Car with Styles by Fumio Ogawa

フェラーリローマスパイダーが描く 豪奢なイタリアンエレガンス

1950年代の享楽的なイタリアの
ライフスタイルがよみがえる
小川フミオ

スタイリッシュなスポーツカーという点で、当代一と言いたいのが、フェラーリが手がけるローマ・スパイダー。低いノーズからリアにいたるシルエットの流麗さと、シンプルな面の車体がかもし出す力強さが、とても印象的だ。
「時間を超越したエレガントさをもつ高性能スパイダーで、1950年代と60年代の享楽的なイタリアのライフスタイルを現代によみがえらせている」
フェラーリは、ローマ・スパイダーについて、上記のようにコンセプトを説明する。すでに知っている方も多いのではないかと思うが、「ラ・ノーヴァ・ドルチェビータ」が当時のキャッチコピー。ローマを舞台にしたフェデリコ・フェリーニ作品「甘い生活」からの援用だった。クラシックとモダンがうまく融合されている雰囲気なので、いかにも、と思わされたものだ。
どのフェラーリも審美的な個性が強いけれど、とくにこのクルマでは、車体側面に「シールド(楯型のフェラーリのエンブレム)をつけていない。ボディ面の美しさを表現したかったからです」。
フェラーリ本社でヘッドオブデザインを務めるフラビオ・マンツォーニ氏は、かつて、50年代イタリア文化の中心地だったローマを選んでの発表会の会場におけるインタビューで、そう語ってくれた。こだわりを貫いたモデルなのだ。
2019年にクーペが発表されて、追って23年にスパイダーが登場。いま日本にはスパイダーのみが輸入されている。もちろん、というのもなんだけれど、フェラーリとしては久しぶりのソフトトップ(ファブリックの幌)をもつスタイルは、なにものにも替えがたい魅力だ。当時、クーペとスパイダーと迷っていると言われたら、迷わず、スパイダーにしなさいと私なら勧めたはず。
456kWの最高出力を持つ3855ccV型8気筒エンジンをフロントに搭載しての後輪駆動。このレイアウトは、フェラーリファンにはおなじみのもの。マーケットにおけるセグメントごとにモデルのキャラクターを際立たせる市場戦略だろう。

Specifications
全長×全幅×全高= 4656 × 1974 × 1306mm。ホイールベー ス=2670mm。3855ccV型8気筒エンジン+8段ツインクラッ チ変速機。最高出力=456kW@5750~7500rpm、最大トルク760Nm@3000~5750rpm。静止から 100kphまでの加速時間 =3.4秒。
価格=¥32800000 (Tax Included)
Ferrari Japan

強力無比なモデルが欲しければ、V8に電気モーターのプラグインハイブリッドパワートレインを搭載したSF90ストラダーレあるいはスパイダーという735kW(1000馬力)のモデルがある。伝統的な12気筒の後輪駆動クーペなら、24年5月に発表されたばかりの12(ドーディチ)チリンドリ。後席重視の4ドアだったらプロサングエ、というぐあい(どれも入手困難だけれど)。
ローマは操縦性もすぐれていて、カーブが続く道では軽快にひらりひらりと走るし、高速では高い安定性を発揮する。「2プラス」というシートアレンジで、前席背後には荷物置き場が確保されているのも使い勝手にすぐれる。
やたら目立つことなく、適度に控え目な存在感もよい。どんなひとがどんなスタイルで乗ってもよく合うだろう。
仕様も自分好みにできるのも魅力的だ。私だったら、幌はあえて黒。スパイダーのソフトトップの定石だ。英国人が持つ黒い傘と同じで、歌舞伎の黒子のように存在しないことになっているのだ。外板色は、くすんだ赤色のロッソアルファがいい。アルファロメオなどが戦前からレースカーに使っていた、イタリアのナショナルカラーだ。曲線が美しい車体によく合う。
でもこれはあくまで私の選択。ファッションと同じで、ルールはないと思っていい。どんなローマ・スパイダーに仕立てるか。自分なりの甘い生活のために、迷うのも楽しい。

小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。

Text Fumio OgawaEdit Takuya Chiba Katsuya KondoSpecial Thanks Ferrari Japan

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