Car with Styles by Fumio Ogawa
鮮やかな色使いで既存価値を覆す ロールス・ロイスの新たな挑戦
服のデザインには既存価値をくつがえしてきた歴史がある。ココ・シャネルのリトルブラックドレスやアンドレ・クレージュのパンツスーツは一例だ。
クルマの世界では、ジョン・レノンのロールス・ロイス・ファンタムVが、やはり既存価値への挑戦として、特筆すべき例だろう。地位(と富)の象徴だったファンタムVの車体を、ド派手なサイケデリック模様(ロマの馬車を模したという説あり)でペイントしてしまったのだから。
ザ・ビートルズの歴史を書いた本に出てくるエピソードとして、そのファンタムVに路上で出くわした英国の老婦人が「ロールス・ロイスになんてことしたの!」と叫んだ、というものがある。
2024年8月29日に日本で発表された「ロールス・ロイス・カリナン・シリーズII」を見たら、そのひとは、やはり衝撃を受けるだろうか。なにしろ、豊富な車体色にはビビッドな印象のものが多いうえ、あざやかな色づかいの内装も用意されている。ロールス・ロイス自身が、既存のイメージを壊しにかかっている。
これこそ、カリナンが現行ラインナップでもっともセールス好調のプロダクトである理由だと、メーカーが認めている。
ロールス・ロイスが同社初のSUVとして「カリナン」を2018年に発表して以来、ユーザーの平均年齢はうんと若返っていて、2010年は56歳だったのが、現在は43歳だという。ロールス・ロイスではユーザーを「Y世代、Z世代の超富裕層」としている。
「美しいというより、他と違っていて、一目でロールス・ロイスとわかること、それがカリナンのデザインでは最優先事項でした」。かつて、ロールス・ロイス本社のデザイナーが、私にそう語ったことだ。
カリナン人気とは、独自の製品戦略がまんまと成功したからなのだ。
シリーズIIになってカリナンは、フロントマスクがさらに大胆に変わった。内装も、使う素材の種類や色が増え、さらに今回「デュアリティ・ツイル」というド派手なパターンまで採用されている。
ビスポークといって、服飾と同様、イージーオーダーからフルオーダーまで、顧客の希望に対応してくれるサービスも、ロールス・ロイスならでは。自分だけのボディスタイルを実現できる「コーチビルド」から、ロールス・ロイスの専任チームが提案する仕上げをもった「ワン・オン・ワン」、限定生産の「プライベートコレクション」、特別な色や素材を使った内外装の「コレクションカー」と幅広い。
乗ればスムーズさこの上なし。操縦性においては、エフォートレス(力不要)という同社のポリシーが貫かれているものの、自分でハンドルを握るオーナーがほとんどというだけあって、ダイレクトさがちゃんとある。つまり運転が楽しめる。
全長5355mmのボディに、6750ccV型12気筒エンジン搭載。最高出力は420kW、最大トルクは850Nm。さらにパワフルなブラックバッジ・カリナン・シリーズIIというラインナップもある。ブラックバッジも、ユーザーの若返りへの貢献度が高いそうだ。
たんにロールス・ロイスを手に入れるにとどまらず、いかに手を入れて、最高の自己表現とするか。それこそが、カリナン・シリーズIIのたのしみなのだ。
小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。
Text Fumio Ogawa | Edit Takuya Chiba Katsuya Kondo |