と今も不思議に思っています。彼女の作品には特別な美しさがありますし、所有したいと思わせられる作品です(南)」。

空間と共存する金物

当時の展示会にあった数ある作品の中でも、南の審美眼にかなった中村友美の金工作品。彼女は、大学ではインテリアデザインを学び、デザインや建築に没頭していたという。卒業後の数年間は企業でデザイナーとして働いていたが、その勤務地の環境が作家人生へのきっかけとなったようだ。「もとは愛知県常滑市に本社がある住宅設備機器の会社に就職しました。常滑は焼き物の産地として有名で。私はデザインセンターに配属され、未来のコンセプトモデルなど商品開発に携わっていました。でも、自分がしていることに実感がなかなか湧きづらくて。そのことに悩んでいたときに常滑の作家たちに出会いました。彼らの『今日思いついたアイディアを、明日にはモノとして形にしている』というサイクルに惹かれたんです。その中で、名古屋の金工家のご夫妻との出会いが大きな転機でした。家業のお茶道具を作る傍ら、自由な作風で作品作りもされていて、その造形の美しさにとてつもないものを感じ、そこから金属に興味を持ち始めました。その出会いからしばらくしても思いが捨てきれず、会社を辞めて金工を習い始めたんです(中村)」。

お湯を沸かせるオブジェ

興味を持ったことに正直になり、その道に進む決意はなかなかできることではない。だが中村は、それまでの経験や活動を金工家としての活動に活かしている。だからこそ、オリジナルな存在感を醸し出す作品が生まれるのではないだろか。「もともとインテリアデザインをしていたので、モノが空間に置かれたときの佇まいを自然と考えてしまうんです。シンプルな形状で、邪魔にならず空間に馴染むように。そういう視点で自分が欲しいもの、あったらいいなって思うものを作っています。一番最初に作った作品がヤカンだったのですが、ヤカンの面白さは『お湯が沸かせるオブジェである』という点だと思います。ヤカンや急須をはじめとしたお茶の道具は、見立てや取り合わせの妙、合理的な配置の仕方などが面白くて。そもそもお茶の世界観が空間を捉えているんです。建築だけではない要素で空間を作ることが日本的な感性だと思います。だからこそ、一つ一つの作品を美しく作ることはもちろんですが、それらが並んだときや群れた時の空気感を一番意識しています。ヤカンや急須には、注ぎ口やつまみ、蓋や持ち手などディテールがいろいろありますが、それはインテリアの床や壁、天井などのパーツの寸法を決めることに近い感覚があるんです。ディテール次第では、空間や空気感を遊ぶこともできる。でもやり過ぎると主張が強くなってしまうので、抜き具合のバランスや素っ気なさを大切にしています。そうやってモノとして美しいだけでなく、他のモノや場の空気感と調和して空間を構成する作品をこれからも作っていきたいです(中村)」。

インテリアや建築を学んだ中村だからこそ生み出せる、空間と調和することを考えられたヤカンや急須。自分が今いる場所のどこに中村の作品を配置してみようか?そう考えると今まで過ごしていた空間の捉え方が変わってくるし、新たな空気感が生まれそうで心が躍る。家で過ごす時間が増えた昨今だからこそ、中村の造り出す金工作品に触れ、日本伝統の茶の文化に通じる空間の在り方と捉え方を改めて考えてみたい。

中村友美
武蔵野美術大学にてインテリアデザインを学び、卒業後は企業にてデザイナーとして働く。当時住んでいた愛知県常滑市での出会いから金工家を志し、現在に至る。

南貴之
クリエイティブディレクターとして活躍し、コンセプトストアのグラフペーパーやヒビヤセントラルマーケットなどのディレクションを行う。グラフペーパー青山店に新たにオープンしたギャラリー「白紙」も要注目。

Select Takayuki MinamiPhoto Masayuki NakayaInterview Takuya Chiba
Edit & Text Yutaro Okamoto

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