Car with Styles by Fumio Ogawa

乗る楽しさを知れるエモーショナルな車 マツダ ロードスター

クルマを操る純粋な楽しさを
思い起こさせてくれる
小川フミオ

服には“着心地”という言葉があるように、クルマには“乗り心地”なる言葉がある。じつはこの乗り心地こそ、クルマでもっとも重要な部分なのだ。
マツダ・ロードスターは、それがわかっているひとに、ぜひ乗ってもらいたい。
読者のかたも先刻ご承知のとおり、いまクルマの潮流といえば、電動化。日本に入ってくる欧州車には、ピュアEVが増加中だし、デジタライゼーションといって、レーダーやカメラを使ったセンシング技術や、車内でネットフリックスを観たりオンラインゲームが出来たりする技術が進んでいる。
とはいえ(ここからが本題)、居心地のよいリビングルーム化がクルマの本質的な進化ではない、と思う。むしろ、それはそれとして、自分で操作する楽しさこそ、クルマの核のなかで大きな部分を占めていて、それが、大昔から現在にいたるまで、変わっていないのではないだろうか。
じっさい、自動車メーカーの開発者と話しをすると、「スチールとアルミニウムをボルトオンしたら、やっぱりしなやかな乗り心地にはならない」とか、「ダンパーの設定では、ハンドリングと、後席の乗り心地とのバランスの取り方にいまも悩む」とか、金属やゴムがかかわる部分の話ばかり。おそらく、1886年にカール・ベンツが内燃機関で走るクルマを実現させてから、技術者はずっと、同じ話題を話してきているはず。
マツダ・ロードスターの美点は、クルマの本質はファン・トゥ・ドライブにあると、ダイレクトに感じさせてくれるところだ。エアコンも効くし、足まわりもガチガチではないが、いわゆる快適性は、そこまで。


盛り上がったフェンダーや薄く細く見えるボディなど、伝統的なライトウェイトスポーツカーのシェイプを現代的に解釈したエクステリアデザインが美しい。全長3915ミリとコンパクトな2人乗りのボディに、97kWの最高出力と152Nmの最大トルクをもつ1496ccエンジン搭載。マニュアル変速機も選べるところが、やはりスポーツカーの文法に忠実と嬉しくなる。価格は「S」レザーパッケージ装着車で325万7100円。

装備はシンプルで、デジタライゼーションなんて関係ねーよ、ってかんじだ。そこがたいへんよい。クルマは、リビングルームでなくて、あくまでクルマ。ある地点から次の地点まで、どれだけ楽しく移動できるかが本質なのだって主張している。ちょっと古くさいところはあるけれど、回転を上げるにしたがってモリッと力を出してくれるエンジンや、ハンドルを切るとすいっと曲がってくれる操縦性や、風にあたって走れるフルオープンのボディなど、簡単な言葉を使うと、楽しい。
乗り心地っていうと、サスペンションのセッティングのことをさす場合が多いけれど、ロードスターで感じられるのは、まさに着心地に対して乗り心地。気持よくって、乗る人間をシアワセな気分にしてくれる。それに傍から見ていても、ロードスターに乗っているひとって、カッコいい。利便性に追われてクルマを買っていない。かといって、無駄にお金を使ってぜいたくさを追求していない。純粋にクルマを楽しみたいって思いが伝わってくる。つまり、たいへんエモーショナルなクルマなのだ。
こういうクルマを選ぶことこそ、いま必要なんじゃないだろうか。

www.mazda.jp

小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。

Text Fumio OgawaEdit Shohei Kawamura

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