ART & CRAFTS Glass KENICHI SASAKAWA
再生ガラスを用いた 薄暗い光に溶け込む美しさ
薄暗い場所でも存在感ある色合いと凛とした佇まいが美しいこれらの作品は、再生ガラスを素材としたものづくりを行うガラス作家・笹川健一によるものだ。再生ガラスとは、廃ガラスを回収して細かく砕き(砕かれたものはカレットと呼ばれる)、再び高温で溶かして形作るガラスのこと。中でも笹川が材料として用いるのは、使い終わった蛍光灯のカレット。それを自身の窯で溶かし、いくつかの金属粉を独自のレシピで加えることでこの色合いを生んでいるのだ。まずは笹川の作品を紹介してくれたクリエイティブディレクターの南貴之にその魅力を聞いた。「とにかくもう色がいいですよね。えもいわれぬというか。ほかには見たこともないような、笹川さんだから生み出せる色だと思っています。穏やかで静かな雰囲気を出しつつ、空間に対して存在感を放つ一面も持っている。僕は彼のコップやワイングラスを日常的に使っていますが、お水を入れるとまた表情が変わって素敵なんです。入れた飲み物の邪魔をしない絶妙な透明さと色の加減がすごく好みです。きっと何度も何度も試行錯誤して生み出した色なんだと思います。色はもちろんですが、器ってそもそも形が大切ですよね。笹川さんの器にはシャープな印象を感じていて、この独特の色合いと相まってさらにかっこいい。色と形のどちらかに特化した作品はほかにも多くありますが、笹川さんの作品は両方のクオリティが高いからモダンな雰囲気を醸し出しているのだと思います(南)」。
よくみると泡が多く入っているが、これは笹川による意図的なもので、ぐれーがかったガラスに心地よいノイズを与えている。「あまりにも好みの色」と南が口にするほどのガラスだが、作り手の笹川はどのような作品を目指しているのか。「大学ではガラスを専攻していました。当時はヴァージン原料(珪砂や石灰などの天然資源を用いたガラス)を用いた無色透明なガラスでオブジェを作ったり、インスタレーションを行なっていました。その後に金沢で3年間過ごしたのですが、その時期が今の作風に繋がっています。それまでは伝統工芸のことをほぼ知らなかったし、批判的ですらありました。だけど金沢の街には伝統工芸や茶の湯文化の美しさが日常的に存在していて。僕はニュータウン育ちでアメリカナイズされたものが好きだったのですが、日本育ちでありながら日本のカルチャーにショックを受けました。そして工芸の世界や用の美の深みをどんどん調べるようになりました。奇抜なことをするのではなく、さりげない美しさが生活に溢れている金沢はとても刺激的な街でした(笹川)」。
笹川は金沢で経験した日常的な美しさに衝撃を受け、それからはオブジェではなく器を多く作ることになったという。そして作品の特徴である色合いも、金沢の街から受けた影響が大きいと話す。「金沢はいつも天気が悪くて、光がとても弱いんです。でもそのぼんやりとした暗さに溶け込み、時にはぬらっと光るガラスがとても美しくて。谷崎潤一郎が語る陰翳礼讃の世界を初めて体感しました。そのダークトーンの美しさにもショックを受け、無色透明なガラスではなく、色のついた再生ガラスを使い始めました。コバルトやニッケル、銅を独自のレシピで調合し、さらに泡も含ませることで、弱い光の中でこそ美しさを放つような色を目指しています(笹川)」。
笹川健一神奈川県出身。多摩美術大学美術学部工芸学科ガラスプログラム卒業。その後も大学院やさまざまなプログラムでガラスに関する知識を深める。現在は京都に工房を構え、自分の手で作り上げた窯や道具を用いて理想の透明を追求している。
南貴之アパレルブランドやギャラリー、コーヒーショップに商業施設など幅広いプロジェクトを手掛けるクリエイティブディレクター。新たにオープンさせた「Gallery 85.4」は、「人と人」「人と作品や物事」の新しい関係を創造する空間を仕掛ける。
Select Takayuki Minami | Photo Masayuki Nakaya | Interview & Text Yutaro Okamoto |