A Camera for Life

写真家の人生に寄り添うカメラ 在本彌生 Leica M10-P / Q2 / SL2-S

左上から時計回りにライカ SL2-S、Q2、M10-P。同じライカでも、写りの仕上がりもカメラ自体の動作も異なり、それぞれの特性を理解することで活かしながら使い分けることができる。

写真家にとってカメラは、仕事のための機材であると同時に、暮らしの一部として日常に寄り添う道具でもある。彼らは何を基準にカメラを選び、どのような瞬間を残そうとしているのか。その選択には、それぞれの人生観や、世界の見つめ方が表れる。カメラがあることで、人生はきっと豊かになる。そのヒントを、写真家たちの言葉から探っていきたい。

意図と偶然のあいだを歩く
余白をくれる3つのライカ

客室乗務員として世界を飛び回りながら、旅先で出会う光景を記録するためにシャッターを切ったことが写真家 在本彌生の原点だ。独学で写真を撮りはじめ、本やワークショップで学びながらフィルムで感覚を磨き、技術を積み重ねてきた。彼女はシーンによって3台のライカを使い分けるという。

Left 「カメラを構えている姿を」というリクエストに応え、もっともよく使うM10-Pで鏡を使ってセルフポートレートを撮影してくれた。ファッションが好きだという在本。黒で統一したスタイリングに赤いリップが映えている。
Right 映像作家 ジョナス・メカスの生まれた場所を見るために、訪れたリトアニア。経由地のビルジャイという街で宿泊したアパートの周辺で見つけた、壁を覗くように咲く白いカシワバアジサイ。
フィルムの感覚を受け継ぐ
レンジファインダー M10-P

在本がメイン機として使う3台のなかで最も「自分が撮りたい写真の感覚に近い」と話すのが、レンジファインダーのM10-P。レンジファインダーとは、撮影用のレンズとは別に設けられたファインダーを覗き、二重像を重ねてピントを合わせる構造のこと。フィルム時代から連綿と続くライカの代表的な方式であり、撮影者の手で「合わせる」行為が必ず発生するのが特徴だ。
「M10-Pは、フィルムのM6がまさにそのままデジタルになった感じ。絞りはレンズのリング、シャッタースピードはダイヤル、ピントも自分の手で合わせる。操作がほぼM6そのままなんです」。

在本が長く使ってきたMシリーズ用のレンズ(35mm/50mm/90mm)は、M10-Pと共通して、後述のSL2-Sにも装着できるため、同時に持ち歩くことが多いのだという。フィルムで磨いた感覚と、デジタルが持つ柔軟さが一本のレンズでつながっているのだ。
「人を撮るときは、このカメラが一番しっくりきます。連写はできないし、動画も撮れない。でもその分、相手とちゃんと向き合って、“今だ”と思った一瞬だけシャッターを切る。被写体との呼吸を合わせるようなカメラなんですよね」。

高感度性能は現行ミラーレスほど万能ではないが、在本はそこを“制約ではなく、写真に向き合うための軸”と捉えている。
「光を見て“ここまでISOを上げよう”と感覚で決めるのは、フィルムの増感現像の考え方と近い。万能に撮れるより、光の落としどころを考える楽しさがある。自分の写真のリズムには、この制約がすごく合ってるんですよね」。

Q2で撮影。ウェブショップ「みんげい おくむら」のオーナーである奥村忍との共著「中国手仕事紀行」のため中国を訪れた際に撮影した1枚。中国の民藝を訪ね歩いていて、そんな中立ち寄った骨董屋の呑気な様子にクスッとした様子が伺える。
旅と日常を結ぶ
軽快で万能なQ2

対照的に、もっと軽やかで、生活に寄り添うのが Leica Q2だ。一見するとコンパクトカメラだが、フルサイズセンサーと高品質な28mmレンズを備え、さらに35mm/ 50mm/75mmまでのクロップに対応する。

「Q2は“コンパクトカメラの上級版”という感じ。日常でごはんを食べに行ったり、どこか出かけたりするとき、一台だけ持つならこれが多いですね。このカメラの面白いところはマクロ撮影ができるところ。ぐっと寄ると、質感のディテールや湯気まで綺麗に写ります。料理も植物も、マクロで撮ると世界の見え方がガラッと変わって楽しいんですよね」。

バッテリーがSL2-Sと共通なのも実用的で、仕事現場でもサブ機として活躍する。
「28mm一本だけど、クロップすればポートレートも狙えるし、旅の風景も撮れる。レンズ交換に迷う必要もないので、“選択肢を減らす”というのも写真の向き合い方としてすごく大事だと思います」。

現場での「確実さ」を支える
仕事の主戦力 SL2-S

3台のなかで最も「仕事道具」としての色合いが強いのが、SL2-Sだ。24–70mmのズームレンズと組み合わせ、雑誌や広告の撮影現場でのメイン機として使う。

「SL2-Sは、完全に“仕事のカメラ”ですね。24–70mmさえあれば、だいたいの現場で困らない。すぐ撮らないといけないシーンが多いし、動画を回すこともあるので、機能面ではこれが一番頼れます」。

防塵防滴のタフさも、現場では心強い。以前大雪の中で30分ほど撮り続けても問題なく動いてくれたという。
「ただ、プライベートで旅に出るときに、この一台だけを相棒にするかと言われると……やっぱり重いし、目立つし、気分としてはなかなかハードルが高い(笑)。作品撮りで腰を据えて撮るときや、仕事で“確実に撮る”ことが求められるときに選ぶカメラです」。

仕事の内容によって、SL2-SとM10-P、あるいはQ2を組み合わせて持ち出す。バッテリーが共通のQ2とペアにすることもあれば、Mシリーズ用レンズを活かすためにSL2-SとM10-Pをセットで持っていくこともある。三台それぞれの強みを理解したうえで、現場ごとに最適な組み合わせを組む。その判断の積み重ねもまた、写真家としての「知識」と「経験」の表れだ。

淡路島で撮影を終えた帰路、夕焼け空とそれを映し出す海の水面があまりに綺麗だったので思わず車窓から撮影。
マニュアルで遊ぶことと
意図していない美しさ

在本の話には、どのカメラの説明にも必ず「どう撮るか」という明確な視点がある。オートフォーカスで綺麗に記録することだけでなく、露出やピント、ストロボの当て方まで自分の手で試行錯誤すること。そのプロセス自体が、彼女にとって写真の楽しさの核になっている。

「写真を楽しむうえで、“自分の手をどれだけ動かせるか”はすごく大事だと思うんです。あえて露出をオーバー目に撮ってみたり、アンダーに落としてみたり、日中シンクロでストロボをバーンとたいてみたり。マニュアルで遊べる余地があるカメラのほうが、“創作している感覚”が広がっていきます」。

その感覚の土台になっているのは、フィルム時代に身につけた知識だ。写真の撮り方や暗室の作り方は本で学び、自宅に簡易暗室を作り、モノクロの現像とプリントをひと通り自分で経験した。フィルムから紙焼きへ、紙から印刷物へと色が移り変わるプロセスを、身体で覚えている。

「デジタルの液晶で見る画像って、後ろから光が当たっているから、どうしても鮮やかで綺麗に見えるんです。でも、印刷物は紙の上にインクを重ねていくから、全く違う仕組みで色ができる。そこにギャップがあることを前提に、“この紙、このサイズならこう見えるだろうな”って想像しながら撮ると、レタッチやプリントも含めて全部が、作品を作るプロセスになるんです」。

プリントのスケール感も、在本にとっては写真との距離感を変えてくれる要素だ。A3ほどの大きさで出力して壁にピンで留めてみるだけでも、スマホの画面で見る写真とはまったく違う存在感に生まれ変わる。

「とっておきの一枚を、大きくプリントして部屋の壁に貼ってみる。それだけでも、自分の写真との付き合い方が変わると思います。写真によって、自分が世界をどんな目で見て、何に惹かれているのかを知ることができますから。今は印画紙で出す銀塩プリントも、インクジェットも、いろんな方法が選べる。せっかくなら、どんどん試してみたらいいと思います」。

技術的な知識と試行錯誤を重ねながらも、在本が一番大切にしているのは「意図していないものがフレームに紛れ込む瞬間」だ。完璧に構図を練って作り出されたものよりも、偶然の美しさが映り込んだときに喜びを感じるのだという。
マニュアル操作で「意図する」ことと、自分ではコントロールできない偶然に身を預けること。その両方のバランスを楽しむために、在本は今日も、3つのライカとともにシャッターを切り続けている。

雑誌「TRANSIT」でデニムブランドのKAPITALが連載しているページを撮影した際のオフショット。山形月山にて、ひどい吹雪の中、自作の衣装を身に纏い山伏の舞を披露する山伏の坂本大三郎氏。SL2-Sは心配になる程びしょ濡れになったが撮影を無事に乗り切った。

在本彌生
1970年東京生まれ。客室乗務員として世界を飛び回ったのちに写真を始めた。国内外の旅で出会う光や人の営みを独自の視点で捉え、写真集『私の獣たち』ほか作品を多数発表。雑誌や広告でも幅広く活動する。

Interview & Text  Aya Sato

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