SHINMINKA Villa TAMASHIRO

伝統の木造建築を活かし 新たな社会の仕組みを作る [シンミンカ ヴィラ タマシロ/ヴィラ]

豊かな自然が特徴の今帰仁だが、その中には多くの集落が点在している。そんな集落の一つ、玉城にあるのがシンミンカ ヴィラ タマシロだ。山間の小道を抜け敷地内に入ると、風は穏やかに吹き、葉の擦れる音が音楽のように心地よく迎えてくれる。一般的に沖縄のヴィラはその景観を活かすため海岸線沿いに建てられることが多い中で、なぜここは山間の木々の中に建てられたのか。設計・建築を行った漢那潤に話を聞いた。
「台風対策として家を囲むように木を植えていた昔の沖縄の建築を参考にしたからです。周りの木々が防風林としての役割を果たしているのですが、この効果はものすごく、風速20m近い台風の日に子供達が庭で遊ぶことができるほどです。ヴィラとしてのプライバシーも確保できますし、木々は最低限の手入れさえすれば勝手に育っていくので、修理の必要もない。自然を利用して上手く生活する先人の知恵ですね」。シンミンカ ヴィラの一番の特徴は沖縄の伝統建築をベースにした木造建築だ。横浜で育ち、東京で自身の建築事務所を営み、最新テクノロジーを追い求めていたという漢那が沖縄の伝統的な建築へと突き動かされた理由とはなんだったのだろうか。
「東京にいたときはベラ・ジュンという名前で活動していたのですが、2010年に国籍の関係もあり、漢那という苗字を引き継ぎました。ちょうど仕事や自分の家を建てたいと考えていた頃、沖縄建築の古民家に触れる機会があったんです。そこで何百年と培われた建築技法や集落としての機能性の高さに驚きました。最新技術ばかり追いかけていた僕が『答えは過去にあるんだ』と気付かされた。それと同時に戦後、アメリカ文化の流入によりコンクリート建築に入れ替わってしまった沖縄の木造建築技術を途絶えさせてはいけないと思うきっかけにもなりました」。

先人たちの知恵を感じる
自然の風の心地よさ

沖縄の建築技法を取り入れ、現代へと発展させているシンミンカ ヴィラ。その具体的な特徴は涼しさ、過ごしやすさにある。

「まず木造建築は断熱性能が非常に高いことが特徴です。日差しを受けても熱が室内に伝わりづらく、一定の温度を保ってくれます。また、沖縄伝統建築の特徴は台風と暑さへの対策にもあります。その最たるものが寄棟という屋根の形です。これは雨傘と日傘を兼ね備えたような性質を持っています。雨が四方に流れる水はけの良い形は、水によって痛みやすい木造建築を守り、台風の風がどこから当たっても受け流してくれます。さらに庇のように突き出た構造が、家全体に日陰を作り、室内を涼しく保ってくれるのです」。
ヴィラに入って一番記憶に残っているのが、風の心地よさだ。エアコンからの風とは違い、体温が徐々に下がっていく為、外気温とのギャップを感じずに体が自然と涼しくなっていく。自然とともに生きる先人たちの知恵を感じる一方で、昔の建築技法には問題点もあり、それを解決するのも漢那の務めだったそう。
「古民家が抱えていた問題点が横風による屋根や壁の倒壊でした。昔は石垣やひんぷん (建物正面に建てられる壁)によって風を分散させ、建物内の柱と壁を増やす事で防いでいたのですが、それだとどうしても風通しが悪くなってしまいます。僕は元々コンピューターを使った建築技法を得意としていたので、シミュレーションを元に木材同士の接続方法や骨組みの強度を上げることで、その問題を解決しようとしました。そこで辿り着いたのが筋交いです。本来筋交いは壁の中に入っている補強材なのですが、これを家の外周全体に配置することで横風で屋根が飛ぶのを防ぎ、開口部を自由に作ることができます。そのお陰でエアコンをつけずに快適に過ごすことができます。ぜひここに泊まったときは外から戻ってきてシャワーを浴びて、濡れた体に風を当ててみてください。昼と夕方で風が変わるので最高に気持ちいいですよ」。

本来柱の補強材として使用される筋交い。ヴィラの風通りの良さと木々の温もりを感じる自然な明るさはこれによるもの。世界初となるこの技法と過去を進化させる思想で、漢那はJIA環境建築賞の大賞をはじめ、様々な賞を受賞している。

ヴィラ内の家具も漢那自身で制作したものが多い。写真手前の机は琉球松を素材に採用。地元の方と作り上げることを大切にしているという。
自然と地域との
協働を目指す家づくり

沖縄の伝統と現代の建築を駆使する漢那の技術は、木造建築の発展にも寄与している。「僕が木造建築を行おうと思ったのは建築材としての機能のほかに自然との共生のしやすさが大きな理由でした。木造建築は50年周期で修理や建て替えが必要なんです。僕は現在『SHINMINKA MAKER』としてヴィラのほかに一軒家の設計にも携わっているのですが、そこでは建築と植林を同時に進めています。植林自体は林業家さんたちも行っていますが、木が木材として使用できるのは約50年後。お金になるまでに長い時間を要するビジネスではどうしても衰退していってしまうんです。だから建築と林業を同時に行うことで、50年後建て替えや修理が必要になった時に自分たちが植えた木を木材として使えるような、産業のサイクルを木造建築を通して実現したいんです。実はこれも木造建築が主流だった沖縄では昔から行われていたこと。昔の人々はこのサイクルを直観的に理解して生活していたのだと思います」。
また、彼の興味は現在、沖縄の民家から集落全体の構成へと広がっているという。
「沖縄建築の特徴は建物だけでなく、集落の構成にもあるんです。現代の建築は1棟で建築基準が満たされているかだけを見ていますが、昔は集落自体が一つの大きな建築物のように機能していました。各家に植える防風林は隣の家の風の侵入も防ぐように配置され、道も風がうまく分散されるよう集落全体が一つの目的のために設計されていたんです。各々が自力で成立することだけを考えた現代では見ることのない、合理的である意味最先端とも言える構成になっています。僕はその集落のシステムを現代に落とし込もうと思っているんです。また、現在の沖縄が抱えている大きな問題として、県外や国外の大きな資本が観光施設を作ったことで、その利益が地元に還元されず、経済が滞り、収入が下がっていることがあります。それを解決するために『SHINMINKA HILLS』という新しい集落作りを行っています。全部で6棟のシンミンカによって構成されているのですが、4棟をヴィラとして、2棟を住宅として地元の人々に販売しています。ここの住宅を購入した方々には、土地代を通常より下げ、さらにヴィラの定額管理費が支払われ、住宅ローンの返済を軽くするローカルエコノミーを提案しています。昔の沖縄は集落全体で家を守る仕組みづくりを行っていたように、木造建築と新たな集落によって環境と経済がうまく循環していく新しい沖縄の仕組みを作っていくそれが今の僕の目標です」。
旅の目的は普段の喧騒から離れ、景色を楽しむことだけではない。その土地の文化に触れ、現代に生きる人々が次の世代に向け、何を創造していくのか。それを知り、学ぶことは人生を豊かにする旅のひとつの楽しみなのではないだろうか。

SHINMINKA Villa TAMASHIRO
沖縄県国頭郡今帰仁村玉城 821
@shinminka_villa

Photo Makoto NakasoneInterview & Text Katsuya Kondo

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