Mui

百名の風が吹き抜ける空間で あるがままの自分に触れる [ムイ/宿]

沖縄の稲作発祥の地と呼ばれる百名は、長い年月をかけて培われた文化と歴史が色濃く残る場所。そんな自然豊かな海辺の集落のはずれにmuiはひっそりと佇んでいた。生い茂る木々の中を歩き進めるとモダンな風合いの土壁が現れ、その先には開放的なレセプションスペースが広がる。奥へと繋がるなだらかな床面は土地の傾斜をそのままに生かしたという。「普通だったら平らにした方が使い勝手は良いのですが、集落から延長したような空間を作りたかったんです」。教えてくれたのはオーナーの西悠太。設計は近所にアトリエを構える五十嵐敏恭が手掛けた。「五十嵐さんとは縁があって出会ったのですが、お互い手探りの中でああでもないこうでもないって話をしながら一歩ずつ決めていった感じですね。でもおそらく彼の中には軸となる考えがあって、隔たりの無いエントランスと共有空間、その奥にあるそれぞれに独立した客室は1階から2階へと繋がり、さらに外へと繋がっている。この動線が渦巻き状で全部繋がって、それは沖縄の歴史文化や土地柄、気候や風土なども含めて、最終的に全てが連動したそんな建築だと僕は思います」。

muiとは、老子の一節 “無為自然” からとったもの。作為なく自ずと然るという意味で、自ずと湧き起こる心の機微に身を委ねられる場所にしたいという想いが込められている。「旅に出たときって日常から離れるので、普段凝り固まってしまっている部分から解き放たれて、好きに自分の思うままの感覚で過ごせる気がするんです。人間って割と頭で考えて動いてるように見えて、すごく無意識的に行動してる部分がたくさんある。それは合理性から離れた非合理な行為であったりもするのですが、僕はそれが旅の中ですごく大切な、本来人間が持っている心地よい瞬間なんじゃないかなと思っているんです。できるだけそういうものが起こる場所にしたいなという想いでmuiという名前を付けました」。鳥の声、風の匂い、木々の揺らぎ。広大な沖縄の自然の中で迎える朝は、日常とはまた異なる五感が刺激される。自ずと湧き上がる好奇心に素直に従ってみることで、自分らしい心地よさに気づくことが出来るのかもしれない。

コモンスペースに設置された独創的な造形をした囲炉裏。宿泊者同士が自然と集い、夜にはお酒を酌み交わしながらコミュニケーションを楽しむ場にもなっているという。

mui たびと風のうつわ
沖縄県南城市玉城百名 1201-3
098-943-6301
@mui_okinawa

Photo Yu ZakimiInterview & Text Shuntaro Iwasaka

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