THE THINGS Supreme Box logo T-shirt

野村訓市が語る シュプリームの魅力

ライフタイムリスペクトな服、それがシュプリーム

先日、ものすごい久しぶりというか前回の記憶がもうほぼないほどな感じで韓国のソウルへ行ったのだけれど、まぁ変わってましたよ。変わったって何から?はい、比較するにも記憶がないのだから適当言うんじゃねえと言われればそれまでなんですが、確かに発展していてなんか元気なわけなんですよ。2泊しかしなかったので、まぁ夜が賑やかだなくらいしか見なかったのですが。なんで行ったのかといえば、それはアジアの本土初のシュプリームのソウル店ができるとからそのオープニングに招待されたからで、とうとうアジア本土にも店ができるのかと感慨深い気持ちに浸りつつ、昔を振りかえちまったりしたわけだ。

俺がシュプリームを知ったのは90年代の後半。ブランドの設立が94年なわけだから、結構時間が経ってからとなるのだが、その頃の俺は立派なバックパッカーとして正しい生活、つまり極めて貧乏で、日本で何が起きているのかに突然断崖絶壁の孤島に住んでいるくらい疎くなっていたのでしょうがない。スケートといえば西海岸、カリフォルニアだという宗教ばりの思い込みもあったかもしれない。けれどやがて知ったわけだ、ニューヨークにあるシュプリームという店とそこのボックスロゴを。今ではニューヨークにはマンハッタンとブルックリンに2軒あるが、最初はニューヨークに1軒だけ、それもソーホーのラファイエットストリートにあった。ソーホーといってもラファイエットには大した店が他になく、キース・ヘリングの ポップショップと、確かいつからかシュプの隣のDJホンダの店があったくらいだった。

店の内外に溜まる、客なんだかただのローカルなんだかわからない奴らの気だるい雰囲気。店員達も、他所の店では絶対雇われないだろうバイブをオーラのように発していた。ダウンタウンのキッズが溜まる店、一言でいうとそうなる。明るく親切なサービス、きめの細かい接客、そんなのは無縁でどちらかといえば、物販の店というより夜のバーとかクラブみたいな方が近い感じだったかもしれない。当然、観光客やちょっと買い物をしに扉を開け、中に入ったもの達にとってはどこか部外者が部室に入ってしまったような、ピリっとした緊張感があった。けれど、1人でもその店員達と知り合い、話すようになるとYo!という感じでいきなりウェルカムにもなる。俺のニューヨークで一番の親友である写真家で映像作家のシェイディもラファイエットの店の前で会った。取材先をこれからどうしようかと思案してると、店の前をスケートで現れた男がUターンのようにしてこちらに来ると「お前どっかで会ったことあったよな?」と話しかけてきた。それからすぐに家へと連れて行かれ、それまで撮った写真やらビデオを見せてくれた。 手がけたハウス・オブ・ペインやサイプレス・ヒルのビデオと一緒に見せてくれたのがシュプリームの最初のスケートビデオやキャンペーンの写真たち。以来もう20年以上一緒に働いているけれど、シュプリーム回りというのはどこかそんな感じだった。「俺の家こいよ!」とか「飲み行こうぜ!」とか。歳も当時の自分と同じくらいな奴らがたくさんいた。映画「キッズ」に出ていたピーターやジオ、みなダウンタウンを徘徊し、ニューヨーク1ビールが安いというバー、マックスフィッシュで夜を締める。

それから今はマイアミにいるエーロン・ザ・ダウンタウン・ドン。あいつはとにかく1日中街を動き回わっては、いろんな奴をブランドに連れてきた。フォトグラファーのライアン・マッギンリーやアーティストのダン・コーレンに今は亡きダッシュ・スノウ。一緒にパーティに行けば本当にはちゃめちゃだった。それから2000年代の頭にはまだジェイソン・ディルもニューヨークに居たし、それは楽しいものだった。ニューヨークのダウンタウンは活気があって、夏にもなれば道には人が溢れ、店から店へと梯子をしたものだったが、そんな街の服がシュプリームだった。 気付けば世代も移り変わっていったが、俺にとってのシュプリームのイメージは変わらなかった。ニューヨークのキッズがハングする店。ロス店を皮切りにロンドン、パリ、ブルックリン。どんどんと店が増えていっても、そこはどこかラファイエットの店と同じ匂いがした。

20代で着始めて、もう50歳になったわけだから俺はシュプリームの服を20年以上着ていることになる。おっさんが着る服ではないのかもしれないが、自分にとってはもうラルフとかそういう感覚なのだ。もちろん時代によって服は変われば、自分の趣味も変わるわけで、なんでもかんでも着れるわけじゃない。
そもそも自分はわりとシンプルというか、あまり派手なものや変わったものを普段着るわけじゃないから、それに合うものを選ぶ。そうやってみれば着れるものはたくさんあるわけだ。例えば無地のBDシャツとかもある。だからスーツにシャツを着てタイをしなきゃいけないってときはシュプリームのBDシャツを着る。無地のスウェットを着たいときは、スモールボックスのスウェットを着る。よく「好きなブランドはなんですか?」とか「好きなデザイナーは?」と聞かれることがあるが、たいていそんなのないと答える。コレクションの中に好きなものが一つあったとしても、他の全部が好きなんてことはないし、毎シーズン必ず買うなんていうブランドもない。そもそも買い物の回数が恐ろしいほど少ない。そんな中でシュプリームは必要なものがあったらとりあえず見てみて、着れるものがあるとしたら買う数少ないブランド。ニューヨークに行けば、自分より年上のOG達が普通にプリントが擦り切れたような古いボックスTやスウェットを着て、早い時間からバーで一杯やっていたりする。そういうのを見る度に、あぁいいな、本当にダウンタウンの街着なんだと思うわけなんですよ。後生大事にするんじゃなく、リセール用でもなく、デイリーウェアとしてですね、本当のライフウェアとして一生一緒に着てくれや!というライフタイムリスペクトな服、それがシュプリームだと思うんだけど。あってる?

野村訓市
1973年東京生まれ。編集者、ライター、内装集団Tripster主宰。J-WAVE『Traveling Without Moving』のパーソナリティも早、8年目になる。企業のクリエイティブディレクションや映画のキャスティングなど活動は多岐に渡る。

Illustration T-zuan12:21 – 14:43
5th September 2023 Tokyo
From Morning
3 cup of Americano
2 box of Marlboro gold soft pack

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