Wonder Valley Interview with Alison & Jay Carroll
オリーブオイルから始まった 自分達の暮らしに寄り添ったブランド
そんな2人のオリーブオイル
ロサンゼルスの洒落た雑貨屋を覗くと、最近よく出会うようになったライフスタイルブランドがある。カリフォルニアらしい夕日と女性のグラフィックが描かれたスキンケアを中心としたプロダクトのそれは、“WONDER VALLEY(ワンダーバレー)”というブランドのもの。ウェブサイトやSNSで情報を調べると、仕掛け人であるアリソンとジェイ・キャロル夫妻による豊かなライフスタイルの様子がプロダクトとともに投稿されており、それがとても魅力的だった。ワンダーバレーのこと、2人のライフスタイルについてヒントを得ようと、彼らが住むジョシュアツリーにある自宅を訪れた。
オリーブオイルオイルに魅せられて
ジョシュアツリー国立公園の入口手前の道を折れて、土埃を立てながら車を走らせ待ち合わせ時間の夕方6時に到着すると、言葉では表現しきれない黄金の光が辺り一帯を包んでいた。清楚な白壁が眩しい家の入り口には端正にサボテンが植えられ、この住処に込められたシンプルなデザインマインドが伺える。そこで私たちを迎えてくれたのがアリソンとジェイ・キャロル夫妻。街の生活から離れ、砂漠のこの家に暮らし始めて8年が経つという。ブランドとしてワンダーバレーの始まりは、オリーブオイルだったという。当時サンフランシスコに暮らしていたアリソンは“カリフォルニア オリーブオイル カウンシル”という、オリーブオイルのクオリティ維持を目指した評議会で働きながら経験を積んでいた。「その物語や歴史を知れば知るほど、古代からスーパーフードとして崇められていたオイルの深みにハマりました。一口にオリーブオイルといっても多様な品種が各々の風味を誇り、収穫時期やブレンドによっていろいろなスタイルの仕上がりになる。さらにヨーロッパの王族はオリーブオイル浴をしていたというし、イタリアの街灯はオリーブオイルで照らされていたともいう。古代から人間の暮らしの様々な場面になくてはならない存在だったんです(アリソン)」。身につけた知識を生かし、とびきりのカリフォルニア産オリーブオイルを、と最初のリリースに二人が踏み切ったのが2014年。一つのプロダクトに込めた真摯な思いが評判を呼び、最初の発売からわずか3か月で全て売り切れてしまったのだそうだ。
不便な砂漠だからこそ
生まれる豊かな想像力
砂漠での暮らしとブランドの始まりは、運命的に重なった。「僕らは何でも頭から飛び込むたちでね。1959年築の家を改装し始めたら、かなり徹底的に手直しをしなくてはならないことが判明して。それなら理想の家を作ろう、と僕もアリソンも毎日腕まくりをして、大工職人と肩を並べて取り組んだんです(ジェイ)」。屋根がない時期もあったという家の修復中は、1951年型のビンテージトレイラー“Vagabond(バガボンド)”に暮らし、改装したガレージがワンダーバレーのオフィスとなったという。この土地に暮らすに当たって身の回りのものを多く手放したという二人は、住空間を自らの手で作りながら、本当に自分たちの暮らしに必要なものって何だろう、と煮詰めて考える機会を手に入れたのだ。「このブランドのアイデンティティは砂漠での僕らの暮らしが核にあります」と話すジェイ。都会のようにはいつでも何でも揃わない暮らしの中で、オリーブオイルの万能性に二人の想像力はくすぐられる日々だったという。毎日外で作業する肌をいたわるために、オリーブオイルを使ったスキンケア商品が欲しい、と取り組んだアリソンは、石鹸、フェイスオイル、ボディオイルをまず開発した。「ワンダーバレーで作るものは、自分たちがいちばんのテストケースだと思うんです。乾燥した暑い砂漠気候の暮らしに加え、水だって硬水です。だから自分のプロダクトを一番使っているのは私たちじゃないかしら?」とアリソンは笑う。「オリーブオイルの素晴らしいところは、肌につけるだけではなくて、内側からのスキンケアを実践できること。私たちのオリーブは毎年収穫状況によってブレンドが変わりますが、早めの収穫で、ポリフェノールをより多く含んだオイルができるように配慮しています」。料理好きのアリソンは、チリオイルを作り置きして料理のアクセントにしたり、ときにはアイスクリームにひと匙オリーブオイルをかけることもあるそうだ。ワンダーバレーのウェブサイトには、アリソン始め、料理家の友人たちが紹介するオリーブオイルを使った様々なレシピで賑わっている。「いい食事をすることが、スキンケアにも繋がる。それは大切なメッセージだと思っています」。
ワンダーバレーのそんな一人称のプロダクトは、彼らのライフスタイルも反映して展開している。暑く乾燥した気候にもってこいのアウトドア・シャワーに加えて、パンデミック中にバスタブを足したという二人。「そのおかげで外で過ごす時間がずっと増えました」とはアリソン。必然的にバス周りのタオルが欲しくなり、火照った体にまとうバスローブも欲しくなる。「そんなインスピレーションを感じた時は、自分たちで何とか工夫して作ってしまおう、というのが僕たちの癖でね。また、素晴らしい手仕事をしている職人さんに出会ったら、何か一緒に作りたい、という衝動に駆られてしまうんです。そんな風にクリエイティブな交流を見出す中で、ワンダーバレーのプロダクトが生まれてくることが多いですね」とジェイも加える。タオルの伝統工芸が盛んなトルコを旅し、様々なプロダクトを考察したが、結局二人が帰着したのは伝統的なリネンタオルだった。「とても軽いし、乾きやすい。一つ一つ手織りされる工芸品で、一日に数枚しかできない、という丁寧な作りがいいですよね(ジェイ)」。このようにものづくりの背景をきちんと語ることも、彼らは大切にしている。
ブランディングやクリエイティブ・コンサルタントとしても活躍するジェイだが、それらの仕事は、明確なゴールがあるもの。対して、自分たちの暮らしに寄り添った、あえてプランを持たないワンダーバレープロジェクトにとても自由な魅力を感じているという。「この土地に引っ越してきたときに掲げたのが『 grandeur and simplifiedliving (偉大なるシンプルな暮らし)』というモットー。家づくりの時もそうでしたが、やりたい、という気持ちさえあれば、なんとか体はついてくるもの。僕もアリソンもやると決めたら全力を注ぎ込んで、そのプロセスを楽しむことが得意なんです(ジェイ)」。どんなチャレンジにも物怖じせず、二人で冒険にしてしまう心意気が頼もしい。
近年ジェイの出身地であるメイン州の小さな島の水辺に家を買った二人は、夏の間は東海岸で過ごすことが多くなった。「メイン州では水が暮らしを取り巻いています。去年はジェイが見つけてきた古いボートを自分達で直したり、近所の引退した漁師さんたちに混じってロブスターを捕まえてきたりしていました。そういえば、去年行った海藻採集に着想を得て、ちょうど海藻を使ったボディー・スクラブを発表したばかりです(アリソン)」。砂漠に絶対的なインスピレーションを置くワンダーバレーだが、こんな風に二人の体験していることが自然とプロダクトになり得ることは、とてもリアルで信頼が置ける。
二拠点生活にも慣れてきたというジェイとアリソンだが、それでも冬のカリフォルニアのファーマーズマーケットの色鮮やかさには、毎年感動するのだという。「レモン、グレープフルーツ、オレンジ、柿、柘榴!カリフォルニアの冬ってマーケットがキラキラしている」とため息をつくアリソンは、季節ごとに拠点を行き来することには、隠れた新鮮さがある、とも語る。荒い環境に晒されるジョシュアツリー。水に囲まれたメイン州の暮らし。まっさらなキャンバスのような、自由な西。伝統と歴史が心地よい東海岸。二人に子供が生まれ、三人の風景となったワンダーバレーの新しい暮らしから次は何が生まれてくるかを楽しみにしたい。
アリソン・キャロル
ニュージャージー出身、1987年生まれ。
カリフォルニア・オリーブオイル・カウンシルでの経験を生かし、2014年に新しいカリフォルニア産オリーブオイルブランド、WONDER VALLEYを共同設立。
ジェイ・キャロル
メイン出身、1979年生まれ。
アリソンとともに立ち上げたWVの他に、ホテルのディレクションなどのクリエイティブ・コンサルタントとして活躍する。
welcometowondervalley.com
Photo Sean Hazen | Interview & Text Aya Muto Coordinate Daiki Fukuoka | Edit Takayasu Yamada |