ART & CRAFTS Kasama Ceramics AKIO NUKAGA

辿り着いた境地は“不完全の美”

L to R
Width 106mm Height 309mm
Width 173mm Height 140mm
笠間焼の名匠

粉引 (赤土を原料に形を作り、白化粧をする技法)の素朴な表情とプリーツワーク (しのぎ)をシグネチャーとし、世界的にも高い評価を誇る笠間焼の陶芸作家、額賀章夫。30年以上に渡って陶器を作り続けてきた額賀だが、新たな表現に挑戦した作品をギャラリー白紙にてお披露目することとなった。同ギャラリーをディレクションする本連載ナビゲーターの南貴之は、額賀の作品の魅力をこう話す。「額賀さんは陶芸のベーシックをしっかり押さえながら、常に新しい表現を求め続けていらっしゃることが素晴らしいです。作品はどれも額賀さんが作ったとわかるオーラに溢れつつ、いつも目新しさを感じさせてくれます。作家としての軸がしっかりあるからこそ、常に変化していってもブレない強さがあります。アート的な挑戦とクラフトの技術を見事に両立され続けている名匠ですね(南)」。

素顔で演技できる役者のように

確かな技術力があるからこそ、新たな表現に挑戦できる。額賀はオリジナリティある作風と現在のキャリアをどのように積み上げてきたのだろうか。「手仕事を生業にしたいと思って美術大学に通っていたのですが、作品を生み出すという能力に自分の限界を感じ、職人の道に進もうと思いました。職人は時間と経験を積んで技術を磨き、先人たちが築いた知恵と身体感覚を受け継ぐ存在です。私もそのような身体感覚を身につけたいと思い、器を日に1000個も挽く職人のもとで修行しました。来る日も来る日も大量に器を作り続けて気づいたのは、人がものを作るときにはどうしても息遣いや人間性といった“らしさ”のような自分の感性が反映されるということです。私が用いている粉引は昔からある技法ですが、『額賀さんらしさをどの作品からも感じる』とよく言ってもらえるのは、職人修行時代に得た感覚が生きているからなのかもしれません。役者の緒形拳さんの演技を昔見たときに、演じているけれど素の表情や動きに見えたことがありました。その感覚が器を作ることの私の理想にも近くて、素顔で演技できる役者のように作品を作りたいと思っています(額賀)」。

整った形をどう崩していくか

身につけた“自分の息遣い”を表す制作スタイル。額賀章夫という作家の個性が確立されているからこそ、日々自分の呼吸のリズムに合わせて制作を楽しんでいるようだ。そうして最近新たに取り組んでいるのが、“不完全の美”を表現することだという。「近代日本美術史において重要な存在である岡倉天心が書いた代表作に『茶の本』があります。その中に“不完全の美”という概念が出てきます。『本当の美しさは、不完全を心の中で完成させた人だけが見出すことができる』という意味だと解釈できます。私が今持っている技術で、不完全の美をどのように表現できるか挑戦したいと思いました。轆轤(ろくろ)で陶器を作ると、良くも悪くも均整の取れた形になります。その整った形をどう崩していくかを長年考えていました。試行錯誤していく中で辿り着いたのが、フチをぶった斬ったようにすることでした。壊れたような見せ方を意図的にすることは、私なりの“不完全の美”の表現となりました(額賀)」。
「とてつもない技術を持った額賀さんが、あえて“不完全の美”を表現することがとても興味深いです。キチっとした形には完成させない。意図的にそう作ることは新たなチャレンジだと思いますし、額賀さんの作品をこれまで見てきた人にも新たな驚きを与えるだろうとワクワクしています(南)」。機械ではなく人間が作るものの美しさや味わい深さは、まさに“不完全さ”に依るところが大きいのではないだろうか。完全さや合理性が時代を追うごとに求められてるように思えるからこそ、額賀は「人間らしさ」を求めた先に“不完全の美”を見出したのである。

額賀の代名詞でもあるプリーツワークと粉引の端正な美しさと、新たに挑戦した“不完全の美”を表現するための壊れたようなフチのディテール。「完全な美」と「不完全な美」という相反する美の価値観が共存した、額賀の作品の新たな境地とも言える。

額賀章夫
1963年生まれ。1985年、東京造形大学造形学部デザイン学科II類を卒業し、向山窯にて修行。笠間にて独立。プリーツワークやブロックプリント、錆粉引など様々な表現を用いつつ、一貫して溢れる額賀らしさが高い支持を誇る。

南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。最近は焼酎やクラフトビールなど、お酒をテーマにしたプロジェクトを多く手がけている。

Select Takayuki MinamiPhoto Masayuki NakayaInterview & Text Yutaro Okamoto

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