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スタイルがある沖縄の店を 音楽で彩る名セレクター [グリ グリ/ミュージックセレクター]

週末になると米軍関係の客で街が賑わうコザの街で生まれ育ったGRI GRI。この日もそんなコザの街で撮影を敢行した。
レゲエに目覚めたきっかけは
スケートビデオから

沖縄を代表するミュージックセレクターのGRI GRI(グリ グリ)。本誌で紹介しているオールズやバカールといったスタイルのある沖縄の名店たちとも繋がりが深く、沖縄ではオールズのみで販売している7インチレコード “トロピカル・レコーズ” のシリーズをプロデュースし、バカールでは14周年のイベントでプレイ。そのほかにも数ある沖縄のいい店の空間の音を多く手がけてきた人物だ。得意とする選曲の主なジャンルはレゲエで、沖縄はもちろん東京をはじめとした首都圏を中心に各地でミュージックセレクトを行う。昨年、イギリスを代表する世界的に著名なレゲエDJ、デヴィッド・ロディガンが来日ツアーを行ったが、福岡でのイベントで前座としてミュージックセレクターを務めたのもGRI GRIだった。
そんなGRI GRIが生まれ育った街は、米軍の嘉手納基地があるコザという沖縄市の中心部に位置するエリア。基地が近いという立地によりアメリカのカルチャーが色濃く、歩いているとまるで海外にいるかのような錯覚をする街だ。今、彼が音楽を生業にしているルーツは当然この街で育ったことが大きいという。そしてレゲエに興味を持ったきっかけは意外にもスケートボードのようだ。
「コザには昔からライブハウスやミュージックバーがたくさんあって、音楽は身近に溢れていたんです。自分が中学の時はスケートボードにハマっていて、米軍基地にいる友人たちと一緒に滑りに行く日々でした。スケートビデオを見て気持ちを高めてからみんなで滑りに行く、そんな毎日を送る中で、リアルスケートボードやドッグタウンのスケートビデオに使われていたダブやレゲエの音楽に興味を持ち始めたんです。それでレゲエを知れば知るほど、スケートよりもレゲエの方にのめり込んで行きました。子どもの頃はコザの繁華街に実家があったので夜に窓全開で爆音でレゲエをかけていると、アメリカの軍人が部屋に入ってきて『ここはレゲエバーか?』と聞かれることも何度かありました」。

本場ジャマイカでの経験が
今のミュージックセレクトの軸

そうして、レゲエの世界にどんどんとのめり込んでいくうちに、「本場を見てみたい」という思いが芽生えGRI GRIは20歳の頃にはじめてジャマイカへ行く。そして本格的なレゲエの魅力にハマっていったという。
「それから何度もジャマイカへは行っていますが、目的はダブプレートのレコーディングをするためです。ダブプレートのレコーディングは、アーティストの元に直接会いに行って交渉し、いくらか金額を払って自分たちのための曲を録音させてもらうというレゲエにしかないカルチャーです。例えば、知人を通してイエローマンにコンタクトを取り、スタジオで待ち合わせして録音させてもらうという、そんなことをこれまでにしてきました。そんなダブ録りの合間に現地のディープな路地裏のバーでレコードをかけさせてもらうことも。毎週土日にかけていたバーがあるのは、ジャマイカのダウンタウンで銃弾跡が至る所にあるような、日本人はまずいないゲットーな場所。そういうバーで日本人が音楽をかけても冷ややかな目で見られるんですが、毎週やっているうちに段々と認められきて。1日8時間くらいのプレイも大変でしたが、何よりも1曲1曲を本気でかけないと見透かされてしまうという緊張感がジャマイカにはありました。捨て曲なんて絶対に許されず、変な曲をかけたら怒られるような世界。それでも、1曲でもお客さんが踊ってくれたら、それが火種になって店が盛り上がり、外にまで客が溢れ、最後には店の前のストリートまで盛り上がるという場所でした。ジャマイカでのそういった経験が今のセレクターの軸になっているかもしれないですね」。

その土地土地にあった選曲

ジャマイカでの経験が今のセレクターの軸になっているというGRI GRIだが、近年では原点へ回帰し自身のレゲエの入り口であったスケートボードから繋がるサーフィンカルチャーなど海辺の匂いのするムードのレゲエに趣向が戻ってきているとのこと。最近では、クラブよりもカフェやバー、ホテルのプールサイドでのイベントが増えてきたことも相まって沖縄らしさのある心地よいアイランドミュージックが主流となっているという。場所やその気候ごとに合った選曲もGRI GRIがこだわる部分だ。「ジャマイカは50年から60年代の建物が多くあって、そういう街並みでスカを聴くとすごく合う。沖縄で民謡を聴くと合うと思うのと一緒で、土地ごとにある場所と音楽の組み合わせって重要なんです。例えば、沖縄とレゲエの相性は良いですが、東京はロンドンの雰囲気に近いものを感じるのでUKラバーズロックの方が馴染むと思います。曇り空でコンクリートの街並みにはラバーズロックが合いますからね」。
土地と音楽の関係性でいうと、もう1つ、GRI GRIが意識している自分らしさには沖縄ならではのテーマが含まれていることを教えてくれた。
「海の匂いが感じられるような選曲が自分らしいと思います。沖縄は58号線が主要道路で那覇からずっと続いていますよね。僕は作品を作る時もミックスを作る時もそうなんですが、音源ができるといつも車で音を確認するんです。北谷から58号線を北上していく。それで、雰囲気に合っていたらOKというふうにしています。沖縄をレペゼンじゃないですけど、これが自分らしいセレクトのテーマな気がしています」。

湘南乃風のバックセレクターでもお馴染みのThe BK Soundと共同でプロデュースを手掛けるトロピカルレコーズの新作。ジャマイカにあるボブ・マーリーのスタジオ “タフコング” でミックスダウンした1枚。沖縄ではオールズのみで取扱をしている。

Playlist from GRI GRI
夏の南国を感じるプレイリスト

GRI GRIがセレクトした曲は主にイベント、もしくはレコードやCDを買うことで聴くことができるが、今回は特別に夏におすすめのアルバムを6枚セレクトしてくれた。この沖縄特集を読むBGMとしても最適なGRI GRIが選ぶとっておきの名盤をリコメンドとともに紹介。

Left V.A. / Reggae Hits Vol. 3 / LP
「この一枚から私のReggae人生がはじまりました。JAとUKの見事にバランスの取れた選曲が人生の軸になり、今のMusic Lifeにも活かされています。14歳当時、このvol.3ではなくvol.1から選んでいたらまた違う人生を歩んでいたかも知れません」。
Center Bob Marley / Kaya / LP
「1番最初に手に入れたBob MarleyのLP。ジャケ買いでした。数ある彼の写真の中でも一番好きな表情です。もちろん中身もカバー写真の様な陽気な内容になっていて、天気の良い午前中によく針を落とします」。
Right Peter Tosh / Wanted Dread & Alive / LP
「こちらも先程のBob Marley 同様モノクロの渋いデザインに一目惚れしてジャケ買いをしたファーストPeter Tosh」。

Left Nitty Gritty / Turbo Charged / LP
「Bob Marleyより先にレゲエを好きになったきっかけの人。鼻の詰まったような決して上手いとは言えないボーカル。この声にハマったSkate少年だった中学2年の自分自身を褒めてあげたい」。
Center The Jolly Boys / Pop n mento / LP
「ジャマイカ北東部の田舎町、Port Antonio出身のMento Bandのアルバム。この一枚を聴いて初めてジャマイカに行きたいと思った。とても大事にしているアルバムで「気候」「天候」「時間」全ての条件が満たされた夏の日の午後にしか針を落とさない一枚」。
Right Nahki / Baddest Japanese / LP
「Japanese Dancehall の先駆者。A3の日本の歌謡曲を挿入するスタイルは当時としては斬新でした」。
Photo Yuto KudoInterview & Text Takayasu Yamada

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