ART COLORS POLA MUSEUM OF ART

芸術家が獲得してきた 色への多彩なアプローチ

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Opticks 026, 2018
Opticks 029, 2018
Opticks 082, 2018
Opticks 048, 2018
by Hiroshi Sugimoto
©Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi ※ 前後期で5点ずつの展示

「色とは何か?」と問われるとどう答えるだろうか。今回のSilverでは「色」をテーマにしているが、知っているようで知らない「色」について改めて考えるきっかけとなった。そして冒頭の問いについてのヒントとなる美術展が、ポーラ美術館で現在行われている。「カラーズ ― 色の秘密にせまる印象派から現代アートへ」と題されたその展示は、芸術家たちが獲得してきた色彩とその表現に注目し、色彩が私たちの心にどのように働きかけているのかを読み解いていく構成となっている。絵画や写真、インスタレーションなどさまざまな表現の作品が展示され、感性に秀でた芸術家たちには世界がどのような色に見えているのか、そしてそれはどのような心のあり方につながっているのかを体感することができる。最初に展示されているのは、プリズムが生み出す色彩の美しさと繊細さを切り取った杉本博司の「オプティクス」シリーズ(ページトップ)。分光装置であるプリズムを透過した光のスペクトルをポラロイドカメラで撮影し、そのプリントをスキャンして色調を微調整、拡大して印画紙に焼き付けた作品だ。インスピレーションとなっているのは、1704年に出版されたアイザック・ ニュートンの著作『光学(オプティクス)』。太陽光は白色ではなく、プリズムを通すことによって赤、橙、黄、緑、青、藍、紫など複数の色から構成されているということを解き明かした一冊だ。ニュートンが光学的に明らかにした光と色の関係をアートとして表現すべく、杉本は15年もの歳月をかけてこのシリーズを形にした。「光を絵の具 として使った新しい絵(ペインティング)」という杉本自身の表現がユニークであり明快だ。色をテーマにした展示のプロローグとして「色は光によって存在する」という科学的な前提を示す作品を置いたことは、その後に展示されている作品の色へのアプローチへの自由さ、多彩さに驚くスイッチにもなっている。
その後の展示では光と色彩の科学を応用することで確立された色彩理論に触れ、補色のコントラストで劇的な場面を描いた画家たちの表現技法の高まりを知る。クロード・モネやウジェーヌ・ドラクロワが赤と緑のコントラスト効果を用いているのがその例だ。そして展示は印象派の作品へと続いていく。色彩や光の印象を大胆に表現する印象派は、物体の固有色を否定して光の変化によって移ろう対象物の色彩を捉えようとした。それは対象物自体の色彩の再現という束縛から絵画を解放することであり、新たな色彩の獲得を意味する。その決定的なムーブメントが20世紀初頭にフランスで起こった、野獣派とも呼ばれるフォーヴィスムである。「色を解放した」と評されるフォーヴィスムの強烈な色彩感覚は、アンリ・マティスの作品がその代表格。 事実、彼が“色彩の魔術師”と称されるゆえんでもあり、その影響は今日の私たちの色彩感覚にも及んでいるといえる。
展示はその後もさまざまな角度から色彩を探求し、物体性との関係にフォーカスする。 1950年代に登場したモーリス・ルイスやヘレン・フランケンサーラーは、下塗りをしないカンヴァスに絵の具を染み込ませるステイニングによって、画面から絵の具の物質性を抜き取って色彩そのものを表現しようと試みた。ルーチョ・フォンタナは色のついたカンヴァスをナイフで切り裂くことによって抽象的な色面を質量のある物体へと還元する。ドナルド・ジャッドは作品に使用されている資材の色をそのまま作品の色として表現し、ダン・フレイヴィンは蛍光灯の色そのものを作品として、ありのままの色で空間への視覚効果を探求した。近年の作家のアプローチとしては、ヴォルフガング・ティルマンスは暗室で光を操りながら印画紙を露光させて流動的なパターンを描き出した「フライシュヴィマー」シリーズを制作。杉本同様に写真家らしく光から色にアプローチしている。ゲルハルト・リヒターの「ストリップ」シリーズも現代ならではのデジタルなアプローチで、同氏の別作「抽象絵画」のスキャンデータの細分化を繰り返し、4096本の極細の細片(ストリップ)にまで変換した作品だ。細片には画素のレベルまで分解された色彩が含まれている。ここには書ききれないほどの作品がまだまだ展示されており、色をさらに探求したい方はぜひ会場へ足を運んでいただきたい。色の解釈を間違いなく広げることができるだろう。

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The Lute 1943 by Henri Matisse
Freischwimmer 74 2004 by Wolfgang Tillmans Strip (926-3) 2012 by Gerhard Richter © Gerhard Richter 2024 (18062024)

会期:2025年5月18日(日)まで無休
会場:ポーラ美術館
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間:09:00-17:00

Text & Edit  Yutaro Okamoto

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