BIBLIOTHECA MVSIC

貴重なヴィンテージオーディオと 1万枚のレコードに酔いしれる店 [ビブリオテカ・ミュージック/リスニングバー]

座り心地のいいアンティークのチェアに合わせたというカウンターテーブル。店名に含まれるミュージックの表記は“MVSIC”と通常UをVにしている。これはアメリカ、マンハッタンにある有名なコンサートホール、カーネギーホールの入り口にある文字が“MVSIC HALL”と表記してあるところから影響されているという。
店主が長い時間をかけて集めた
オーディオとレコード

音楽の博物館の中で美酒を楽しめる。そんな雰囲気を持ったバーが那覇にある。レコードを聴きながらお酒を楽しめるミュージックバーは東京にも数多く存在するが、那覇で2年前にオープンしたビブリオテカ・ミュージックの魅力は群を抜いている。1万枚以上にも及ぶレコードが揃い、博物館級のヴィンテージオーディオの数々が置かれた店内。本物のミュージシャンのレコードを最高級のオーディオを通して楽しみながら、お酒を飲めるというこのお店は、音楽好きにとってまさに天国のような場所。

店主の前泊正人は、東京でサラリーマンとして働きながら、中古レコード店の新入荷コーナーをチェックすることを日課としていた人物だ。リタイア後、出身地である沖縄でこれまでに集めてきた音楽を楽しめるこのリスニングバーを始めたという。
「リスニングバーをやろうと思ったのはもう30年も前から。ずっと準備をしてきた」と前泊が言うように、ここにあるレコードやオーディオは、一朝一夕で集まるような代物ではない。

「レコードコレクターは基本的にオーディオには無頓着な人が多い。オーディオにお金をかけるくらいなら、1枚でもオリジナルのレコードを買いたいと思う方が多い印象です。そして、オーディオファンは、一般的に針やカートリッジ、アンプやスピーカーなどの機材を変えた際にどう聴こえるかのチェックをするためのリファレンス盤が手元に数枚あれば良しとする方々が多い気がしています。レコードとオーディオの両刀は少数派です。また、音を出せる環境も重要で、1フロアーで2ルームに3システム設置出来るこの場所が気に入り、故郷である沖縄でお店を始めたんです」。

Left ドイツ、シーメンス社製の通称“鉄仮面”と呼ばれるユニットを使用したスピーカーシステム。設計は1960年頃で、劇場や映画館の館内放送として使用されてきたもの。「低域と中高域が同じように出てくるように設計されたもの」だという。
Center エレクトロヴォイス社のジョージアンIVは、上部に仕組まれたホーンから中高域が、低域は横側から音が響き、まるでコンサートホールにいるかのよう。1953年にアメリカで発売。その横の棚に置いたターンテーブルはトーレンスTD125MKII。コントロールアンプはパラゴンオーディオ。CDプレーヤーはEMT986。テープデッキはナカミチRX303。
Right 前ページの写真に写っているメインの空間と廊下で隔てた別室には、大きなテーブルが置かれ、まるでリスニングルームのよう。壁の部分は一見タイルと思いきや、CDとカセットが埋め込まれており、リクエストをすれば試聴させてくれる。
最高の演奏を
最高の音響で楽しむ

マンションの2階部分にひっそりとあるこのお店は紹介制。だが、「シルバーの読者でしたら、事前に電話さえ頂ければいいですよ」と嬉しいひと言をもらった。靴を脱いで入店するとイギリスを中心としたアンティークのインテリア空間のなか、圧巻のレコードに加え、CDやカセットテープ、スピーカー、アンプ、ターンテーブル、オープンリールデッキなどの数々が目に飛び込んでくる。テーブルカウンターの両サイドに置かれているメインスピーカーは、ドイツのメーカー、シーメンス製で劇場の館内放送用に生産されたもの。夜が深まり、場の雰囲気が熱気を帯びてきた時に使用するのがアメリカ製エレクトロヴォイスのジョージアンIV。このスピーカーでアルゼンチンのベーシスト、“ホルヘ・ロペス・ルイス”のアルバム“B.A. Jazz by Jorge López Ruiz”のレコードを聴かせてもらうとまるで、すぐそこにバンドセットがあり生演奏をしているかのような感覚になった。その音質に圧倒される。レコード盤の溝に刻まれた音を最適な針でトレースする、その様子を見て本当に音楽を愛し、ミュージシャンの演奏を最高の状態のオーディオで人々に聴かせたいという純粋な気持ちを感じた。
「ここにあるレコードは、ジャズからラテン、ロック、ファンクなどなんでもあります。でも僕の好みをかけるというよりは、お客さんの層や会話を考えたり、飲まれているお酒の産地や銘柄にあった曲をかけることが多いです。そして、その曲を聴くのに一番適したオーディオで流すのがうちのお店の基本です。いろいろなジャンルのレコードがあるからこそ、1つのセットですべてをまかなうことはできません。かけるレコードの年代、国によってもそれぞれに合ったセットがあります。そういう組み合わせをしやすいのがヴィンテージオーディオの魅力なんです」。

別室に置かれたオーディオセットは、中高域のためにゼネラルエレクトリック社のユニットが設置され、エレクトロヴォイスの76センチのウーファーで低域を再現。ターンテーブルはガラード301。真空管アンプはマッキントッシュ240。
ここでお酒を飲むために
わざわざ来たくなる場所

こだわりは誰よりも強いが客に押し付けることは一切ない。2度このビブリオテカ・ミュージックを訪れたが会話好きな前泊が店にいる客をみんな巻き込んで、お酒を楽しみながら音楽を中心とした様々な話に興じるのが印象的だった。そして、このお店のお酒はというとラムやメスカル、ワインを中心とした品揃え。これも音楽との相性や沖縄の地だからこそのセレクトだ。「うちではジャズの次にラテンをよくかけるのですが、亜熱帯気候のこの地と相性が抜群に良く、曲とペアリングできる中南米のラムやメスカルが一層美味しく感じるんです」と前泊は話す。音楽と酒と場所、このペアリングを求めてこの店に多くの客が県外から集う。居合わせたほかの客は、「ここに来るために飛行機で那覇に来て、朝の便で帰る」と話していた。最終便で那覇に着き、荷物を持ったまま深夜にこのお店で飲み、近くのホテルで泊まって朝の飛行機で帰るという人も少なくないようだ。だが、全く不思議なことはない。なぜなら、ここまで良い音を聴きながらそれにあったお酒を飲めるバーは世界を探してもここ以外にないからである。

BIBLIOTHECA MVSIC
沖縄県那覇市松川 387-2
098-960-7967
@bibliotheca_mvsic
※来店前に電話で要確認。営業時間はInstagramで要確認。

Photo Yuto KudoInterview & Text Takayasu Yamada

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