Tokyo’s New Taste

東京から発信する 新たなフードカルチャー

いま東京の食が面白い。さまざまなバックグラウンドを持つ料理人たちが、クリエイティビティを存分に発揮して新時代を生み出しつつある。日本橋兜町のワインショップ“Human Nature”のサポートを行いナチュラルワインをこよなく愛している江田龍介(balディレクター)にとってオーガニックや発酵食品は必然的であり、今回紹介するお店たちも、それに紐づいている。江田の舌を唸らせる、東京ならではの食文化を持つ店を紹介する。東京にあったとしてもわざわざ行きたい店には違いない。

Yuge
[Sinnakano, Tokyo]

ジャンルの垣根を越える
モダンな家庭中華 湯気

「店主の田口さんとはまだHuman Natureが南台にあった頃から仲良くさせていただいています。中華とナチュラルワインのペアリングが気軽に楽しめる場所として、『湯気』はすごく好きな場所です。その為によく中野まで足を運んでいます。中国の家庭料理から着想を得たオリジナルの中華は、田口さんがその日の食材で良いと思ったものだけを使って作られており、日によってメニューも変わるので、毎回違うものが食べられるというワクワク感がありますね。街の中華屋さんのような雰囲気の中でナチュラルワインを楽しめるのも『湯気」ならではですね。

また、肉屋や魚屋、八百屋だったり、家族経営されているお店の人たちと会話を楽しみながら、食材を選ばれているんです。中野という人情味溢れる下町だからこそ、そういった強い信頼関係を築きあげながら互いを支え合っているのだと思います。もちろん味付けにもこだわられていて、シンプルな調味料から、師匠から譲り受けたという中国伝統の調味料まで、食材に適した味付けをされているんですよね。さらに建物の2階には田口さんの奥さんが営む花屋さんがあるんです。店の入り口には、ドライフラワーが多数置いてあり、中華料理店だと思っていくとイメージを覆されます。ほかにも店内にはアート作品が飾られており、ギャラリーのようなミニマルな空間が目を惹きます。食というジャンルの垣根を超えてさまざまなカルチャーが行き交う店内は、東京の食文化の新たな可能性を考える上で非常に重要なインスピレーションを得られるのではないでしょうか」。

叩いたブロック肉を手作業で包み込んだ人気メニューの焼売。右のプレートは、台湾ピータンの上に甘酢に漬けた新生姜を添えた一品。

焼売とピータンに合わせて出してくれたフランス、ロワール産のフィリップ・デルメの自然派ワイン。エチケットは、世界でも有名なパブロ・エスコバルがモチーフとなっている。

東京都中野区本町 4-5-18
070-3861-8300
@yuge_nakano

caveman
[Kabutocho, Tokyo]

海外から見た日本を表す一皿に
東京ならではの魅力を感じる
ケイブマン

「もともと金融街のイメージしかなかった兜町周辺はHuman Natureを筆頭に、近年東京の新たなる食文化の発信地として盛り上がりを見せています。その中でも代表的な存在となるのがcavemanです。目黒の多国籍料理店kabiの姉妹店として2020年にオープンした同店ですが、その驚くべき食材の組み合わせには毎回脱帽させられますね。ヨーロッパを中心に修行していたスタッフが海外で気づいた日本らしさ、東京らしさを持ち帰り、それを一皿一皿に表現しているんです。日本では昔から味噌や納豆などの発酵食品が根付いていた土壌があるから、そこに着目して生まれたのが彼らの得意とする発酵系のジャンルなのだと思います。そういう料理は地方だと食べられないというか、東京であるからこそ海外からのエッセンスをそのまま提供するのではなく、ひと手間加えてカルチャーをミックスさせてしまう。ナチュラルワインも言ってしまえば発酵系のお酒ですから、合わないわけがないですよね。また個人的にはもうひとつ東京らしさを感じるポイントがあるんです。cavemanの内装はスウェーデンのデザインチームのCKRがデザインしていて、植物が多く配置されたり柔らかめの北欧らしい空間になっているのですが、そんな空間の中でもディナータイムの音楽ではゴリゴリのテクノが流れていたりするんですよね(笑)。いわゆるレストランって普通ジャズだったりクラシック音楽がかかっていると思いますが、かなり攻めているなと思いました。でもそれが不思議とカジュアルにリラックスできる空間を演出している。そういった意外な音楽性であったり、ちょっとした要素にカルチャーの香りを感じるところも東京的な魅力だと思うんです」。

この日用意してもらったのは2皿。蝦夷鹿のもも肉ローストに柿とバニラビーンズ、ネパール山椒を添えたものと、蕪のローストにトマトと昆布、カツオの出汁を敷き、九条ネギ、玄米のパフ、佃煮にした実山椒を添えたもの。蝦夷鹿や蕪と言った素材はcavemanスタッフと親交のある同世代の猟師や農家から仕入れる。誰がどのように作っているかを全て把握しているからこそ、ストーリーのある一皿へと仕上がるのだ。2ヶ月ごとにコースの内容が変わっていくのも楽しみのひとつ。

東京都中央区日本橋兜町 3-5
03-5847-1112
@caveman_tokyo

Gallo Yotsuya
[Yotsuya, Tokyo]


生産者と食を繋げる
体験型レストラン
ガッロ四谷

「ガッロはもともとイタリアンのシェフとして活躍されていた小川さんが手掛ける炭火焼き鳥とワインをベースとしたお店です。安心、安全、鮮度、美味しさ、季節感を大切にし、国産食材とオーガニック野菜にこだわり、生産者との繫がりを大事にする小川さんは、毎週のように地方の農家や漁師さんのもとを訪れ実際に畑や漁のお手伝いされています。そういった選りすぐりの食材を提供する場として、ガッロという新たなスタイルの居酒屋が生まれました。日本全国の様々な生産者のもとから毎日その日獲れた美味しい魚や野菜が届くので、それぞれの料理に使用されている食材の背景にあるストーリーを知ることができるのも素敵ですよね。

毎日食材は異なるので小川さん自身も箱を開けるまでどういったものが入っているのか分からないらしく、僕もここを訪れる度に、その日だけの食材を使って料理したスペシャルコースをいつも楽しみにしています。そんな唯一無二の料理と一緒に楽しめるナチュラルワインの品揃えも豊富で、自分が選んだワインに合う料理を提案してくれたりもします。また、様々な場所で育った美味しい食材を東京で食べるという、生産者と食を繋げる場としての切り口が面白いです。北海道から沖縄まで、日本全国から美味しい食材を探し、集めて提供できるのは東京ならではだと思います。四谷という場所に誕生した、カジュアルでありながら本格派の料理とワインを存分に堪能できるこの場所は、いろいろな意味で東京の新しい食の繫がりを作ってくれるのではないでしょうか」。


ヤガラ(写真上)とスマガツオ(写真中)をグリルし、シンプルにオリーブオイルで味付けしたもの。全て鳥取の境港にある魚店から仕入れたという新鮮な食材。また、料理に合わせて提案してくれたのは、フランスやオーストラリアで活躍するフランス人醸造家JBとGRAPEREPUBLICの合作ワイン、浪人汁(写真下)。

東京都新宿区四谷3-9-18 慶和ビル 2F
050-5570-0708
@gallo.yotsuya

beet eat
[Kitami, Tokyo]

自ら狩り、料理する
食に対する責任感
ビートイート

「ビートイートは、店主の竹林久仁子さん自ら狩猟に出向き、ハントした鹿や猪などのジビエ料理とナチュラルワインを楽しめる、東京ではなかなか経験することのできない独自のフードカルチャーを持つお店です。マクロビオティックという哲学を独自の視点で解釈した、食への実直な姿勢は目を見張るものがあります。ランチの時間は、オリジナルのインドカレーを出されているのですが、僕がおすすめしたいのが、上質な獣肉を使ったディナーコース。その中でもメインディッシュの鍋は絶品です。狩猟はシーズンが決められているので、店を訪れる度に異なる獣肉を食べることができ、野菜は無農薬の西洋野菜を使っていたりして、視覚的にも楽しめます。

また、調理方法にもこだわられており、食材の味を最大限に活かしたシンプルな味付けは、肉や野菜本来のおいしさを堪能できます。食品が口に入るまでに多くの人の手がかかっていることは普段の生活の中で見過ごしがちですが、自らの手で野生動物を仕留め、持ち帰り、手間ひまかけて作られているジビエ料理からは、そんな食品に対するありがたみを改めて認識することができる。竹林さんのジビエ料理に対するアプローチは、ナチュラルワインとも相通じる部分があります。そもそもナチュラルワインは限りなく自然な製法で作られているので、オーガニックミートと相性がとても良い。そして何よりも、天然の獣肉を、純粋な食材として楽しめるこの店は東京での食生活の幅を広げてくれると思っています」。


新鮮な熊の肉と無農薬の西洋野菜を使った熊鍋。だし汁には鰹と鯖節を使用。シンプルな味付けをすることで、食材本来の美味しさを楽しむことができる。そしてこの日、熊鍋にペアリングしてくれたのは、フランス、アルボワで造られたパトリス・ユグ・ベグのナチュラルワイン。エチケットに描かれた熊のイラストにユーモアを感じる。

東京都世田谷区喜多見9-2-18 喜多見城和ハイツ B1F
03-5761-4577
@beet_eat_2015

Select Ryusuke EdaPhoto Naoto Usami (P72, P73, P75, P76, P77)
Asuka Ito (P74)
Interview & Text Shohei Kawamura
Shunya Watanabe

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