THE THINGS Calvin Klein BOXER PANTS
野村訓市が履き続ける アンダーウエア
トランクスのシルエット
お洒落、ファッションに目覚める歳というのは一体いくつくらいのことなんでしょうね、大体。俺の場合、記憶にあるのを遡ると確か幼稚園のお泊まり保育だったような気がする。世界のホームラン王こと王監督がまだ現役の巨人4番打者だった頃、お母さんに背番号1のパジャマをねだったのが最初。俺はこれを着てお泊まりするのだ!他人に自分をこう見てもらいたい!というその強固な意思こそ自我の芽生えであり、遥かなるお洒落ロードの出発点だった。それまではお古だの親が買ってきてた服を何も気にせずに着ていたのにね。そしてお洒落というのは大体において憧れの存在がいて、それになりたい!という所から始まる。俺のお洒落ロードは王監督に始まり、映画「ブルース・ブラザース」のブラックスーツ、「ゴーストバスターズ」のツナギと続いていったが、50歳を超えて気付いたけれど、俺って昔からコスプレ好きなのね。まぁそうやって10代に入るとそれがよりディープになっていく。同じものが欲しいというアレだ。ヴィンテージのリーヴァイス、501を詳細に調べ上げ、年代により何が違うかというのを確立したのは我々日本人なのだが、それもこれも、始まりはマーロン・ブランドとかジェームス・ディーン(本当はリー愛用者だけど)が穿いてたのと同じがいい、それも同じモデルといっても同じ年式じゃなきゃいやだとか、非常にですね、日本人らしい細かさで追求した結果だと思うんだよね。その細かさっていうのは最早ファッションなのかどうかわからないけれど。自分に似合うかどうかは最早どうでもよく、どちらかといったら着たい服に自分を強引に寄せていく感じ?まぁ小さいときはいろんな人に憧れて、同じものを手に入れて身に付けてはみたものの、鏡を見てガッカリというのは随分とあったなぁ。しょうがないよね、自分の体型とか、そういうもの全無視して着てんだから。
その頃の着こなしといえば金もないので一点豪華主義、目に見えるところだけを気にかけていた、当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。いろんな人に影響を受けましたよ。映画にでてくる俳優たちに憧れて「アウトサイダーズ」だ、「ランブル・フィッシュ」だ、スケーターだったらゲレロとかヘンズリーだ、シド・ヴィシャスにフルシャンテ。目に見えないところに目をかけるのがお洒落、なんつー格言がありますが、当然かけたためしがない。その筆頭が靴下とかベルトとか下着とか。そんなものどうでもいいっしょ。まぁそこは今も変わっていなくて、履いている靴下の半分は穴が空いているけど、気にしない。ベルトも一本を何年もかけて使い倒して、次にいくという感じで。だが下着、パンツだけは違う。
パンツというのは昔、二択しかなかった。ブリーフとトランクスだ。子供の頃にトランクスを穿いてる奴などいなくてブリーフ一択。誰でも記憶にあるだろう、幼い頃、腰高に穿いたブリーフの付けごごちを。お釣りをもらって前に黄色いシミがある、それこそブリーフだ。それが歳を重ねるうちに分裂し、ブリーフ派とトランクス派が血で血を洗うような激しい闘争を繰り広げることになるのだ。平家と源氏、モンタギュー家とキュピレット家、アディダス派とプーマ派、バルセロナとレアルマドリッド。世界中には決して相容れない永遠のライバルというものがあるが、ブリーフ派とトランクス派も全く同じ。どちらかの側につけばそれは永遠に続くものなのだ。フィット感がすばらしい、イチモツが動き回らなくて素敵(ブリーフ派)、開放感が絶品、股の間にそよ風を感じる(トランクス派)。互いに長所を誇り、逆に蒸れて臭えぞブリーフは!うるせえゴワゴワ野郎!とディスりもする。どちらが優れているのか?どちらが真の下着なのか?俺は当然ブリーフで育った。ママンがグンゼのパンツを大量にどこかから買い込んでいたからだ。だが自我が芽生えてくるとなんだかこっ恥ずかしいような気がしてきた。これじゃあレスラーと一緒やないけ。もっこりするやんけ。とはいえトランクスは股がスースーする。ポジショニングが定まらない。あぁ他に何かないのか?両方のいい所を備えた革命的な下着が。
そんなときに出会ったのがカルバンクラインの下着、ボクサーブリーフだった。出会いはどこかの洋書店、洋雑誌を立ち読みしているときのことだった。出会いはいつでも突然やってくる。めくったページの先にレッドホットチリペッパーズのボーカル、アンソニーの姿があった。90年代、グランジという大きな流れとともに音楽界を席巻したものにミクスチャー、オルタナティブロックというのがあった。それまで人気だった商業的なロックではなく、実験的だったり、他のジャンルの要素を取り込んだもの。今では当たり前になった音が当時は斬新だったのだが、その中でも人気だったのがレッチリだった。朝まで酒飲んでます、ラリってます~、顔色は悪くてみんなガリガリ、それがロックだよ~的な風潮の中で彼らは違った。特にアンソニーはサラッサラの長髪にガチでマッチョなボディ、そしてそこにはトライバルタトゥーという、それまでにない、肉体派的ロッケンローラーの新たな雛形を生み出していた。20歳になってインドに行った時は、ビビったなぁ、偽アンソニーみたいなトラベラーが笑っちゃうほどウヨウヨいたから。その位人気になったのは「Give it away」や「Under the bridge」が流行ってからだけれど、俺は奴らが裸にチンポにソックスだけ付けてアビーロードスタジオ前を闊歩するジャケのEPをリリースした頃から注目するようになっていた。すげえ!意味がわからないけれど。で、そのアンソニーが裸に下着のみ着てマーチンらしきブーツを履いてポーズを取る写真に出くわしたのだ。なんだこのパンツは!ブリーフのようなタイトさを保ちつつ、なおかつ短めのトランクスのようなシルエット!これだ!ん、ウエストになんかブランド名がかいてあるぞ、これはカルバンクラインか!
カルバンクラインといえば「バックトゥーザフュチャー」で主人公のマーティが穿いていて、それを見た若い頃の実の母親に名前をカルバンと勘違いされてたなぁ、そういえば小さい頃はパンツにみな名前とか書かされてたなぁ、修学旅行で、なんてことを思い出しながら、俺はそのパンツを心に刻み込んだ。それこそが新定番、カルバンクラインのボクサーブリーフとの出会いだった。アメリカに行ったときに買い込み、以来俺の股間を30年以上守り、いや包み続けている。今は違うが、かつて海外にいく時はどれだけ身軽にいけるかを追求していた。トートバック一個でいったこともある。流石にイミグレでこっちに家があるんだろ、働いているな?と怪しまれてから止めたが、その時の持ち物といったら、ほぼ下着だけで、つまりボクサーブリーフと仲間達、くらいしか持っていなかった。その位愛用してきたし、水着を忘れたときでも、こいつさえあれば堂々と泳げた。なんかありって形じゃないですか?だから皆にも勧めるよ、特に旅先に持っていく下着として。ただ気をつけてほしいのが海。プールはいいんだけれど海でボクサーブリーフを穿いたまま泳ぐとゴムの部分がヨレヨレになるのよ、塩分で。海だけは裸で泳いでくださいな。
野村訓市
1973年東京生まれ。編集者、ライター、内装集団Tripster主宰。J-WAVE『Traveling Without Moving』のパーソナリティも早、8年目になる。企業のクリエイティブディレクションや映画のキャスティングなど活動は多岐に渡る。
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