Car with Styles by Fumio Ogawa
乗る人の数だけ違った表情を魅せる 長く愛されるジープの存在意義
米西海岸でジープが愛され続けてきた理由
小川フミオ
「米国西海岸にもっとも似合うクルマはなんだ」ということを考えたとき、答えるひとによって車種はそうとう多様になりそう。テスラというひともいれば、フェラーリのスパイダーモデルなんていうひともいそうだ。しかし、カリフォルニアといって忘れてはならないのは、ジープだ。ヨンクの代名詞のような4輪駆動車で、歴史は1941年にさかのぼる。ランドローバーの開発者もランドクルーザーの開発者も、悪路走破性の高いジープをお手本にした。いまもカリフォルニアとか、となりのネバダとかユタにいくと、ジープはやたら多い。特徴的なのは、乗るひとの数だけカスタマイズされた車両がある、といっていいぐらい、米国ではジープが楽しまれているということ。ドアもルーフも、ウインドシールドやフェンダーだって取り外せる。なぜそんなことが、というと、国立公園のようなラフロードを走るときに邪魔だったり、海辺などでは風に吹かれていたかったりと、やはりユーザーの多様な嗜好があるからだ。好みでカスタマイズできるから魅力が古びない。デニムやカウボーイブーツやネルシャツのような伝統的な米国ファッションを想起させる。同時に、「ラングラー・ルビコン4xe(フォーバイイー)」のように、ドライブトレインをプラグインハイブリッド化したモデルも登場(日本では2022年12月に発売)。時代に合わせてうまくコンテンツが新しくなっているのも、商品性につながっている。そもそもルビコンなるモデルは、2003年にジープ社内のハードコアなエンジニアが勤務時間外に集まって、“より本格的なラングラーを”という思いで完成させた、という物語を持つ。じっさいに専用開発のサスペンションシステムなどを持ち、カリフォルニアの名高い“悪路”ルビコントレイルから車名をとっただけあって、オフロードの走破性はとくに高い。4xeは外部充電式のバッテリーでモーターを駆動。もっとトルクが欲しいときから、住宅地をそっと走りたいときまで、あらゆる場面に対応すると謳う。エンジン排気量は、つつましいとつい言いたくなってしまう2リッターにすぎないが(6.4リッターV8仕様は北米では売られている)私が北米で試乗したかぎりは、急峻な岩場だろうと、力不足を感じる場面は皆無。これにはおどろいた。もちろん、高い走破性の背景は、エンジンだけでなくて、堅牢なシャシー、自由度の高い動きをもつサスペンションシステム、高効率の駆動力配分、グリップ力の高いタイヤなど、ゆたかな経験にもとづく蓄積がある。日本だとどこまで性能を引き出せるかわからないけれど、やるからにはどこまでも徹底的に、という職人の意地のようなものが、みごとなプロダクトを作り出していると感心する。北米ではピュア電動のジープモデルも登場し、これからの時代に合わせての商品開発も怠っていない。単に見せかけでない。説得力のある存在感。新しさと伝統とが共存している。これがジープの存在意義なのだ。
小川フミオ
自動車誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を経て、現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍中。雑誌やウェブなど寄稿媒体多数。
Text Fumio Ogawa | Edit Shohei Kawamura |