Product for Feelin Good by Yataro Matsuura
家族のような木製玩具 松浦弥太郎
プロダクト
Monkey, Bear by Kay Bojesen
多くの人にとって、義務教育を過ぎた頃から玩具というものへの興味は薄れていくだろう。だが、大人になった今だからこそ惹かれてしまう、そんなデザイン性の高い玩具もある。その代表格といえるのが、デンマークのデザイナー、カイ・ボイスンが生み出した木製玩具たち。1930年に長男が誕生したことをきっかけに木製玩具を作り始め、動物のシリーズを中心とした温かみのある愛らしい玩具は、現代でも作られ続け世界中で親しまれている。
カイ・ボイスンの木製玩具の中でも最も象徴的なのがこのモンキーだ。1951年の発表以来、サイズや色、素材を変え今なお、ほとんどデザインを変えずに作り続けられている。松浦弥太郎が所有している2匹のモンキーは、写真の左側は50年代初期のもので、右側は60年代。クマも60年代のものである。松浦は、“暮しの手帖”の編集長時代にカイ・ボイスンの特集を組んだほど、その魅力に惹かれ続けているという。
「この50年代のモンキーは、京都に住んでいる友人から18年くらい前に譲っていただいたものなんです。その友人の父親は、工芸品のお仕事をされている方で1953年に北欧へ視察の旅へ行き、その時にこのモンキーに出会い感動をしたのだと話していました。当時の日本は玩具といえばプラスチック製が主流だった時代に、チーク材を使っていてデザインが優れている。それに、玩具でありながら身長の低い子どもがハンガーを棚にかけられるよう、手の部分がS字フックのような便利な機能を持った生活の道具でもあるということ。木製であるから、手入れを怠らなければ長く使える。そんなものづくりの考え方に父親が感動をし、お土産としてたくさん買ってきたそうです。そういう話を友人の家で、5体あったモンキーを眺めながら聞いたとき僕もとても感動しました。そうしたら、その友人が『よかったら、1つもらってください』と言ってプレゼントしてくれたのです。それからずっと大切にしているうちに、北欧のデザインが人気を出始めて、インテリアショップやアンティークショップでカイ・ボイスンの玩具が紹介されるようになっていきました。暮しの手帖で特集をしたのが今から10年くらい前ですが、取材をしている時にある一軒のお店で60年代のモンキーに出会ったんです。うちにはもうすでに頂いたモンキーがいるけれど、1匹よりも2匹の方が寂しくないだろうと思い、60年代のモンキーを購入しました。その2つを見比べてみると、形は同じですが、チーク材の品質や足の刻印の有無などディテールにわずかな違いがあり、微妙な変化の面白さに気付きました。クマは、デンマーク旅行に行ったときにアンティークショップで見つけて買いました。僕の家では、2匹のモンキーとクマはいつも一緒に仲良くいて、僕はもちろん、来てくれたお客さんを楽しませてくれています。12月になると、クリスマスツリーの代わりに、専用のサンタの帽子を被らせてクリスマスの気分を盛り上げています」。
経年変化によって飴色になったチーク材の美しさは、玩具でありながらもアンティークのオブジェのような佇まいを見せる。フックとしての機能を持っているこのモンキーは、可変式の腕の構造として内部にゴムが仕込まれているのだが、ゴムの性質上どうしても長い年月の劣化には耐えられず、50年代の方が1度バラバラになってしまったという。
「どうしようと途方に暮れていた時に、モンキーを直すことが出来る一軒の玩具の病院を見つけて入院をさせたんです。モンキーのゴムが伸びてバラバラになり悩んで来る人が行くような場所でしたが、そこの職人も、『こんな古いものは見たことがない』と言っていました。世界中で愛されているモンキーですが、これほど古いものには滅多に出会えない。家族の一員というと大袈裟かもしれませんが、みんなを笑顔にしてくれる、うちにとってはなくてはならないものです」。
松浦弥太郎
1965年、東京都生まれ。エッセイスト、クリエイティブディレクター。2006年から2015年まで「暮しの手帖」編集長を務める。現在は多くの企業のアドバイザーも行う。
Photo Kengo Shimizu | Interview & Text Takayasu Yamada |