Interview with Takashi Kumagai (Creative Director, Stylist) about Jaguar

熊谷隆志が考える ジャガーの格好良さ

唯一無二のデザインと
力強いV12エンジンの共存
熊谷隆志

スタイリストとして長年業界を牽引しながら、数々のブランドのディレクターとしても活躍する熊谷隆志。一時は15台もの自家用車を所有していた過去もあり、無類の車好きとしても知られている。ジャガーを所有していたこともあるそんな熊谷隆志から見たジャガーブランドや車両の魅力、ジャガーの格好良さについて話を聞いた。

映画から影響を受け
手に入れたXJ-S

「僕の中でのジャガーのイメージは、唯一無二のデザインとエンジンの力強さの共存。それはジャガーブランドにしかない格好良さだと思っています。現代ではさらに性能が良くなって、ブランドの革新性や独自性を引き継いだ、まったく新しいデザインのEV車も開発されている。車としてどんどん魅力を放ちながら面白くなっている印象です」。ジャガーの魅力をこう話す熊谷は、過去にジャガーブランドの中でも特に名車として名高いXJ-Sに乗っていた経験がある。「『12 Monkeys』という映画で、ステッカーでカスタムされたジャガーが登場するんです。当時それを見て衝撃を受けて、絶対に乗りたいと思ったことが購入したきっかけでした。当時僕もステッカーをかなりの量集めていたから、後ろのボンネットに自分なりのステッカーカスタムを施して、格好よく仕上げていたんです」。映画から多大な影響を受けてXJ-Sを手にしたという熊谷。前回記事の『映画とジャガー』でも同内容に触れたが、やはり映画の中に登場する車には、人々の憧れが詰まっているのだと改めて感じさせられる。また実際にXJ-Sに乗っていたからこそわかる車両の魅力があるのだという。「ヨーロッパの旧車は、車室が少し窮屈ですがそれがまたいい。視界も限られるし、ノーズも長いから乗り心地は決していいとは言えないんだけど、苦労して乗っている感じが車と一体になっている感覚になってすごくいいんですよ。僕が乗っていた車両は北米仕様で、イギリス車なのに左ハンドルだった。それも面白いポイントでしたね。計器のデザインも最高にセクシーでした。走行性能的にはV12エンジンだったので、100Kmで高速を流すのは何の問題もないパワフルさがありましたね。でもやはりこの車に惹かれた一番の要素はデザインの部分が大きいです。地面スレスレのぺったんこなフォルムは他にはなかなかない。あとは窓部分の特徴的なフィン、今見ても本当に格好良いと思いますね」。

スタイリストやディレクターとして、独自の審美眼を持って活躍する熊谷にとって、ジャガー車の優れたデザインに共鳴することは必然であったように思える。XJ-Sに乗る際には自身のファッションに気を付けていたことはあるのだろうか。「英国車だから着る洋服も少し英国っぽくとか、そういうのは一切しませんでした。コスプレみたいで嫌なんです。僕はこういう高級車をスケーターのような人が乗っている感じがすごくいいと思っていて。ソフィア・コッポラの映画『Somewhere』でスティーブン・ドーフが高級車に乗っているシーンがあるんだけど、あの感じが僕は好き。すごくカジュアルな装いで短パンにビーサンなんだけど、車はスポーツカーという感じがとても格好良くて。やっぱり車は映画から影響されるんですよね。スタイルのある登場人物がその車に乗って移動しているシーンから影響を受けて、自分を投影してしまうんです」。

革新的なデザインとEVがもたらす
ジャガーブランドの今後への期待

これまで多くの車を所有してきた熊谷にとって、そもそも車に求める要素はどんなことなのだろうか。
「今までは生活の用途によって使い分けたりしていて、これは山用、これは海用、これは植木用、これは仕事用、リース用、打ち合わせ用などと考えていましたが、今はもう、自分のライフスタイルに合った1台でいいと思っています。何台も所有したいという欲は無くなりました。だから、走行性能とデザインが共存するジャガーにはいつかまた乗りたい。今のジャガーのラインナップでいえば、コンバーチブルタイプに乗ってみたいなと思います。葉山との二拠点生活なので、海辺を流しても気持ち良いし、性能はもちろん都市部にも対応している。理想的な車ですよね。また最近ジャガーのFタイプをハリウッドのセレブたちがみんな乗っていたのを目にする機会があって。そのときにやっぱりジャガーって格好いいなと再認識しました。ジャガーってそういう風に周期的に波が来ると僕は思っているんです」。車業界では、近年はEV車の波が押し寄せてきている。過去に電気自動車にも乗っていた熊谷にとって、今の車はどのように映っているのか。「ジャガーのEタイプのような古き良き車は、コレクターの方や好きな人がずっと乗り継いでいくと思いますが、日本的にはますますEVとか水素が主役になっていくと思うから、そういう意味ではEV車を1台とガソリン車を1台持っているのが本当の理想かなと思います。色々な楽しみ方ができますしね。電気自動車に乗っていた際には自宅にチャージャーをセッティングしていましたが、まだまだ東京は設置箇所が少ない印象でした。そのインフラをもう少し国が整えてくれて、ガソリンスタンドと同じくらい当たり前のようにチャージャーがあるような環境になれば、もっとEVが浸透していくと思いますね。とにかくジャガーはデザインが本当に格好いいので、そうした唯一無二のデザインの面とイギリスならではの洒落ていて洗練されたインテリア、EVの走行性能を組み合わせたら本当にすごい車が生まれると思う。初めてE-Typeが登場したときのような驚きと感動をもたらしてくれる革新的な車両が、これからもジャガーから生まれ続けるところを見てみたいですね」。

ジャガーは来年度に新EV車の一般公開を予定しており、そこにはジャガーの歴史上どの車にも当てはまらないまったく新しい車両が誕生するのだという。創業者であるウィリアム・ライオンズが掲げていた「Copy of Nothing (何も模倣しない)」という精神。それは単に昔のモデルを踏襲しコピーするのではなく、未来を見据えて革新し、本当にユニークな車両を作り出すということ。新ジャガーはそんなブランドのレガシーでもある精神を今の時代に投影させ、これからも革新的な存在であり続けていくのだ。数々のカーブランドがEV車に注力していく中でも、ジャガーには歴史が証明する卓越したデザイン力がある。それがきっとまだ見ぬ格好いい車両として私たちを驚かせてくれることだろう。ジャガーの今後に期待せずにはいられない。

熊谷隆志が考えるジャガーの名車、E-Type

ラフに乗りこなしたい
世界一のデザインを持った車

「過去のモデルで乗りたい車両は間違いなくEタイプです。世界で一番美しい車と言われるだけあって、とにかくデザインが格好いいじゃないですか。この車にカジュアルな格好でビーチサンダルを履いてラフに乗りたいですよね。僕が所有していたXJ-SはEタイプの後継車両として誕生したということもあり、カーデザイナーが同じ。そこも良いと思うポイントなのかもしれません。完成されたデザインの中でも特に後ろの部分のデザインが好きなんです。僕は車のデザインを見る時は、前ではなく後ろを見て決めることが多いですね」。

Photo Takafumi UchiyamaText Shohei Kawamura

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