Makina Nakijin
自然と調和した空間で味わう 本当に贅沢な沖縄の過ごし方 [マキナ ナキジン/ヴィラ]
今帰仁は沖縄県の中でも雄大な自然を色濃く残すエリアだ。南国らしい鮮やかな花々や深い緑の木々が生い茂り、原生林のような独特の雰囲気を放っている。そんな自然を抜け小高い山の上に位置するのが、1日1組限定のプライベートヴィラ、マキナ ナキジンだ。まるで建物と自然が溶け合っているような境目のない建築と、正面に広がる果てしない木々と青い海は、ヴィラの中にいるのか森の中にいるのかわからなくなるような不思議な感覚に陥る。那覇から2時間弱という遠方にありながらも、予約の絶えないこのヴィラについて建築家の五十嵐敏恭とオーナーの真北直樹に聞いた。
沖縄の風土を最大限に生かす
屋根で箱を繋ぐという考え方
「僕が以前設計した『玉城の家』という沖縄の伝統的な住宅を現代建築化するというテーマの住宅があるのですが、マキナ ナキジンはその解釈をさらに広げ、熱帯アジア圏の住宅に共通する特徴を持たせました。基本的に雨風が凌げて日陰にもなる大きな屋根があり、その下に床があるというシンプルな構成が熱帯アジア圏の住居の特徴なのですが、ここでは屋根と床の間を箱型の室内空間で区切ることで、内装や見える景色に変化を持たせています。ただその箱が屋外と断絶しないよう、室内は最小限にし、配置やドアの作りを工夫することでリビングが屋根下の屋外に自然に広がっていくような空間作りを目指しました。全ての部屋が分かれていて、どこへいくにも一旦外に出ないといけないのですが、穏やかな沖縄の気候があってこそできる設計ですね(五十嵐)」。
「宿泊していただくお客様には『自然という主役に人間が合わせて暮らし方を変えてください』と伝えています。1歩室内に入ると全館空調で均一化されている部屋は便利ですが、つまらないし人間が本来持つ感覚が鈍ると思うんです。せっかく中と外の境目が曖昧な建物なので、暑ければ窓を開けて、寒ければ服を一枚着て欲しい。そうやって自然に合わせていくことで風が切り替わる瞬間や雲の動きなどに敏感になり、その変化を楽しめるようになるんです。これこそ本当の贅沢な時間の使い方と言えるのではないのでしょうか(真北)」。
部屋を箱と表現していた五十嵐。約5つの箱は驚くことに全く違った表情を見せている。各箱にはどんな特徴があるのか。そこには内装設計から配置まで緻密な計算によって作られた数々の秘密が隠されていた。「まず特徴的なのは陰と陽の対比で作った2つある寝室です。片方は朝日が差し込むように窓を設置しており、気持ちよく光を取り込むことができます。もう一部屋には窓がなく、暗い部屋の中で自分の時間に浸れるよう設計しています。また、このヴィラ一番の目玉はお風呂です。自然の景色が絵画のように切り取られ、お湯が床を伝うと反射して空が写りこむようになっています。『自分がアートの一部になったようだ』と言ってくださった方もいらっしゃいました。晴れている日にはお風呂から伊平屋、伊是名村、寝室からは古宇利島が見えるように配置することで様々な景色を楽しむことができます(真北)」。
一つの椅子から始まった
ジャンヌレに調和する内装
これだけ違った表情を見せる各箱だが、不思議と違和感はなく、一つの建物として調和している。その秘密は一つのヴィンテージチェアが深く関わっているという。
「通常家具は元々ある内装に合わせて選んでいきますが、このヴィラは逆の工程で作っているんです。何も決まっていないまっさらな状態で真北さんがジャンヌレのチェアを持ってきて『これを置きたいからこれに合うテーブルを考えてください』と言い、そこから内装や家具の設計が動き出したんです。ヴィンテージチェア以外の家具は、基本的にジャンヌレの色味や質感をもとに同じチーク材をミャンマーから取り寄せたり、素材を厳選したりとかなり手間がかかってしまい、結果ヴィンテージだけで揃えるよりも予算がかかってしまいました(笑)。自作したテーブルや扉、窓枠の角は肘掛けのアールにあわせ丸く揃えることで、各箱の雰囲気を変えても統一感のある内装に仕上げています(五十嵐)」。
様々な表情を持つマキナ ナキジンだが、真北おすすめの過ごし方は「好きな椅子を持って、好きな場所を探して何もしないこと」だという。何かをしていないと罪悪感を覚えてしまう人は多いと思うが、ゆったりとした時間の流れる沖縄だからこそ、深呼吸をして自然の音をBGMに、雲の変化や風の流れを楽しむ。忙しさに揉まれ忘れてしまった原始的な感覚と本当の充実の意味をマキナ ナキジンが教えてくれる。
MAKINA NAKIJIN
沖縄県国頭郡今帰仁村諸志 2031-130
@makina_nakijin
Photo Yoshiyuki Onga | Interview & Text Katsuya Kondo |