Munakatado

風土の強さを生かした 記憶に残る天然酵母パン [宗像堂/ベーカリー]

数種類の白色を組み合わせて塗装された外観。エントランスでは豊かに茂る月桃が客を出迎える。

「パンを食べながら感じた風や音、光がすべて記憶に残るような空気感をつくりたいと思っています。離れた場所で時間が経ってからパンを取り寄せて食べても、ここに戻って来れるような」。店主の宗像誉支夫がそう語る、自然と調和した居心地のよい「宗像堂」の空間には、パンを買いに来る客だけでなく、さまざまな人が集まる。県内外の飲食店がポップアップを開く日もあれば、ブルース・バンド憂歌団の内田勘太郎がライブを行ったことも。名だたる料理人たちを講師に招いた料理教室も開催されていて、マドンナのプライベートシェフを務めた西邨マユミが授けたレシピで沖縄の旬のフルーツを用いてつくる酵素ジュースは、今ではカフェの人気メニュー。料理研究家のウー・ウェンが料理教室を開いた際は、中華料理とパンという一見離れたジャンルの料理ながらも小麦を使うという共通点から見出すものがあり、宗像自身がパンづくりの考え方を広げるきっかけになったという。

12年前に改装した店の造りには、自然をありのままに受け入れる姿勢が表れている。雨が美しく見えるように設計されたテラス部分の屋根には奥行きがあり、座っていても雨に濡れることはなく、手を入れすぎない庭木の緑に雫が滴る美しい様子を眺めることができるのだ。空間デザインや美術のキュレーションなど、アーティストとして幅広く活動する豊嶋秀樹が手がけた店は、“宗像堂を展示する”というコンセプトのもと、以前の店に掲げていた木の看板を店内の棚に、作業台をオブジェとして壁に貼りつけてブリコラージュされていて、宗像堂の歴史そのものが実体を持ったデザインになっている。

五代目となる手作りの窯。前日の夕方から薪を燃やし、早朝に再度温度を上げて半日余熱でパンを焼き続けることができる。

ひと口齧った瞬間に小麦の力強い味が口の中で弾けて広がる、宗像堂の天然酵母パン。その奥深い味の虜になる者は、沖縄県内のみならず全国にいる。天然酵母でパンをつくるには、微生物群を調和のとれた発酵のバランスに仕立てるために、温度と湿度などあらゆる環境的要因と真摯に向き合う必要がある。宗像堂のパンは自然と対話しながら酵母の元種にさまざまな菌を意識してかけ継ぐことで、時間をかけて奥行きのある味わいになっているのだ。

関わるものすべてからの影響を吸収し、美味しいパンを作るためのアップデートを止めない宗像は、数年前から古代小麦の品種開発にも携わっているのだとか。収穫を容易にするため改良を重ねられた現代の小麦とは違い殻が分厚いため、お腹を空かせた鳥たちに畑を荒らされることがない。そしてその味はどんな小麦よりもパワーがあり宗像の心を打ったという。試行錯誤を繰り返しながら歴史を重ねる宗像堂のパンには、味の美味しさで感動を与えるだけでなく、私たちのインスピレーションを広げてくれる力強さがある。

人気の高い、くるみの入ったパン。宗像堂のパンは沖縄県内のレストランでも愛されている。

宗像堂
沖縄県宜野湾市嘉数 1-20-2
098-898-1529
@munakatado

Photo Keiko NomuraInterview & Text Aya Sato

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